慌ただしい春の1日 その10
「もろもろの子育てに関しては、確かにセルの仕事としておりました。しかし、12歳であり、王女である我が、子育ての知識がないもの致し方がないことではないのですか。精神的な支えとして、我がレイレイを支えていたのです。」
またもや『我』を連呼して、ルルテが喰いさがる。
しかし、王は冷静である。
「仮に、そうであったにせよ、王女であるお前を、竜娘の母親として登録するということは、やはり護士の養い親、つまり護士と夫婦になることに相違あるまい。王族としてその判断は正しいのか。もちろん護士が婿に向いておらんということではないぞ。今、ここでその議論をすることが王族として正しいのかと、問うておるのだ。」
「うっ・・・。」
ルルテが言葉に詰まる。どう考えも王の言っていることは正論であり、また、この場で婚姻をすることもできない。言葉をなくしたルルテを見て、ガリンが安堵のため息をついた。
レンが王に頷き、ルルテに声を掛ける。
「お嬢ちゃんの気持ちは分かった。それでは、どうじゃ? マレーン国 第一王女として。身元引受人となるのはどうじゃ?」
光をなくしたルルテの目に、光が少しだけ戻る。
「王族であるお嬢ちゃんが、レイレイの後見人を直接引き受けることは難しいわけじゃが、何かあったときにガリンと共に身元を保証し、それこそガリンに万が一のことがあったときは、お嬢ちゃんがレイレイを引き取るというものなのじゃが・・・・。」
話を聞いた、ルルテの目が輝く。
「それは、ガリンについで、わたしがレイレイの養育に権限を持つということで相違ないか?」
「ある意味、そうでしょうな。」
レンが、したり顔で返答すると、
「わかった。良きに計らえ。」
ルルテは、満足げに提案を受け入れた。
王、レン、そしてガリンの目が合い、3人ろも苦笑いを浮かべた。
確かに、ルルテが、万が一の時の身元を引き受ける筆頭であれば、無関係な立場ではないが、逆に身分的には何のつながりもない。
いわゆる『関わっている人代表』みたいなものである。
マレーン文化圏においては、特に生力石に情報を記載する必要もなく、あくまでも緊急連絡先のような存在である。
3人とも、レンの詭弁が、面白い様にルルテに刺さったため、苦笑いを浮かべたのだ。
レンは、にっこり笑いながらレイレイに近づくと、生力石を撫でた。
特に登録が必要なものではなかったが、ルルテに提案した手前、何もしないのははばかられた為、おまけでルルテの保護を受けていることを情報として付け加えた。
「娘よ。これで満足してもらえたと思ってよいのだな。そこの護士との件については、別途、話し合いを持つことにしようぞ。
ルルテよ。護士の顔をよく見てみるとよいぞ。お前は、ちゃんと儀式の意味を正確に伝えて、血の口づけをしてもらったのか。
護士は、先程、『生涯の片翼』に関する話をしたあたりから、狐に抓まれたような顔をしておるぞ。
王族とその護士が交わした宣誓と承認の儀であるのだ。撤回はないのだぞ。」
そう、娘に問いかける。
ルルテは、視線をそらして、冷や汗を浮かべながら、
「も、もちろんです。嘘偽りなく我とガリンは、『生涯の片翼』としてお互いを認め合ってるのだ。しっかりと説明も行ったゆえな。」
王とレンが目を細くして訝しむようにガリンを見る。
ガリンが口を開こうとすると、ルルテがすかさず横からやってきて、ひきつった笑みを浮かべた。
それでも、ガリンが再度口を開こうとすると、今度は、ガリンの左足を思いっきり踏んだ。
ガリンは、一瞬だけ苦痛に顔をゆがめたが、この一言で黙る。
「護士よ。まさかとは思うが、余の娘に不満はあるまいな。」
王の目は笑っていない。
ガリンは、頷いているレンを見て、
「王女より、血の口づけの儀式については聞き及んでおります。限りない誉れでございます・・・。」
力なく、頭を下げたのだった。
ルルテは、満面の笑みを浮かべると、ガリンの横に並ぶように立って、同じく頭を下げた。
実際、王もレンも、
『十分な説明は受けれおらぬのだろうな・・・。』
とは、わかっていたので、ガリンに非がないことはわかっていたが、特に王とて子の親である。
少なくとも言葉で、2人の将来を否定する必要もないことと、娘の嬉しそうな顔をみて、話を一旦収めたのだった。
その後、ルルテとガリンは、レンから能力石はすぐに効果を発揮するものではないことや、能力石が身体的な影響を与える可能性があることの注意を受けた。
また、近いうちに、『元服の儀』があり、領地巡視の旅にでる準備もしなければならない。やることは山積みなのである。
『生涯の片翼』の件については、これから王宮内の派閥に関するいざこざ含め、何年もの調整が必要出ることも告げた。
レイレイもこれから、生力石を得たことにより、身体的な調整や、マレーン王国の国民としての様々な恩恵が受けられるようになる。
今後、それらを勉強しながら、常識を身に付けなければならないことなども説明をおこなった。
すべての話が終わる頃には、日がすっかり傾いてた。それを眺めながら、ルルテとガリン、2人を迎えに来たストレバウスとジレの4人で、屋敷への帰路についたのだった。
時は、マレーン次元文明暦13年 第2力期の終わり、ルルテの元服による能力石解放の儀当日の夕暮れ時である。




