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マレーン・サーガ 祝1.6万PV達成  作者: いのそらん
第10章 初等教育機関卒業
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初等教育機関卒業 その5 ルルテの威厳

2人が学院に到着する頃には、ルルテもようやく覚悟を決めたのか、顔から少しではあるが緊張の色が消えていた。


ルルテの初等教育機関を卒業するための学習は、すべてガリンが教えていた。そのため、初等教育機関にはほぼ名前だけの登録であった。そもそも初等教育機関に登録して、即卒業試験を受けるルルテは、ほとんど通学そのものをしていない。

最初は通い慣れぬ学院での試験という状況そのものに緊張していた。しかしながら、正門をくぐると、レイレイの関係で、培養中もその後も、何度もの学院内のエバの実験棟に直接足を運んでいたことを思い出し、徐々に緊張もほぐれていったのであった。


今回の卒業のための履修試験が行われる、正門から入ってすぐ左手にある初等教育のための学舎に入るのは初めてであった。ただ、エバの所に行くためにいつも通りすぎていた場所であり、何回も横目には見た場所でもあったのだ。


今までは、正門からまっすぐ噴水のある広場を抜け、研究棟区画の先にあるキメラや生物学の実験棟まで足を運んでいた。今回は、途中噴水のある広場から左手の初等教育学舎の大講堂が目的地となる。


「ルルテ。いよいよですね。」

「そうだな。そなたの教え方が問われる時が近づいておるぞ。」


学舎の入口でガリンが声を掛けた時には、ルルテは完全にリラックスしており、いつもの彼女であった。


むしろルルテとは逆に、学院に足を踏み入れてから時間の経過とともに厳しい顔になっていたのは、ガリンの方であった。

ガリンは、キョロキョロあたりを伺い、明らかに落ち着きを無くしていた。最後には、時々、自分の爪先から胸の辺りまでを見てため息をついたりもし始めたほどだ。


そう・・・、ガリンが気にしていたのは、今、まさにガリンが着用している派手な白いローブであったのだ。ご丁寧に、金の刺繍までがしてある派手な逸品である。

この服装は、ルルテを伴って街に出掛ける時の服であり、今日も、その時であったのだ。


学院の角士養成機関に在学していた時はずっと、もはやトレードマークとも言える愛用の黒いローブを着ていた。逆に、それ以外の衣服を着て通学したことは、一度も無かったのだ。それが180度転じて白、真っ白である。落差が大きすぎたのだ。


もちろん、以前にも、この出で立ちで学院を訪れたことは何度かあったが、その時は、試験開催日である今日のように人で溢れているような状態ではない。

特に今日は、角士の試験も行なわれるため、見知った顔が何人も学院をうろついている可能性が極めて高い。

人付き合いがよい方ではないガリンは、明確に友人と呼べる学生や研究生は居なかったが、その出で立ちと才能から『黒の賢者』等と呼ばれており、それなりに知名度があったのだ。


つまり、可能性どころか、ぶっちゃけ、つい先日まで学院内で生活をしていたガリンを見知っている者はかなり多いという訳だ。

その者達からの好奇の視線、完全に避けることは不可能である。だからこその落ち着かないのだ。


事実、何人にもこの白い姿を目撃され、目で笑われていたのである。ガリンが王女の供をしていることは、学院内では良く知られており、流石に直接揶揄するものはいない。しかし、彼とって非常に遺憾な評価ではある。そしてガリンは、何気なく、この『黒の賢者』という恥ずかしい二つ名を気に入っていたのだから、遺憾の度合いも強かった。


もちろん、ルルテはそんなガリンの気持ちは、『どこ吹く風』である。自分が選んだ服のセンスを信じていたし、ガリンに良く似合うとも思っていたからだ。


ルルテは、少しだけ顔をしかめて、ガリンに態度を改めるように意思を送ると、スタスタと自分が試験を受ける大講堂に、まるで案内でもするかのように、先に行ってしまった。


ガリンも、既にこの格好でここに来てしまっているのは仕方がない。いまさらこの出で立ちをどうにかする方法ないことは理解していた。足は明らかに重くはあったが、承諾の意を送り返し、急いで後を追った。


実は、ガリンを見知った学生が驚いていたのは、白い服ではなく、自分勝手で他人を気にしない『黒の賢者』が、王女を気遣うように一緒に歩き、そして彼女に愛おしそうな目を向けて保護しているように見えたからであった。学生時代には想像できないガリンの振る舞いこそが、好奇の視線の理由であったのだが、それは2人はこの事を知ることはなかった。


ガリン達が試験会場の大講堂の扉をくぐると、もう既に多くの学生が席についておしゃべりをしながら、開始時間を待っていた。


初等教育機関で学習している学生同士は、当然、見知ったものが多いし、それなりに友人もいるだろう。

そもそもルルテのように、卒業のためのすべての履修試験のための勉強を家庭だけで習得するものは、ほとんど居ないのだ。高位の貴族には少数はいるかも知れないが、その高位の貴族自体が少ないのだから、やはりほとんど居ないという表現で間違いはないだろう。


試験は、意伝石を封じる結界の中で行なわれるし、問いもその回答も、試験開始の直前に配られる記録石を介して行なわれる。

カンニングなどの不正行為はまず不可能であった。それもあり、試験を受ける講堂は、列毎に人数が割り振られているだけで、どの席に座るかは自由であった。そのため、同じ室内に見知った者がいれば、自然と集まってゆくのは自然な流れであったのだろう。


