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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第2章 叙勲式
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叙勲式 その2

その間にも、黒衣の男は、王座へとつづく、階段を上ってり、そして王座の前までくると、先ほどの衛士同様、膝をついた。


会場のどよめきが大きくなる。


と、同時に、軍角士達は、再び一斉に、打剣を床に打ちつけた。

会場には、その音の反響だけが残っている。


黒衣の男は、膝をついたまま、左腕の付け根までローブをまくりあげた。

そして、腕を水平の高さまで、玉座とは反対の方向にあげた。


左肩に移植されている生力石は、生体調整だけではなく、その個人の身分を色として表していた。

黒衣の男の生力石は、国民としての身分を表す、透明であった。


公爵とともに、王の傍らに立っていた、宮廷晶角士である、イクスレンザ・エンジシが、先端部分に複雑な文様を描いた元力石をつけた杖をもって、黒衣の男に近づいた。

同時に公爵が、


「准晶角士・ガリエタローングに、技爵位・晶角士の爵位を与えるものとする。」


と、声高らかに宣言をした。

そして、宮廷晶角士が、杖を黒衣の男の透明の元力石へと合わせ、杖の元力石の文様をなぞると、その元力石から、青い閃光にも似た強い光が放たれる。


透明の生力石は、少しづつ、青色に近づいていった。

光が弱まると共に、生力石の色は強く青くなり、そして光が完全に消えると、元力石は、吸いこまれるような青色の彩を放っていた。


公爵は、その色が完全に青になったのを見届けると、


「晶角士・ガリエタローング・エンジジに、叙勲されたことを、王の名の元に認めるものとする。」


と、再び宣言をおこなった。

広間からは、おおきなどよめきと、拍手がまきおこった。


新しい晶角士の顔は、広間に入場した時の、あの眉をよせた顔よりは和らいでいたが、左腕のローブを元に戻し、再び王座に向けた顔には、もうその表情は伺えなかった。


リアが、再びナタルに話かける。


「いよいよね。あの晶角士が、口上を返した後が見ものね。」


ナタルも、少し眉をしかめながら、


「ああ。こんどは拍手じゃあないだろな・・・・。特に諸文化圏のおっさんたちはな・・・なぁ?」


と、王座の方を振りかえりながら答えた。

リアも、王座に顔を向けたが、返答はなかった。


王は、顔をあげた晶角士の目を見据えると、目を細め、言葉を待った。

晶角士が口を開く。


「この度の、爵位叙勲、身にあまる光栄に存じます。我が智をもって、王国に更なる強をもたらさんことを。また、爵位拝命にあたり、我が身に王国よりの任を。」


晶角士に任じられるということは、その晶角士に付随する爵位として、技爵位叙勲されるという事となる。

そして、それは同時に、貴族になるということでもあった。

王国において、貴族はその義務として、どんな形にせよ、宮廷任務か、国務、軍務のいずれかに就く事となる。

この口上は、この任をもらうための、叙勲の際の決まり文句である。


王は、晶角士の口上を受けると、一層笑みを浮かべ、そして、王座左手に列席していた、諸文化圏の大使達に視線を向けた。

そして、再びゆっくりと晶角士に視線を戻すと、


「我が王国の、優秀なる晶角士よ。最年少にしての晶角士・技爵位への叙勲、見事である。そなたに、宮廷護士の任を与えるものとする。」


と、口上を返した。


ナタルの予想通りに、今度は拍手は起こらなかった。

変わりに大きなどよめきと、そして、諸文化圏の大使達が、一斉にに王座に顔を向けた裾ずれの音が、小さく広間内に響いた。


『宮廷護士は戦時に・・・』


という歴史的な諸事は、諸文化圏の大使達も、安全協定を結ぶ前の文化圏併合の折りの戦争でよく知っていた。

戦時、現宮廷晶角士のイクスレンザが率いた護士軍がいたため、どの文化圏でも護士を伴って戦場に出る、子爵、伯爵、侯爵、公爵、いわいる将兵を、1人として討ち取ることは出来なかったからである。

正確には、その機会さえ得ることが出来なかったのだ。


子爵位以上の、貴族は最低でも1つの文化圏を有しており、また戦場にも兵を率いる。将兵を討ち取るのは、その文化圏を手に入れていく際の最も有効な手段なのだ。

変わって、マレーン文化圏でも10人程度しかいない晶角士、あるいは晶角士級の術者は、他の文化圏では、マレーン文化圏の晶角士より劣るものを数えても2人いれば良いほうである、そのために、戦場に専属の晶角士を同行させるなど、とても真似できるものでは無かった。


今回の叙勲が、王座の間で生誕祭の宣誓と共に、国の国事として扱われたことも、この晶角士の叙勲が、いかに国にとって重要なことかを裏付けているのだ。


ざわめきが起こる中、新しい晶角士は、王座に体の正面を向けたまま、ゆっくりと階段を降り、衛士が膝をついているところまで下がると、丁寧に一礼をし、きびすを返して退場をした。


王宮にはどよめきだけが残っていたが、再び軍角士達が、床を打つと、ざわめきは徐々に静まっていった。


ナタルとリアは顔を見合わし、新しい晶角士が消えていった先に視線を向けた。


そして、再度、公爵が一歩前にでると、


「生誕祭の宣誓、および叙勲式をこれにて終了する。」


と、叙勲式の終了を告げた。

再び広間内には、拍手がまきおこったが、やはり叙勲されたそのときのものよりはずっと小さかった。


拍手が鳴り止まないうちに、王は、公爵と宮廷晶角士を伴い退出をし、諸文化圏の大使達も徐々に席を立っていった。


軍角士は他の貴族や大使達が退出するのを見届けてから、広間を後にした。

最後まで広間に残っていたリアが、ナタルの肩に手をかけて、


「面白くなってきたね?」


と、いたずらっぽくささやいた。


「そうだと、いいけどな・・・・。」


ナタルは神妙な顔つきで答えた。


「朝、悪いものでも食べたの?何を神妙な顔してるのよ。さ、生誕祭よ?楽しみましょう。それに後で、あいつの服選んであげないとね。」


と笑いながら、今度はナタルの横腹をこづいた。

ナタルは、先程の想像を思いだすと、今度は遠慮せずにして、声をあげて笑い、


「じゃ、飯食いにいくか!」


と笑顔で返した。

最後に残った2人も退出し、王座の広間は後片付けをする小姓だけが残っていた。


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