7大文化圏会議と元服の宣誓 その10
ジャラザンが少しだけ口元を緩ませた。
「会議の初めに一国の王がわざわざ謝罪を口にしたのだ。あの惨劇はこの国の防犯体制がなっていないからこそ起きたのではないのか?しかも、首謀者である次元人には逃げられたというではないか?その対策で、通行手形の代わりとなるような物としてやむを得ず生み出された技術というだけではないのか。」
ジャラザンが、立ち上がり手を広げ、
「各大使の方々の、そうは思われませんか?」
そう場に問いかける。
「確かに、責任がないとはいえないな・・・・。」
「この技術があれば逃がすこともなかった、という言い訳にも聞こえないこともない。」
など、ポツリポツリとそんな言葉が聞こえ出す。
「そうでしょう?まずは責任の問題も話し合ったうえで、賠償として新技術を堂々と要求すればよいのではありませんか?」
ジャラザンの顔には相変わらず余裕はなかったが、とにかく全力で語った。ある意味、もっともではある話だ。大使たちを味方にできる可能性もある。
会議の冒頭で王とエランが上手く話を逸らしてはいたが、マレーン王国の生誕祭で招かれた各文化圏の重鎮が命の危険にさらされたことは事実である。
問題を文化圏全体の危機とし、それを回避するために新技術を提供することにより、責任をうやむやにする、そんな意図がマレーン王国側にもあるのだ。
ジャラザンの言葉に反応し、頷く大使たちも現れ始める。
「クエルス大使殿の言うことを否定はしません。だからこそ、クエルス大使、ジャラザン殿には個別に貴国に所属していた次元人の情報の開示をお願いしたいのです。」
エランが切り返す。
ジャラザンとしては、痛いところである。なぜ、あの時クエルス所属のまま参加させてしまったのか悔やまれるが、時は戻せない。それに、そもそも生力石の出生情報は簡単に書き換えることもできないのだが、やはり悔やまれる。少ないが、手勢には晶角士も居たのだ。
「もちろん、協力致しますとも。何か犯人たちを捕まえるために証拠となりえるものなどがあれば、情報の開示もお願いしたいものですね。」
ジャラザンも頭をフル回転させて食らいつく。
「証拠ですか。後でお話しようと思っていたのですが、実は、事件で爆発を引き起こした元力石が、1つ残っておりましてな。分析をさせておったのですよ。」
ジャラザンの目が細くなる。
「で、この元力石ですが、惑星空間技術と、次元空間技術が融合しているものらしく、惑星空間と次元空間、両方の領地を持っている文化圏でつくられたものではないか、ということなのです。」
エトランゼが、一瞬、ほんの一瞬だけ目を大きくした。
『これが、私がこの席の理由か・・・。』
ようやく、自分の文化圏も疑われているのだと合点がいった、というところだろう。
確かに、7大文化燃で両方の領地を有しているのは、ウェンザ文化圏だけである。
「その分析に、間違いはないのですか?」
エトランゼが会話に割って入る。
「先程の新技術を開発した晶角士が分析も担当しており、確度はかない高いと考えているのだ。」
エトランゼは、内心で舌を打ちをする。
『このための、新技術の公表なのか・・・。高い技術力を見せて、その元力石の分析の正確性を同時にアピールするとは。この狸親父め・・・。』
「確かに、それなら信頼はできる分析なのかもしれませんね・・・、」
せいぜいぼやかす程度しか、今出来ることはない。
大使たちも、少しざわつき始めている。
ジャラザンは、自分から目が逸れたことを素直に喜び、安堵の表情を浮かべる。ウェンザはそれを見て、より自身の焦燥感を掻き立てられたが、下手な言い訳は悪手だ。静観するしかない。
場が静まったのをみて、再度エランが口を開く。
「いや。何もウェンザ文化圏が関与しているとは思っていない。そんなあからさまなことをするほど、馬鹿でもあるまい。そうだ、ジャラザン殿、丁度お聞きしたいことがあったのだが、よろしいかな?」
再び、ジャラザンに話を振る。
話の流れから、少しだけ余裕が出てきていたジャラザンは、笑みを浮かべながら無言でうなずいた。
「実は、うちの調査では、ここ最近クエルスに多くの次元人が流入しているという情報があるのですが、まさかとは思いますが、新しい次元空間などを発見したりはしておりませんかな?」
ジャラザンが笑みが一気に硬直した。
「い、いや、なんのことだろうか?」
明らかに狼狽している。
「いや、その数が旅行者程度ではなく、移民ともとれるような数だと聞いているので、気になったのですよ。」
今度は、エトランゼが狐に抓まれたような表情を浮かべた。
エトランゼが笑みを浮かべた理由は、エランの狙いが分かったからである。エランは心の中で、
『これが言いたかったのか。確かに惑星空間、次元空間の両方の特性を持ち合わせた元力石は、実際に2つの空間を保有していないと彫ることはできない。意思放射の仕組みが違うからだ。爆発というのであれば、すぐにばれないように起爆以外の文様を次元空間で掘り、起爆だけを惑星空間技術で刻めば、持ち込みの際にもバレにくい。だからこそ、両空間を有しているウェンザが疑われるのだが、クエルスが新たな次元空間を見つけているのであれば話は変わってくる。そして、ウェンザでも同じように、クエルスにおける次元人の増加が報告としてあがっている。私は噛ませ犬にされたのだ。』
と、理解したからだ。
「なるほど。実はクエルスから、次元空間を保有している3文化圏で結んでいる、『次元文化圏同盟』への打診があったのですが、そういうことでしたか、新たな次元空間を・・・。」
次元文化圏のみで構成されているコンヌ文化圏のデドローが、得心がいったいうように小声ででつぶやいた。
「うちにも来ておりな。その打診。」
更に、同じく次元空間で文化圏を構成している、ノール文化圏のネノラスが続く。
一気に、会議の場が騒然とする。
その時、エトランゼが連れている剣歯虎が、大きな咆哮をあげた。
全員の目が、虎に釘付けになる。注目を浴びたエトランゼは、
「各文化圏の大使よ、新たな文化圏の発見は、即時に報告、をするのが規約となっているはずです。小声でつぶやいてどうするのですか。明確な同盟の規約を違反をしている可能性があるのですよ?」
ウェンザに傾いていた天秤を一気にジャラザンに傾ける。
「そもそも、我がウェンザにのみその打診が来ていないのは、我が文化圏を犯人に仕立て上げるそんな密約でも交わしていたのですか?」
エトランゼが続ける。顔は微笑んでいるが、目が一切笑っていない。
コンヌもノールも下を向いて黙ってしまった。
ジャラザンに至っては、もう可哀想なほどに顔を歪め狼狽していた。




