ルルテとレイレイの剣術訓練 その5
レイレイ驚愕の発言からの翌日。
ガリン、ルルテ、レイレイ、世話役としてジレ、そしてストレバウスが庭に集まっていた。
ストレバウスが、4人に頭を下げ、直礼の姿勢を取る。
ガリンとレイレイは、何のことかわからず、ストレバウスに視線をみて驚いたが、ストレバウスは直礼の姿勢を崩さない。
すると、ルルテが一歩前に出た。
「ストレバウスよ、楽にして構わぬ。我と娘に剣術を教えるのだ。無礼講で良い。」
そう、告げた。
それを聞いて、ようやくガリンは合点がいった。ストレバウスは、王族であるルルテに許可を待っていたのだ。そういうところの判断は、ルルテはさすがだ。帝王学をしっかりと身につけていると云える。
「姫様、ありがたき幸せ。本日より剣術の指南をさせいただきます。」
そう、再度最敬礼で腰を折った。
「うむ。よろしく頼む。」
ルルテが、再度ストレバウスに声を掛けた。
それに合わせて、ガリンとレイレイも急いで頭を下げる。ストレバウスは、それを見て少し笑みを浮かべてガリンに顔を向け、
「ガリン殿、どころで姫様とレイレイは、武器は何が良いのでしょうか?さすがに、衛士が使うロングソートは難しいと思うですが。」
そう尋ねた。
ガリンは正直武器の事などよくわからないのだが、以前、軍角士と闘技場で試合をしたときの剣が、おそらくロングソードなのだろうことはわかった。木製とは言え、長く、それなりに重い。元力石で重さ軽減の効果を得られるといっても、自由に振り回せるものではないだろう。
ガリンが悩んでいると、
「ガリン殿。姫様もレイレイ殿も、まだまだ身体は成長途中。腕の長さを考えると、短剣やショートソード等ではいかがでしょうか?」
そう言って、あらかじめ用意していただろう、2つの木剣を見せてくれた。
それを見たルルテが、
「ガリンよ。そんなおもちゃみたいな剣で大丈夫なのか?ほらお父様の王座の後ろにあるような・・・」
そう残念そうな声をあげた。
「ルルテ。確かに王座の後ろの壁には、先史文明由来の鋼鉄の剣が掛けられていますが、今は鋼鉄製の剣など無いですし、そもそもこの木剣は、元力石で強化されております。重たいだけの鋼鉄剣よりもよほど速さも威力もあるのですよ。実際に軍角士たちは、この木剣で魔物などを討伐しているのですから。」
「しかしな、ガリンよ。どうもその、なんだ。地味なのだ。姫騎士が使う剣なのだぞ。もっと煌びやかであっても良いのではないか?」
ルルテが不満そうにこぼす。
「煌びやかって・・・。」
そう言われてガリンが改めて木剣を見ると、確かに剣の形をしただだの剣であり、唯一の装飾らしいものといえば、握りのところに埋め込まれている3つの元力石のみである。
考えたこともなかったが、確かに煌びやかではない。
ガリンの様子をみて、ルルテが饒舌になる。
「ガリンもそう思うであろう。やはり何かしら装飾はいるのではないか?」
「・・・。」
ことさらに、剣の造詣などに興味がない、ガリンは答えに窮する。
「姫様。」
ストレバウスがルルテ声か声をあげた。ルルテが頷くと、ストレバウスも頷き続ける。
「まず、あくまでも練習ですので、今はこの木剣で良いのはないでしょうか?それに、実際に帯剣をされるときは、鞘を華美なものにするなどが、貴族の方々の嗜みのようです。それこそ何からしらの能力を付加した元力石を宝石の代わりなどにあしらえれば、他の誰も持っていない逸品になるのではないでしょうか?」
ルルテの目が輝く。
「なるほど。鞘か。確かに我にはガリンがおるしの。光輝くなどの唯一無二の装飾も可能かもしれないな。そうであろう?ガリン。」
ルルテが期待に目を輝かせて、ガリンにその視線を向けた。
『光り輝く鞘?』
いや、そんなもの実用性はまったく皆無だろうに・・・。ガリンは痛くなる頭を無視して、
「それは後々考えればよいのでは。お手伝いはしますよ。」
とだけ軽く流し、ストレバウスに軽く頭を下げた。
「うむ。良いだろう。それで我はどのような武器が良いのだ?」
気分を良くしたルルテが、ストレバウスに問う。
「貴族の嗜みとして、短剣はいかがでしょうか?」
あらかじめ答えを用意していたかのように、ストレバウスが即答する。
確かに、ルルテも女官たちも護身用の短剣、いわゆる守り刀を身に着けている。短くても、剣としての効果は変わらない。
耐久力強化(硬化)、攻撃力強化(鋭利化)、軽量化支援(速化)の3つの元力石が埋め込まれており、武器としても十分に用を足す。
王族して、常に短剣を身につけているのであれば、とっさの時にも使えし、応用範囲も広いだろう。
確かに最適な選択と言えた。
ルルテも、
「確かに、普段から身につけている物であれば、装飾品も映えるだろうな。」
違った観点からではあったが、得心したようでもあった。
「ストレバウス殿、ではレイレイはどうなのでしょうか?」
ガリンが、レイレイの武器にについてストレバウスに尋ねてみる。
「レイレイ殿は、かなり力がある様子。今の体格でも、ショートソードを扱うこともできるでしょう。身体的な特性を考えれば、軽量化支援などは要らないかもしれないので、動きをみながら、レイレイ殿にあった工夫をするということでいかがでしょうか?」
これも、あらかじめ答えを用意していたかのように、スムーズに返答が戻ってきた。
姫の衛士に推挙されるのも合点がいく、やはりストレバウスは兵士としても優秀なのだろうと、ガリンは心の中で、素直に賞賛を送った。
それぞれの獲物が決まったよことより、いよいよ関連開始となった。
ストレバウスが、まず2人にやらせてみたのは、ルルテは短剣で、そしてレイレイショートソードで、思い思いに、自由に剣を振ってみるというものだった。
2人とも最初は、『キョトン』とした顔をしたが、ストレバウスがもう一度、
「難しく考えることはありませんよ。今後の指導の方針を考えるために、今の状態を確認したいだけですので、本当に自由に、思ったように振ってくださって大丈夫ですよ。お2人とも十分に距離をとって安全には配慮してください。では、どうそ。」
言葉と共に、開始の号令を伝えると、2人は距離をとり、剣を振り始めたのだった。




