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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第12章 ルルテとレイレイの剣術訓練
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ルルテとレイレイの剣術訓練 その2

成人の儀の翌日、穏やかな春の日、ルルテ達は、のんびりとした1日を過ごしていた。


「セル、お主は。今干しているガリンの一張羅に何か思うところがあるのか?」


庭の噴水横のテラスでルルテが唐突に言う。


「姫様。思うところとは?」


セルは笑顔を崩さず、聞き直す。


「別に綺麗にするだけであれば衣服用の光浴庫に入れて置けば良いではないか?」


ルルテが疑問を口にする。

王城の左翼にある、現在ガリンやルルテが住んでいる屋敷には、ガリン特製の衣服用の光浴設備が設置されていた。基本的に光浴設備は、人体の汚れの除去や、生力石を通じての体調調整に使われるものである。確かに衣服を着用したまま光浴設備を利用した場合、衣服の汚れなども綺麗には出来るが、たかだか衣服の洗浄に利用するにしては、設備の元力石に補充しなければならないエネルギー量が多く労力に作業の成果が割に合わないのだ。


人が入る場合には、使用している当人の意思力をエネルギーに出来るから良いが、衣服は無機物であり衣服自体がエネルギーを発することはない。そのため衣服だけを綺麗にするために、あらかじめ誰かがエネルギーを補充しなければならないという訳だ。

常人では考えられないような意思力を持つガリンがいるからこそ、そんな贅沢な使い方が出来るのであって通常はあり得ないのだ。


「それとも、あやつが補充をサボっておるのか?」


ルルテが続けて尋ねた。


「いいえ。護士殿は、今日も補充をしていただいたようです。」


セルが、穏やかに返答した。


「それでは、何故だ?」


ルルテが首をかしげる。

そして、急にハッとしたような顔で立ち上がり、


「ま、まさか市井で流行しておる恋愛物にあるような、愛する者の服は自らが洗わねばといった、そんな理由なのか・・・。」


と、目を見開きセルに問い詰めた。


「いいえ。まったく違います。」


ルルテはも、『そうだろう』と、鷹揚に頷き、


「まあ、セルともあろう女官が、あのようなそこつ者に懸想することもあるまいな・・・。すまぬな、許すが良い。」


そう続けた。

セルは、


『それは、姫様ご自身がそのそこつ者・・・』


という、率直な意見は、もちろん言わずに、


「ガリン殿は極めて優秀な晶角士であられますよ。」


と、無難な返答を口にした。


「そうだな。もちろん我が護士は優秀であるぞ。」


ルルテは、満面の笑みでそう返すと、再びテラスの椅子に座った。


「では、何故、わざわざ洗って干しておるのだ?」


改めて、ルルテが尋ねると、


「手で洗うことが好きだからですよ。やはり綺麗になった、太陽の匂いがするといった気持ち良さがあるのです。」


セルは手を動かしながら、返答した。


「それに、手で洗うことによって、裾のほつれや染みなどをしっかり確認でき、補修も出来ます。結果として、姫様、護士殿に恥をかかせることがない満足できる仕事となるのです。」


ルルテは、


「さすが、セルじゃな。あやつにも爪の垢を煎じて飲ませたいわ・・・。」


そう言いながら、テラスから屋敷の中にチラリと視線を泳がせた。


「ふふっ。まあ、ありがとうございます。いえ、ご馳走さまでした。」


セルが笑みをこぼした。


「変なセルじゃな?」


ルルテが、セルに視線を戻すと、洗濯物を干し終わったセルが屋敷の中に戻っていくところであった。


ルルテとセルがのんびりと会話をしている一方で、屋敷の中では、ガリンとジレがレイレイを挟んで向き合い、何かを言い争っていた。


「ジレ、ルルテは、まもなく元服の儀における各地の巡察の旅に赴かねばならないのです。当然、私も護士として一緒に参ります。つまりレイレイも同行するのですよ?基本的な戦闘訓練は必要なのです。もちろん、あなたもですよ、ジレ。」


「しかし護士殿、レイレイは身体こそ大きいですが、産まれたばかりの赤子同然なのですよ。ようやく多少言葉を発することが出来るようになったばかりです。どう考えても戦闘訓練などおかしいのでありませんか?あと、私の事はどうかお気になさらずに。基本的な武芸は身に着けております。」


ジレは、セルの考えも踏まえた上で、戦闘訓練に反対していたのだ。

ガリンは、ジレが戦闘訓練をしているところを見たことがなかったので、ジレの自身の武芸に関しての話には返答はできなかったが、確かに、培養槽から出てからの期間を考えれば、戦闘訓練は早すぎるかも知れないという部分には、ある程度は同意はしているのだ。


しかし、レイレイに定着している意識体はとうてい赤子とは言えないし、身体は竜とのキメラである。

これまでの観察で、レイレイの物理的な力は、ストレバウスの数倍はあるだろうことも分かっているのだ。


ちょっとしたじゃれあいで、噴水の縁石を握りつぶし、また樹脂を固めた防具にも使われているような硬いフォークを、歯で噛み砕いたこともあるのだ。

力だけでいえば、ここにいる誰よりも強いのだ。もちろん、意識体が完全に覚醒したわけではなく、1日の大部分の時間は年相応ですらない、幼子である。ジレやセルの考えも理解は出来るが、ガリンはそれでも戦闘訓練はするべきだと考えているのだ。


なにも身体能力の件だけで戦闘訓練を施そうという訳ではない。出来るだけ多くの事柄に挑戦し、触れることによって、意識体が刺激を受け、元々の人格を覚醒される可能性が高まるのではないかといった期待もあるのだった。

それに、レイレイの管理、監視、監督は、産み出してしまったガリンの責任でもある。

どうせ巡察の旅に同行するのであれば、身体機能を使いこなせた方が、安全でもあるのだ。


やはり、レイレイは戦闘訓練が必要なのである。それが結論なのだ。

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