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マレーン・サーガ 祝1.6万PV達成  作者: いのそらん
第2章 叙勲式
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叙勲式 その4 不穏の影


 娘の抗議に対して王は、目を細めて見つめたが、そのまま話を続けた。


「そなたには、娘の居室の向かいに、部屋を用意させた。近いうちに荷物を移し、正式に護士の任に就いてもらいたい。そちの希望を出来るだけ適えたつもりだが、ゆくゆく自分で、希望に合わせていくがよかろう。

 今日は、生誕祭でもあるし、急ぐことはないが、まだ城内には不慣れだとも思う。我が娘に、城内の案内をかねて、部屋を案内させることにするゆえ、よろしいか?」


 王から、可否を問われるなど、なかなか無いことである。

 さすがにガリンも、驚いた表情を一瞬浮かべたが、


「仰せのままに。」


 即座に答えた。


「ガリエタローング。我々は家族だと言ったはずだ。そう緊張せずともよい。」

「はっ。」


 王の問いに答えた、ガリンは、相変わらず眉を寄せていた。

 一方、急激な話の展開に戸惑ったルルテが、ようやく重い口を開いた。


「お父様・・・。」

「何か、所用でもあったのか?我が愛する娘よ」


「いいえ。お父様。しかし・・・。」


 娘が話し終わる前に、王は、若い晶角士に視線を戻し、娘の言葉をさえぎるように、


「では、娘をよろしく頼んだぞ。また何か問題があった場合は、娘付きの女官に言ってくれ。」


 と、ガリンに声をかけた。

 ガリンは、視線を一瞬だけルルテに向けた後、


「わかりました。」


 とだけ、返答をした。

 ルルテは、依然として何か言いたげな表情を浮かべていたものの、自分の父親が決めた事であれば、逆らう術がないことも熟知していた。


 あきらめたように席を立つと、視線を合わせぬままガリンを手招きをし、


「護士よ。参るぞ。」


 と、小さな声で言った。

 ガリンも、ゆっくりと立ち上がると、その場に残った3名に軽く会釈をし、すでに歩き始めた少女の後を追った。


 席に残った3人の会話は、しばらくの間は、ガリンやルルテの話で盛り上がっていたが、自然に叙勲式での話へと移っていった。


「しかし、陛下。叙勲式で、我らが天才晶角士を宮廷護士に任じたときの諸文化圏の大使達の顔、見ものでありましたな。」


 エランは、酒を含んだような笑みを浮かべながら言った。


「ふむ。しかし、よかったのですかな?あの場で、わざわざ任ぜなくても、慣例通りに、『そなたの忠誠うれしく思う。追って沙汰を待つがよい』とでも、いっておけばよかったのではないかの?」


 せっかく和んだ場である、途中王の声色を真似て、いくぶんか茶化すように、レンも王に尋ねた。

 王は、肘を卓につくと、少しだけ沈んだ声でレンの問いに答えた。


「確かに、それでも良い。だが、2人も知っての通り、今年の生誕祭、すでに大使の派遣を見送った文化圏もある。それに、臨席していた大使達も、去年の顔ぶれとは著しく異なっているというのが実情だ。

 経験の豊かな大使を派遣しない理由・・・1つしかあるまい。

 我が文化圏は大きい、大きいゆえに何事にも準備が掛かるのだ。

 だが、娘の身にだけは、万が一もあってはならん。なんとしても、すぐに戦争をするわけにはいかないのだ。

 それ故、あの若き晶角士には、結果的に重い責務を与えることになってしまったが、晶角士の叙勲、そして護士の任命は、我が国の力を他の文化圏に示すことになる。そしてそれは明確な抑止力となるものなのだ。」


「あの者は、重荷など感じていまい。ただ、もともとの話の通り、あの場でなくとも、時間を置いての公示でもよかったのではないか?」


「だがな、レン、この生誕祭、他の文化圏からも多くの人間が、国に入ってくることとなる。前の晩、ルルテの事を考えながら、エル(現王妃)とも話あったのだ。護士の任命は、早いほうがよい。

 護士でもない人間を、いくら保護のためとはいえ、常に娘に同行させるわけにはいかんのはわかるであろう・・・。」


「では、陛下。この生誕祭中にも、事が起きると?」


 会話に割って入ったエランの声には、さすがに緊張の色があった。


「いや、彼らもそんなには事を急ぐとは思えないのだが・・・。

 念には念をいれたいのだ。

 昨日、あの晶角士が、腕がたつと評判の軍角士を一瞬で打ち負かしたのを見てな。あの者が付いておれば、エルも安心するのだ。もちろん私もだ。

 私も王である前に、父親でもある。」


 王は、一息ついて、話を続けた。


「それとな・・・、エラン。来年の生誕祭はどうなるかわからん。また、娘も急ぎ元服をさせねばならん。それは限られた時間とはいえ、あれが街に降りることも意味しているのだ。出来るだけ安全な内に事を運びたいのだ。

 それゆえ、今年は十分に生誕祭を楽しませてやりたいのだ。

 女官達には、娘達が部屋に戻ったら、出かける支度をさせて、街に送り出すようにいってある。」


 話を聞き終えると、


「わかった。だが、今度は、何かする前にちゃんと相談をしてくれよ。私もレンももう年だからな。心臓に悪い。」


 一国の王、そして一児の父親、前者はさておき、親の気持ちはエランにも痛いほどわかる。

 もうエランの声から、緊張は消えていた。


「しかしな・・・。」


 レンがつぶやく。


「どうした、まだ何か問題があるのか?」


 と、エラン。


「いやのぉ。あのガリンがな、姫様の世話をしながら、街見物などとは、想像も出来まいて。いや、その様を想像するとおかしゅうてな。」


 そう言うと、レンは再び声をあげて笑った。


「確かに。」

「なるほど。」


 王とエランは、同時に頷くと、今度は2人とも、レンにつられるようにして笑った。そしてエランも、さも面白そうに


「あの2人にとっては、最初の冒険になるわけだ。ぜひ帰ってきたら、2人の冒険談を肴に、楽しくいっぱい、やらねばなりませんな。

 それに若き護士が、いくら優秀だといっても、こと女性の扱いにはまだまだ若輩というもの。若者には学ぶ事が多々残っておるということですな。」


 食卓の上には笑い声のみが残っていた。


 時は、マレーン次元文明暦12年 第3力期7日目である。


誤字脱字の修正。2026.2.9

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