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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第2章 叙勲式
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叙勲式 その3

国王、宮廷晶角士、公爵、若き晶角士にして宮廷護士、そして、淡いメノウ色の髪の少女、この国の王女、ルシャメルテーゼ・ルルテ・マレーン・ソノゥ(王女)の5人が、生誕祭にしては粗末といえる食卓を囲んでいた。


王女は、まだ元服していないため、実際には”ルルテ”という幼名で呼ばれることが多かった。髪は淡いメノウ色、そして父親譲りの透き通った青い瞳に整った顔立ちをしているが、同時にまだまだ少女が抜けきらないあどけなさも残していた。

金の縁取りがされた、袖のない淡い紫のローブを着ているその少女は、瞳に不安の色をたたえたまま、父親の隣に座っていた。


現王妃でもある、ルルテの母親はあまり公務の場には顔を出すことはないが、次期女王のルルテは、そうはいかない。

まだ今は年齢のことや元服前であることもあり、公務には顔を出すことはほとんどなかったが、元服しもう10年も経てば、徐々に公務に追われることになるのは間違い無かった。


王女は王家の長女であり正統な王位継承権を持っているため、今後仮に弟妹が出来たとしても、既に年齢に差があり特にそれが問題なることはないといえた。


食卓の上にあったのは、野菜とくるみや栗などの穀物のツァイ(野菜煮込み、スープ、粥等に近い)とパンであった。

これは、この生誕祭が、国王の誕生日であると共に、国の繁栄と豊饒を願う大切な節目の日でもあるからである。

大地で採れたものを、食し願うのが慣例とされていたからだ。


上座に座っている国王が、食事に手をつけると、自然と他の者もそれにならった。


基本的には無宗教であるマレーン文化圏では、一般的には食前の言葉は存在していない。最も目上の者が手をつける事が、開始の合図となっていた。


口にパンを運んでいた国王が手を止め、若き晶角士に視線を移す。


「さて、若き晶角士ガリエタローングよ。叙勲の儀まことに大儀であった。」


「はっ。ありがたき幸せに存じます。」


ガリンは手を止め、即座に返答を返した。

王は、その様子をみて、微笑みを返した。


「そうか?式中のそちの顔、いかにも退屈といった様子であったが・・。」


ガリンは、もともと寄り加減の眉を一層寄せると、


「滅相もございません。陛下。」


と、幾分ばつが悪そうに返答をした。


「ははは。よい。そちの話はレンから散々聞かされておる。レンと卓を共にすると、いかにそなたが優秀であるかの話が、1日に3度は出てくるものだ。。」


そういうと、王は自らで話の種としている、宮廷晶角士をみやった。

宮廷晶角士は、笑顔で


「御意。」


とだけ答えた。


「それと、いかにそなたが変わった男であるかもな。」


今度は、ガリンも返答に窮したのか、無言であいまいにうなづいた。


「責めておるのではないぞ。これからそちは、我が娘の専属の護士となるのだ。レンやエラン同様に家族といっても過言ではない。すぐにとは言わないが、もっとこれからはうちとけてもらえるとうれしく思うのだ。」


そういって、王は愛娘の肩に手を置いた。

ガリンも今度は、顔を和ませた。


「ありがたき幸せに存じます。」


レンが、会話に割って入る。


「陛下。そのような甘い言葉をこの男にかけたことを、きっと後悔しますぞ。なにせ、この男、今は殊勝にしておるようですが、横柄で、無遠慮なこときわまりないのですぞ。」


ガリンも、自分の師である、年老いた宮廷魔術師の会話への参加が気を楽にさせたのか、


「先生、お年を召して、幾分人を見る目が衰えたとみえます。私は、決して横柄でも、無遠慮でもございません。自分に素直なだけでございます。」


と、レンに非難めいた、言葉を返した。


「ほれ、もうその気が出ておりますぞ、陛下。こやつは、わしがきっちりと監視しますゆえ、王もこやつには、十分御注意されることですぞ。」


王の目を覗きこむようにして発せられたその言葉は、内容とは裏腹に、やさしい、そして楽しい音色を含んでいた。


普段から食卓をともに囲んでいる、王とレン、エランとは違い、ガリンも、そしてルルテもめったには、このような食卓につくことは無い。

先のやり取りのおかげで、場に漂っていた張りつめた空気は、かなりやわらいでいた。


エランも口をはさみ始める。


「各々方、若者をいじめてどうするのだ。この若き晶角士には、姫様の将来を託すのですぞ。」


と、エラン。


「いやいや、キムエラ殿。そなたはこの男のことを何も知らんのだ。」


と、レンも負けていない。


「しかしなイクスレンザ卿。その横柄で、無遠慮な男を、力強く推挙していたのは、そなたではないか。」


面白がるように、エランも返す。

視線を泳がせながら、レンは、


「優秀ではあるのだ。そして強くもある。ルルテ嬢の家庭教師には、まさにうってつけなのは事実じゃからの。先ほどのは、王に甘やかしてはいかんと、進言を差し上げただけじゃ。はっはっは。」


そういうと、照れ臭さを隠すためなのか声をあげて笑った。

それにつられたのか、王も公爵も大きな笑みをこぼした。


当の本人はというと、当然、憮然としていたのだが・・・。

また、ルルテも、父親である王と、自分の護士となった、ガリンをかわるがわるに見てはいたものの、おとなしく座っていた。


笑い声が止むのを見届けた王が、


「さて、話がずれてしまったようだが・・。ガリエタローングよ。我が娘、頼んだぞ。今日は幾分おとなしくしているようだが、やはり時折なかなかに手ごわいのだ。」


突然、自分の話題を父親によって振られたルルテは、うつむき加減に、顔を赤らめた。

そして、隣に座っている父親の袖を軽く引いて、抗議の意を表した。

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