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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第13章 7大文化圏会議と元服の宣誓
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7大文化圏会議と元服の宣誓 その9


エトランゼが面白かったのは、エランが『付随するような情報を持っておられる方』と、全大使を対象にしたような言い方をしながら、その実、クエルスだけをその標的にするその話の持って行き方だ。


『さすが、マレーン王国だ。人材が豊富だ。ジャラザンは苦しいな』


エトランゼにとっては他人事だが、実際ジャラザンにとっては死刑宣告にも近い。どんな情報を要求されるかはわからないが、周到に用意されているのは間違いない。実際、各国大使もあからさまにジャラザンに視線を向けている。


「まず、これは皆さんも知っておられる方もいるかとは思いますが、今回事件を起こした首謀者の1人と目されているミーネルハスという次元人は、クエルス文化圏所属の剣士として闘技大会に参加している。そうですね、クエルス大使殿。」

「そうだ。生力石の情報は偽ることが出来ない。闘技大会登でミーネルハスなる次元人が登録時に使用した登録情報は、クエルスのもので間違いはない。」


エランの問いに、ジャラザンが苦しそうに答える。


「そのおっしゃりようだと、ジャラザン殿は、そのミーネルハスという剣士を知らないのですか?」


ノール文化圏のネノラス大使が質問を挟む。


「一人一人の国民を知っているわけではないのだ。」

「しかし、我がノールであればそうでもないでしょうが、、惑星空間しかないクエルスで、しかもかなりの手練れだということであれば、面識があってもおかしくないのではないですか?」

「まあ、それは・・・。」


ジャラザンが言葉に詰まっていると、エランが、


「クエルスは、マレーンに続いて2番目に多くの文化圏を所有しているでしょうし、1人1人を覚えていなくてもしょうがないでしょうな。その点は、こちらの調査である程度はわかっておりますので、こちらでお答えしましょう。」


ジャラザンの言葉を遮るように、エランの言葉をかぶせる。

ネノラス大使も、エランに向かって軽く頭を下げた。


「実は、そのミーネルハスなる次元人は、クエルス大使ご本人の推薦状を持ったうえで闘技大会に参加されているのです。そして、闘技大会前日には、クエルス大使殿と直接お話をされているようでもあります。これは我が国のイタバンサ卿が確認をしております。ですよね?ジャラザン殿。」

「・・・。」


わざわざ、『ミーネルハスなる』の部分を殊更強調したエランの言葉に、ジャラザンが言葉を失う。

諜報部が、とは言ってはいないが、イタバンザ卿がマレーン王国の諜報を司る部署の長であることは、ここにいる大使たちは知っているのだ。ここで表に出す以上、その情報の確度は疑うべくもない。


「ネノラス殿、回答には足りましたでしょうか?


エランの念押しの問いに、ネノラス大使は、


「ありがとうございます。」


とだけ返答した。


「まあ、ジャラザン殿も、一剣士など、それほど深い既知ではなかったのだろうが、今後は軽々しく推薦状など出さないでいただけると助かるわね。」


レタン文化圏のウラマダ大使が、あざ笑うかのような声でジャラザンを非難した。

商談の時には、それなりに効果があったと思っていた、ノールとレタンが完全に敵に回っている。

ジャラザンにとってもは、どんどん逃げ道がなくなっていくだけである。

場を楽しそうに眺めていたエトランゼは、


『出来レースなのか』


と、逆に訝しんだが、すぐに、


『いや、保身に必死なのだ』


と考え直し、


「今、ここで犯人捜しをしても意味はないのではないでしょうか?ジャラザン殿も、レタン大使がおっしゃったように、便宜上自国の剣士に推薦状を出しただけでしょうし。何か再発防止のご提案でもあるのかしら?それと他に教えて頂ける情報があるのであればそれも知りたいわ。」


場に、提案を告げる。

エトランゼも会議前の商談ではジャラザンからは、それなりに色々と積まれている。まあ、このぐらいの義理は果たしても良いだろうと、当たり障りのない提案で話を逸らしたのだ。

まあ、このぐらいの援護ではジャラザンにとっては、どれほどの助けになったかはわからないが、今度は、ジャラザンを含めすべての大使が大きく頷いた。


「そうですな。クエルスの話はまた後にしよう。対策も必要でしょうしな。」


エランは、さりげなくクエルスの名前をwざとらしく話に混ぜてから、エトランゼの提案を受けれた。

この執拗さには、エトランゼも苦笑いを浮かべるしかなかった。

エランからの提案は、


『今後このような事件が起きないように入国審査の厳格化を』


というものが提案が中心であり、具体的には、


『各文化圏、都市への移動を生力石の個人情報の確認だけではなく入出国等の履歴情報を、通行手形にて管理する』


というものだった。


確かに生力石には所属する国やその身分などが情報として蓄積されているが、公的な身分を証明するものはその色だけであった。また、その身分を表す生力石の色も文化圏により異なる。これでは、個人の管理は出来ても、移動や目的などは把握が出来ないし、万が一の場合の移動の履歴なども追うことが出来ない。この移動の履歴だけでもわかれば大変な抑止力にはなる。


ちょっと聡いものであれば、この提案には決定的な技術的な問題があるのもすぐにわかる。

たとえば、生力石の最も汎用的な使用方法は財布であり、または光浴による生体調整だろう。もし、その提案を実現しようとすると、最低でも移動の履歴と目的を情報として関所ごとに生力石にその追加する必要があるのだ。これは、金銭の入出金と同じぐらいの水準で一般化された手法で生力石への新しい情報を追加する技術が確立されなければならない不可能だ。それほど簡単に出来るとは思えない技術なのだ。

金銭の履歴であれば、単純に加算減算の結果が解ればいいが、入国、越境の情報はその履歴こそが大切である。情報の置き換えではなく、追加だ。文様術においてはこの差は大きい。


「もともと蓄積されている情報以外の情報を、どのような方法で生力石に記憶させるのですか?どこの国でも、関所や入国の検問所に晶角士を配置する余裕などないと思いますが?」


エランの話を聞いたコンヌ文化圏のコドロー大使がその疑問を口にする。


財布であれば、店側が残金を読み込んで、それに減算する数字を元に残額を自動計算し、それに置き換える。生力石との情報伝達は、双方向で1回だけだ。つまり、倉庫の所定の場所に格納されている箱のラベルを書き換えればいいのと同じだ。しかし、履歴の書き込みは違う。今ある箱の横に、次の箱を格納する場所を確保し、さらにそこに新しい箱を運び入れる作業となる。その工程は圧倒的に多い。前者は、固定の文様術で実現可能だが、後者は本来であれば晶角士の存在が必要になってしまう。だからこそのコドローの疑問なのだ。

問題は技術的部分だけではない。コドローの疑問に続いて、


「そもそも履歴だけを記録しても、犯罪抑止にはならないのでは?」

「貴族位のあるものの、お忍び旅行などはどうするのだ?」


等と、大使たちから疑問の声が、次々とあがったのだ。しかし、エランに慌てた様子はない。

エランは、一度軽く手をあげ大使たちの質問を制すると、


「まず、生力石への追加情報の記録ですが、このような木片を利用します。」


そう言って、手のひら大の木片を掲げて見せたのだった。


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