7大文化圏会議と元服の宣誓 その11
顔を歪めているジャラザンを無表情のまま横目で見て、エトランゼは、
「既に、マレーン文化圏を含め、我々7大文化圏は後手に回っているのです。マレーンがそれを抑制する新技術を提供してくれるのであれば、積極的に活用して自衛をするしかないのですよ?」
と、一気に畳みかけた。
各文化圏大使も、これには賛同の声をあげる。
エトランゼは続ける。
「そもそも、この場ではっきりさせればいいのです。クエルス大使のジャラザン殿、新たな次元文化圏の発見についてはどうなのですか?」
ジャラザンの目が泳ぐ。もっとも訊かれたくない質問である。
「クエルスで新しい文化圏が、いや、そんな話は、わ、私は、知らない。」
しどろもどろにジャラザンがなんとか言葉をつなぐ。
「あなたが知っているかどうかではないのですよ?はっきりとお答えください。」
「な、なにをだ?」
「クエルスでは、新しい次元文化圏を見つけた、あるいは再接合に成功したなどの事実はないのですね?『はい』か『いいえ』でお聞きしたいのです。」
エトランゼは追及の手を緩めない。
エトランゼにとっても、この場でウェンザ文化圏が疑われたままというのは非常にまずい。
もともと、エトランゼは大使の任に就くような経歴ではない。
護衛についている剣歯虎は、ウェンザの軍人が小さい時より一緒に育ち、お互いを認めているからこそ、護衛となりうるのだ。つまり、この時点でエトランゼは軍人、あるいは軍人だったのは確実なのだ。きな臭い情勢だからこそ選ばれ、万が一には武力を行使してでも情報を持ち帰る。そんな理由でここに座っているのである。その自分の文化圏が槍玉にあがるなど承服できるわけがない。
エトランゼが、剣歯虎に視線を送ると、剣歯虎はジャラザンの後ろにゆっくりと移動し、その息を吹きかける。本来の7大文化圏会議ではこのような暴挙は許されるものではない。
しかし、今は、ジャラザンの返答を、マレーン王国も、すべての大使も聴きたいのだ。
誰もエトランゼを責めるような者はいなかった。
ジャラザンは、
「ひっ・・。」
短くを悲鳴をあげると、
「知らない。『いいえ』だ。」
そう吐き捨てた。
その瞬間、大使を覆っていた結界が薄く赤色に変化する。
全員が上を見上げた。
「ウェンザ大使よ。もういいだろう。護衛獣を下がらせてはくれまいか。」
マレーン国王 ルラケスメータが、エトランゼに静かに声をかけた。
エトランゼは、
「承知いたしました。」
軽く頭をさげ、剣歯虎に視線を送る。剣歯虎は、一度だけ大きく、
『ガウッ』
と声をあげると、ゆっくりとエトランゼの元に戻っていった。
マレーン国王が再びエトランゼに頷き、口を開く。
「クエルス大使殿。結界が反応しておるようだが、この7大文化圏会議の場で虚偽の発言をするとは、我が国も軽く見られたと、そう判断をしても良いのか。」
全員が沈黙したまま、ジャラザンの答えを待つ。
まあ、レンだけは、
『この場にあやつがおったら、どんな方法で虎と意思疎通をしているのかだろうか』
等とそれに興味が向いてしまい、残りの会議は聴いていないんじゃろうな・・・と場違いなことを考えていた。まあ、実際、後でこの話をガリンにした後、レンは質問攻めにあって難儀するのではあったが。
王の問いに、ジャラザンは、
「そんなことはしていない。あくまでも知らないと答えたのだ。私は聞いていないのだ。」
と、必死に弁明をする。誰の目にも、滑稽に移るほど狼狽えながら必死に言葉を紡いでいる。
もうその態度こそが『答え』なのだが、本人は気付いていない。
「聞いている、聞いていないでないでしょ?事実があるのかないのかだよ。ジャラザン殿。」
今度は、エランがジャラザンを問い詰める。
誠実の結界は、あくまでも本人が
『これが虚偽の発言である』
と、はっきりと感じているものにのみ反応をする。逆に言えば、本人が嘘でもそれを真実だと信じていれば反応はしない。ジャラザンの言葉をそのまま判断するのであれば、
『聞いていない。』
これは、真実なのだろう。結界は反応していない。しかし、
「事実がない。」
に関しては、結界が反応する限り、明らかに本人は『事実がある』と知っているのだ。
つまり、ジャラザンは、正式なルートでは聞いていないが、事実としては知っているのだ。
大使たちも馬鹿ではない。エトランゼの質問を仕方をみても、この結界を利用しているのは間違いない。
ジャラザンがそれ以上の言葉を発することができないでいると、
「クエルス大使殿は、この場ではこれ以上は話をしてくれる気はないらしいですな。大使殿方、どうだろうか。会議解散後にジャラザン殿には、このまま客人としてこの城に留まってもらい、引き続き話を聴かせていただくということではどうだろうか。」
エランが、大使たちに向かって、そう問いかける。
「そ、それは内政干渉だ!」
ジャラザンがたまらず声をあげる。
エランは、構わず言葉を続ける。
「では、挙手で決を取りたいのだが、大使方もそれでよいだろうか。」
その言葉に、ジャラザンを除く全大使が首肯した。




