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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第13章 7大文化圏会議と元服の宣誓
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7大文化圏会議と元服の宣誓 その13


ルルテが宣誓で述べた内容は、マレーン王国の銘に従って自身の決意を口にしたものである。ある意味、王族や上級貴族が元服をする時には、似たような口上を述べる。立場や、時節によっても内容が変わることはあるが、それだけマレーン王国としての銘は大切にされていた。


今回の宣誓も、もちろんルルテが1人で考えたものではなく、レンと宮廷の文官によって台本とした書かれたものがあり、それを口上として述べているに過ぎない。しかし、今回の宣誓で、実際に大使たちを圧倒した圧は、ルルテ自身が発したものである。

また、この口上自体にも元服する本人であるルルテの意向ももちろん反映されている。


『学を以って智を得』の部分は、無事に初等教育機関を卒業したことを云い、『人として術を得』の部分が、今までの王族の宣誓にはあまりなかったのだが、ガリンを『護士』としたことを指していた。

現国王には実子がルルテ1人しかいないため他の王族と比較することはできないのだが、実際に王族が元服前に晶角士を側に置くことは、今までにはない。やはり一般的には、護衛としての意味で軍角士がその任にあたるのが通例だ。ルラケスメータ王が同じ宣誓を行ったときには、この(くだり)は、『人として武を得』であったことからも、それがわかる。


逆に、『勇を得、いずれ覇に至らん』の部分は元服の旅で『勇』を示し、『覇』、つまり王になるという部分が、ルラケスメータ王の時には、『術を得、いずれ覇に至らん』となっており、マレーン王国の銘、『智武術覇』となるのであった。この場合の『術』は、ルルテの時のように文様術の『術』ではなく、治世術の『術』となる。本来は、これが正しい『術』といえる。


ルルテの場合は、『智術勇覇』となるため、自身の智とガリンの術を以って、元服の試練を乗り越え、王に至るということになるのだ。2人がこの説明をレンから受けた時、ガリンが漏らした一言は、


『私が治世に織り込み済みのような気がしますが・・・。』


だったのも仕方がないといえる。


それでも、『人』として『術』、なので特にガリンを特定するような宣誓ではないため、抜け道がないわけでもない。そのため、実はルルテは、口上を決めるその場では、『人』の部分を『片翼』とする案を熱望していたのだ。


『片翼として術を得』が、ルルテの提案の口上でだった。


これは、さすがに王もレンも許可が出しにくい。口上は全国民の公開されることもあり、これでは現時点で既に『片翼』が決まっていてそれが『術』なのであれば、ちょっと事情に詳しいものであれば、おのずと答えが導き出されてしまう。それこそ見知っているものであれば、もう誰でも『片翼』がガリンを指していることは明らかだ。異性で片翼、それは次期宰相が誰であるのかという問題にも波及してしまう。

ルルテは、相当な忍耐力を発揮してこの提案を何度も提案したのだが、やはり最終的には認められるものではなかった。結果、今の口上に落ち着いたという訳だ。


ルルテがもう一つ提案していた、


『ガリンの頭冠と腰帯の宝石をルルテの髪の色にあわせる』


ことに関しても、レン達も、特にルラケスメータ王が反対をしていた。

だが、先の『片翼』の件でルルテがあまりにも粘ったこともあり、頭冠と腰帯の宝石をルルテの髪の色にあわせることを認め、『片翼』の部分をあきらめてもらったという裏話もあった。

この宝石の色を合わせるという提案は、ルルテが涙をこらえて我慢しながら『片翼』に関する提案を繰り返す姿を見た王妃がルルテに耳打ちしたものであり、ルラケスメータ王も不承不承それに同意するしかなかったのだ。


『片翼』であれば、他国の大使たちが気付く可能が高い。しかし、将来を誓った者同士が宝石の色を合わせる慣例は、マレーン王国独自の文化であり、気付かない可能性も高い。仮に気付いたとしても


『見栄えを考えて、王女の髪の色に合わせたのだ。」


といえば、誤魔化しも利くだろうとの判断もあった。


ルルテの元服の宣誓が終わると、ルルテは大使たち向かって、スカートを摘み膝を曲げて身体を沈めながら優雅なお辞儀をし、そのままガリンにエスコートされながら小会議室への戻ったのだった。


ルルテが場から去ると大使たちからは、王女とルルテの宣誓に対しての賛辞が、ルラケスメータに対して一斉に寄せられた。

さすがに、苦い顔をしてずっと下を向いていたジャラザンも、この場で他の大使たちに合わせなければ、更に不敬罪にもされかねないと判断したのか、お世辞ばかりの拍手を送っていた程である。


そして、場が落ち着くと、再びエランが大使たちに向かって、元服の宣誓後の話についての話題に触れたのだった。通常であれば、大使たちに宣誓の立ち合いをお願いすることはあっても、その後の話は各文化圏にはほとんど関係ない話題ではある。それでも、エランは笑顔で説明を始めた。


「会議に参加してくれた大使の方々に伝えておきたいことがあるのだ。今日、皆さんの前で元服の宣誓を行ったマレーン王国 第一王女 ルルシャメルテーゼ・マレーン・ソノゥは、慣例に従い、春には領地の巡察を行うというものだ。」


エランが、ここで話を一旦区切ると、大使たちからどよめきが聞こえてくる。


「この情勢下で、王女を巡察にお出しになるのですか?」


レタン文化圏のウラマダ大使が驚いた声で問う。

何人かの大使がこの問いに頷く。


「ご心配、かたじけなく思う。しかし、これはマレーン王国の慣例であり、王女が元服し、今後文化圏の領主となるためにはどしても必要な旅となる。確かに今は文化圏間の情勢も変動しており、安全とは言えないかもしれない。しかし、だからこそ王女には実りのある時間となると信じているのだ。」


エランの言葉に、皆、沈黙する。


「そして、今回の巡礼には、王女には軍角士の護士をつけない。その代わりに、晶角士の護士を1人つけることとした。もちろん他にも最低限の人員は付けるが、その護士の養女と女官が1人、他にいても旅を円滑に行う斥候職を1名程度の最低限のパーティでと考えているのだ。」


再び、大使たちが再びどよめく。


「宰相殿。それは、このような情勢だからこそマレーン王国は、戦時下に護士とするような軍角士を同行させないということでしょうか?それでは、あの幼い王女が政治の道具にされているということと同義ではありませんか?」


今度は、ウェンザ文化圏のエトランゼが、怪訝な顔をして声をあげた。

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