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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第10章 初等教育機関卒業
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初等教育機関卒業 その6

全員に記録石が配られ、開始の合図がされると、試験開始である。

試験は、記録石から直接頭に放射さて、それに意思で回答を行う形式である。

回答できる設問にすべて回答をすると、最後に自分の生力石にかざして、個人の情報を登録し、それを最前列に座している試験管理官に手渡してから退室するのだ。


試験開始前から目立っていたルルテであったが、ここでも比較的早い時間で、記録石を自分の袖口から肩まで手いれて個人情報を書きこむと、席を立った。

周囲の幾人かは、意外そうな目でルルテを睨んだが、ルルテは横目で威嚇して、そのまま試験管の方へ向かった。


何故、肩に手を入れなければならないような服を着ていたかといえば、皆の前で紫の生力石をさらすわけにもいかないといった現実的な理由である。そのため、ルルテはこの日、袖口の大きなローブを身に付けていたのだ


ルルテは、さきほど噂話に興じていた周囲の者たちよりもいち早く席を立ったからか、先程のガリンの服の評価に対する抗議か、鼻を鳴らしながら周囲の受験生達を一瞥し、管理官に石を渡して退出をした。


ルルテは、何故か講堂から出ると、明らかに顔を曇らせて大きくため息をつくと、とぼとぼとレンの研究室に向かったのであった。


----*----*-----


レンの研究室を訪れたガリンは、レンから、ガリンが着ていた服についてのレンなりの評価を、散々聞かされた。

一通り弟子をからかった後、レンは屋敷でのレイレイの状態についてガリンに報告を促した。

ガリンの報告を、机のまわりとゆっくりと歩きながら、頷いたり、髭を撫でたり、時には唸り声をあげ、ながら、報告を聞いていた。


「なるほどな。そう簡単に事が運びはすまいと思うてはおったのじゃが・・・。」


レンは、難しそうな顔で、報告に対する第一声で、『予想通り』と、感想を述べた。


「はい。竜と人の脳の言語中枢に致命的な違いがあり、それが障害になっているのではないかとも疑ってしまいます。」

「ふむ。エバの話によれば、大きさの大小こそあれ、竜族と人の脳には機能的な差異は見られなかったということじゃったぞ。」


レンは、エバと議論した様子を思い出しながら、ガリンに意見をする。


「それはそうですが・・・。現に言語機能が回復しないとなると・・・。」


若干、否定的な意味合いを含んだ、弱音ともとれる発言で返した。


「そうじゃな・・・。わしももう一度エバには訊いておくが、まだあれが目覚めてから日は浅い。焦らぬことじゃ。」

「はい。」


確かにその通りでもある。

レイレイは、年の功か、ガリンの行き詰まりを感じてか、


「それより、レイレイの戸籍の問題はもう処理したのか?」


振りかえりながら、いきなり話題を変えた。

ガリンは、ちょっとだけ面食らったように、何かの言葉を飲み込み、改めてレンに返答を返す。


「いえ。まだですが?急がねばならないのですか?」


「そうじゃな。戸籍がはっきりとしないと生力石の移植も出来ないじゃろうしな。今も生力石の恩恵である『身体的な調節機能』が、まったく無い無防備な状態なのじゃぞ。出来るだけ急いで移植してやるのが、親心ではないかの?」


そういったレンは、その話がさも楽しい話題であるかのように口元をほころばせると、片眉をあげながらガリンの目を覗きこんだ。


「親とは?」


ガリンは、すばやく視線をそらた。

レンは、悪戯っ子のようなで即答した。


「もちろんおぬしのことにきまっておろう。」

「しかし、それは遺伝子を提供したというだけで・・・。」


ガリンの顔が一気に曇る。


「何をいっておるのじゃ。戸籍も、おぬしの長女として養子縁組したことになるのじゃぞ。まさに親ではないか。」

「しかし、それは・・・。」


ガリンは、いつものように眉をよせて、困惑した表情で、反らした顔を不承不承戻し、レンに向き直った。


レンはその顔を見ると、更に声のトーンをあげて、


「がんばるのじゃぞ。パパ」


と、殊更『パパ』の2文字を強調した。


ガリンは、自分がからかわれているのを承知していたが、さすがにこそばゆく感じたのか、頭を掻きながら眉を一層寄せ、目を細めた。

レンがにやにや笑みを浮かべているのを見ると、


「養子縁組の件は承知しました。他に何かございますか?」


とぶっきらぼうに呟いて、話を終わらせた。

レンは、『コホン』と咳払いをして、自らの椅子に腰を落とした。そして、再び話題を変えた。


「少し重い話があるな。」

「重い話?」


いきなりの話の展開に、ガリンが目を目を瞬かせた。

そんなガリンの様子を見て、レンは、


「後日でもよいのじゃが?」


と、後日でも良い旨を伝えたが、ガリンは、


「いえ、重要な案件であれば、早い方がよろしいでしょう?」


と、レンに尋ね返した。

レンも、これから話す内容を鑑み、


「まあ、そうじゃな。お嬢ちゃんが戻るまでには、もう少し時間もあるじゃろうしな。」


素直に、肯定した。


「そうですね。」


ガリンも、すぐに相槌を返し、レンに話をするよう促した。


「先の闘技場での事件の後、王がクエルスに密偵を放ったのは既に知っておるな。」

「はい。送ったのをこの目で見たわけではありませんが、そう聞いています。」

「うむ。残念ながら、その密偵との連絡が3日前に途絶えてしまったのじゃ。」


レンは、先ほどの迄のにこやかな顔から一変して、真摯な顔つきで話を始めた。


「意伝石の届く範囲外にいる、という可能性は?」


ガリンは、考えうる限りの中でもっとも可能性が高いものを尋ねる。


「通常の状況であれば、それも理由の候補に入れるところじゃが、今回は考えにくい状況なのじゃ・・・。」

「なぜですか?」

「密偵からの最後の報告が、その報告途中で途切れておるのじゃ・・・。」

「・・・。」


レンのその言葉を聞くと、ガリンも事実を受け入れるしかなかった。

もし、潜入した密偵の身に万が一のことがあったとすると、公式には、クエルスと安全協定が結ばれて以来、初めての国家間摩擦の犠牲者ということになるのだ。


闘技大会でも多くの死者を出しているが、公式には、あの事件は次元人の個人のテロとして報じされており、国家間の戦争とは切り離されたところで論じられている。

しかしながら今回は、広く報道されるような内容ではないにせよ、クエルスに潜入した密偵が殺されたとなると、明らかに戦争行為に準じた故意の殺人の犠牲者ということになるのだ。

この意味の違いは、大きい。

レンもガリンも、この違いを重々承知していたからこそ、言葉を失っていたのだ。

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