講堂には、予想通りルルテと同年代だろう受験生は見当たらず、年齢の近そうな学生でも3,4歳は年長であろうと思われた。

それらの年齢が近い学生達は、出来るだけ質素にまとめてはいたが、貴族ぽい服を着ていた。

まあ、何より、そのうちの何人かは、お付の者が席まで付いてきていたので、ガリンとルルテ程ではないにせよ、やはり目立っているのだった。つまり、ガリンにも否応がなしに、それらの貴族の師弟の姿が目に入る。ガリンが感じたことはただ1つ・・・。

自分が主張した


『試験会場にはもっと質素な服装で・・・。』


という発言は正しかったということだった。そして、その貴族達を見て改めて溜め息をついた。

昨日、ガリンは、


『試験会場に着ていく服装は、場にあった質素なものが好ましく、いつもの黒いローブで良いのではないか?また、特にお付きの者が、このように目立つ白いローブは、多いに問題があるのではないか。』


と、ルルテに主張をしていたからだ。


『目立たぬ質素なものにすべき。』


という部分を、特に強く提案をしていたのだった。


しかし、ルルテは、頑としてこれを受け入れず、結局、白いローブとなってしまった。

ガリンは、溜め息をつくとともにもう少し強く主張していればと、ここにきて口惜しく思ってため息をついたのだ。


ルルテはガリンの溜め息を無視して、比較的中央よりの席に座った。

座って周囲を一望したルルテは、再びゆっくりと立ちあがって、


「ガリン、周りに人が多く、見晴らしが悪いな。我は、窓際で外の景観が楽しめる席がよいぞ。」


ガリンに愚痴る。


その瞬間、周囲の人間の目が、ルルテに、そしてガリンに一斉に集まった。

ガリンは、その視線を気にしながら、周囲を見渡した。


「ガリン、そなたどこを見ておるのだ。」


『あ、いえ。窓側の席は、危険でございます。ここにて我慢をしていただければ・・・。』


ルルテの問いに、口頭ではなく、意伝石を使って返答した。


もちろん、安全性でいえば、建物外から直接攻撃を出来る窓際は、護衛という観点からは危険である。

ただ、今回、皆の視線が集まったのはルルテの常識外の発言にあった。本来はそれを嗜めなければならない場面である。だが、さすがに試験前に、心を乱すような小言をこぼすのは、ルルテの心を乱す原因にもなりかねない。そのため、このような中途半端な小言となってしまったのだ。


ガリンは、当たり前のように意伝石を使っているが、ここは不正対策で意伝石は使えない結界が張られている。ルルテ達に渡していたガリン特性の意伝石は、この試験会場内の結界をものともしていなかったことにルルテは気づいてない。気付けば騒ぎそうなので、出来るだけ早く話を終わらせることが重要であるとし、ガリンも特段説明はしなかった。


ガリンが配慮をしたにも関わらず、ルルテはムッとした顔を隠すことなく、返事を口にする。


「そなたは、いつもそれだな。良い。我はここで我慢をするぞ。ところで、試験の間、そなたはどこで控えておるのだ。」

「先生の所にいますので、試験が終わった頃、お迎えにあがりますよ。」


「いらぬぞ。私もおじいさまの部屋は覚えておる。気にするでない。」


ガリンが眉間に眉を寄せる。

護衛対象を、これだけ人でごった返している中、一人には出来ない。


「しかし・・・。」


精一杯の抵抗をしようとするが、


「私を信じぬのか?」


途中で言葉を被せられてしまい、最後まで言葉を発することが出来ない。それでも、


「いえ、しかし・・・。」

「くどいぞ。」


結果は同じであった。

学院内の警護は、かなり優秀な部類であることを踏まえ、また、意伝石もあるし、ここはレンの研究室からもそう遠くない。

ガリンは、


『寄り道をせずに研究室に来ること』


を、再度意伝石で伝え、不承不承、頭を下げて講堂を後にした。


ルルテは、『ふんっ』と、鼻を鳴らし、何事もなかったかのように、座りなおし改め周囲を見回した。


これだけのやりとりを、ルルテの口調で繰り返せば、当然周囲に座る受験生には、いやでも耳に入り、かつ目立つ。結果、周囲では、小声で様々な会話が飛び交うこととなった。


「なんだ、あの子、どこの貴族の娘だ?」


「あの頭ごなしの口調はなんだ?自分を何様だと思っているんだ?」


「綺麗な服ね。」


など、千差万別な会話が乱れ飛んだのだった。

その中で、


「あの従者も従者だ。そもそもあの服装はなんだ?場違いな。」


そんな声までもが、ルルテの耳に届いた。

その瞬間、ルルテは勢いよく立ちあがると、


「そなたら、試験を前にして、よく試験以外のことに気が回るものだな。よほど余裕があるのだな。あやかりたいものだ。それに、我が供の者を卑下することは、我を卑下することと同罪ぞ。そのような度胸ありし者は、我が前にて堂々と申すが良いぞ。直答を許す。」


とりたてて硬い言葉を使い、毅然とした態度と澄ました顔でそう言い放った。


まさか、王女だとは思ってはいないだろうが、その口調は冷ややかであり、ある種の威厳をもっていた。

ガリンがこの場にいれば、身バレするようなこのような行為は、間違いなく頭を抱える場面ではあったが、効果は覿面であった。


ルルテは、周囲の者のひそひそ話が一斉に聞こえなくなると、満足げに再度周囲を見回して席についた。


そして初等教育機関卒業のための履修試験が始まった。

誤字脱字の修正。

一部、方向性がおかしいところを修正。2026.1.12

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