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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第12章 ルルテとレイレイの剣術訓練
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ルルテとレイレイの剣術訓練 その8


素直に忠告を消化する姫様の様子に、ストレバウスは満足した笑顔を浮かべ頷くと、次はレイレイに視線を移した。


「レイレイ殿の膂力は素晴らしいですね。どれほど鍛えても人であればあそこまでの力を持つことはかなわないでしょうな。詳細をすべて知らされている訳ではありませんが、あの力は今後も本人のものとしていつでも発揮できるものなのですか?」


レイレイに微笑み、そしてガリンに尋ねる。


「あ、そうですね。外見から既に秘匿する必要がありませんので衛士殿は伝えておきますが、レイレイは少なくとも半分は竜種の肉体を持っているのです。」


それを、聞いたストレバウスは、


「何かあるなとは思っていましたが、竜ですか!それなら確かに。で、あれば身体が成長すれば、もっと大きな、それこそ身の程の大剣でも楽々扱えそうですね。」


目を丸くしながら感嘆の声を漏らし、


「では、レイレイ殿は、まずは剣の基本動作等、基礎を学ぶこととしましょう。基礎は、身体の成長に合わせて他の武器に変えたとしても必ず必要になる大切なものですし、その身体能力なら応用も効くでしょうし。」


そう方針を口にした。

ガリンも、


「お願いします。」


との首肯で返した。


「ところでガリン殿。レイレイ殿はまだ満足に会話をすることが出来ないようですが、こちらの話はどの程度理解をしているのですか?伝えてわからないようであれば、剣の鍛錬そのものが難しく感じるのですが。」


もっともな疑問である。

ガリンは、


「心配はしなくて良いと思います。確かに単語としては、まだ数語しか発語できませんが、私たちの言うことは、ほぼ完全に理解していると思って構いません。」


と、素直にストレバウスに現状を説明した。

すると、ストレバウスは、


「レイレイ殿。では、私がやるように、剣の柄頭ではなく、つまり剣の先端の部分ではなく、握りのこの部分をしっかりと握ってもらえますか。今後は剣を持つときはその部分を握って欲しいのです。」


実際にストレバウスの持つ剣で見せながら、レイレイに話し掛ける。

レイレイは、自分の剣とストレバウスが実際に掲げている剣の握り方を見比べて、すぐに同じように剣の握りの中ほど、元力石が埋め込まれている辺りを握り直したのだった。


ストレバウスは、もう一度、レイレイに大きく微笑み返すと。


「レイレイ殿。その通りです。ありがとうございます。」


と、褒めた。レイレイも、褒められたのが嬉しかったのか、笑顔で、


「はい。」


と返事を返したのだった。

ジレが、


「まあ。」


と、口に手を当てて驚いたので、ストレバウスがジレに顔を向けると。


「あ。すいません。『はい』と返事をするのも、実は稀なのです・」


と驚きの内容を説明した。


「そうですか。これからの成長が楽しみですね。姫様に加え、もう一人娘が出来たようでやりがいがありますな。」


そう、ストレバウスが豪快に笑った。

ガリンは、こんな楽しそうなストレバスをみるのは、ここに住み始めから初めてかもしれないと思いながらも、頼もしいとも感じ、安堵するのだった。


そうやって、方針が決まると、あとは実際の鍛錬である。

ストレバウスによると、今日はこれで終わりで、明日までに訓練メニューを作成するので、それに従って訓練を開始するとのことだった。

まさかその訓練内容が、ルルテにとっての地獄の鍛錬となるとは、この時点では誰も想像もしていなかった。

そして、翌日からストレバウスが作成した訓練メニューに従って、ルルテとレイレイの訓練が開始されたのだった。


まずルルテの訓練メニューは、至ってシンプルなものであった。


・両腕、両手、背筋、腹筋、両脚の筋力トレーニング

・体全体の関節のストレッチ

・体力向上のための走り込みによる、心肺機能の向上


の3つであった。

次に、レイレイの訓練メニューは、


・剣の型稽古

・ストレバウスとの打ち合い


の2つであった。


ルルテの訓練はジレが担当して、レイレイはストレバウスが担当となっていた。


ルルテは、ストレバウスから渡された、1日の訓練メニューをみて青ざめていたが、全ての訓練メニューをこなしてジレにサインをもらわない限り、午前も午後も訓練を継続しなければならず、やるしかない状態に追い込まれしょげてしまったが、どちらにしても基礎的な体力がなければ、王都を出て旅に出ることなど出来ない。また、実際に王都を一歩でも出れば、とっさの時には自分の身を守るぐらいは出来る必要もある。巡察の旅にでる、出ないに関わらず、王族であればこれは力を付けることは義務であり、避けては通れないものでもある。ルルテも受け入れざるを得ない宿命であるのだ。

それに、剣技を学ぶということは、敵と命のやり取りをすることに他ならない。守るにせよ、奪うにせよ命が関わっている問題であり、ストレバウスもジレも、甘い訓練を行うことはできないのだ。それもかなり厳しく管理をされても文句も言えないのだった。


また、ルルテはこの時初めて知ったのが、さすが巡察の旅のお供に選ばれるだけはあり、ジレが実際には体力も柔軟性も、またそれを生かした戦闘能力、更には元力石の使い方も熟練しており、まさに戦メイドと呼ぶにふさわしい能力の持ち主であることだった。その後、ルルテはジレに口答えする回数がめっきり減ったと減らなかったとか・・・。


まあ、そんな厳しい監視の中訓練を始めた初日の夜から既に筋肉痛が始まり、メニューを全てを1日こなせるようになるまでにはそれなりに時間がかかったのだった。


一方、ストレバウスから剣技を型を教わっているレイレイは、その才能を輝かせていた。

体力、筋力、柔軟性が共に高いレベルで完成されているだけではなく、野生の勘といったらよいのだろうか、とにかくあっという間に型を覚え、ストレバウスと本気で打ち合えるようになったしまったのだ。


ある程度剣の型を覚えたころには、ガリンがレイレイ用に調整した、硬度、重さ、鋭利化の3つの元力石を埋め込んだ剣に変わり、その使い方についてはガリンが直接教えながら、急速に力を付けていったのだった。


レイレイが、ストレバウスから剣の型を指導してもらっている時はまだよかったが、元力石の効率的な使い方の段階に入り、ガリンがレイレイに掛かりきりになったときには、ルルテが自身の筋肉痛と嫉妬でい1日中機嫌が悪く、ジレが良くセルに愚痴をもらしすことになったのは思わぬ副作用ではあったが、それでも、ルルテが一通りの訓練メニューをこなせるようになり、その身体には12歳なりではあるがしなやかな筋肉が付き、柔軟な関節を手に入れ、レイレイがストレバウスとほぼ互角に打ち合えるようになった頃には、訓練を始めてから既に3か月ほどの時が過ぎていたのだった。


その頃、王都、特に王城では、開催が迫っている7大文化圏会議と、マレーン王国全国民に対しての、王女の元服の宣誓の日が迫っており、慌ただしい雰囲気に包まれていた。


時は、マレーン次元文明暦13年 第3力期の終わり、毎年秋に行われる7大文化圏会議を目前にした夏の終わりの1日であった。


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