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⑰安土城(滋賀県近江八幡市安土町下豊浦)1

⑰安土城(滋賀県近江八幡市安土町下豊浦)1


織田信長が安土山に築城。

琵琶湖に接し、地下1階地上6階建てで、天主の高さが約32メートル。

天守(天主)が初めて築かれた城であり、当時、超高層の建築で威容を誇る。

独創的な意匠で絢爛豪華な城だった。


築城の目的は、岐阜城よりも都がある日本の中央拠点の京に近いこと。

琵琶湖の水運を利用でき、北陸街道から京への要衝の地にあったこと。

城下からの眺望も天下布武(信長の天下統一事業)を象徴するにふさわしい城であること。

などなどで、1576年から築城を始めた。


■信長と濃姫

安土城の築城を始める27年前、1549年3月23日、信長15歳は濃姫14歳と祝言を挙げた。

濃姫の父は美濃の覇者、斎藤道三。

母は明智家(美濃守護土岐氏の一族)の小見の方(明智光秀の母の妹)だ。


濃姫と信長の結婚は、織田家と斎藤家の和議の条件だった。

織田信秀と斎藤道三は、互角の戦いを続けていたが、信秀が加納口の戦いで道三に敗れた時点で和議を結んだ。

そのため、斎藤道三が織田信秀(1510-1551)より優位な形での和議となった。


信長にとっては、押され気味で結んだ和議により決められた結婚となる。

その為、父、信秀は、信長に「和議は価値があり守りたい。道三の機嫌を損ねることがないよう身持ちよくするように」と命じる。

その結果、信長は、道三生存中は濃姫に子が生まれるのを待ち続け、公式には信長の子はいない。


この時、信秀は、後継は信長と家中に表明した。

戦国時代「後継は実力がある者がなるべきだ」と考える武将が多かった。

母の出自によって、決まるのがほとんどだが、力なくしては家を守れないとの思いが強い。

信長も、信秀の絶対的信頼を得ていたわけではなく、能力を認められていたわけでもない。

美濃の覇者、道三の婿となったことで、後継の位置を確実にしたのだ。


信長は、濃姫の父、道三について興味を持って情報を集め、共通点を感じ義父として敬意を払っていた。

その道三の惜しみない愛を受けて育った娘、濃姫にも興味を持っている。

結婚に期待していた。

そして、結婚を契機に道三と手を携えて織田家を伸ばそうと考えていた。


信長は、結婚を待ち焦がれていたし、結婚を成功させたかった。

滞りなく式を終えると、期待を込めて、濃姫を見つめる。

初めて会った濃姫のきっと結んだ口は小さくかわいく、美しいと思った。

道三の国盗り物語が快調な中、のびのび育ったお姫様、濃姫だ。

豊かな資力に支えられ、道三から受け継いだ強い意志と母から受け継いだ豊かな知性があふれていた。

期待通りと、信長は笑みを漏らす。


信長は、両親から愛されていると感じたことが殆どなかった。

愛情に満たされた心休まる穏やかな雰囲気の中で、家族と過ごした日々の記憶はない。

濃姫の目を見ながら「自分の性格は、ひがみっぽく疑い深い」と思う。

濃姫の素直さと、まっすぐに信長を見る透き通った目は、信長にはまぶしく、新鮮だった。


濃姫は、道三から「姫ほど可愛い姫は居ない。だれからも愛される、最高の姫だ」と眼を細めてよく言われて育った。

無邪気にうなづき、父の言葉を自然に受け入れ、屈託なく大人の女人となった。

道三の娘としての誇りをもって、信長との愛を信じて嫁いだ。


政略結婚の常として、結婚式での初めての対面となったが、濃姫は信長を見て、見目麗しい最高の伴侶だと第一印象は良かった。

これからゆっくり時間をかけて気持ちを通じ合わせ、良き妻になると新しい暮らしに胸弾ませる。


濃姫は老女(侍女の筆頭)から仲むつまじい夫婦の営みとは何かを聞かされ学んで花嫁となっている。

また、母、小見の方からは「婿殿を恐れることなく、すべてをゆだねなさい。すると、自然と夫婦になり子が授かるのですよ」と、にっこり笑いながら聞かされて、不安もなかった。


母は道三との間に濃姫と孫四郎、喜平次・斎藤利治と4人の子を授かっている。

大好きな母の言葉を、そのまま信じた。

母のように父の望む斉藤家と織田家をつなぐ男子を生むと疑わなかった。

すでに、子を生める大人の身体になっている。

自信もあった。


だが、新婚初夜の信長はすべきことを早急に済まそうとするだけだった。

寝所は暗いが明かりはあり、お互いの姿を見ることが出来た。

濃姫には、勃起した男の裸を見るのは初めてだった。

恥じらい目を背けてしまう。


信長は自分のたくましい身体に自信を持っていた。

裸になることに違和感はない。

濃姫は時間をかけて全身で愛を感じ、愛し合いたかったが、愛が感じられないままに、夫婦になる。

新婚初夜で父母の教えの通りの人生が待っているのではないと、驚き知った。


信長には時間をかけて愛を紡ぐという感覚がなかった。

合理的な性格で、心と心を紡いで繋がる綾とりのような愛を創るのは苦手だった。

道三は違った。

道三には仕える女人が複数いた。

だが小見の方の前では、それらの女人の影を少しも感じさせなかった。


母、小見の方は愛されており「二人は完ぺきな伴侶だ」と濃姫は確信していた。

道三は濃姫や弟たちと共に笑い声を響かせ家族団らんの時を過す良き父だった。

家族とはそのようなものだと思って育っている。

信長と共に、道三と小見の方のような暮らしが始まるはずだったが、違った。


以後も、信長は足しげく濃姫の元に通い抱いた。

信長なりに濃姫への愛情はあり、尾張と美濃の末永い絆を作り上げると上機嫌で将来を話す時もある。

神経質そうな厳しい語り口であり、短時間で戻ってしまうが。


濃姫は結婚生活とはこのようなものかと寂しく悟りつつ織田家の人となった。

愛を深め、力強く愛されることを夢見る気持ちは、持ち続けるが。

淡泊な夫婦生活が続くが、それでも子が授かると信じた。

結婚後の信長は野心に火が付いたように道三との縁を堅固にし、信長による尾張統一に向けて強く羽ばたく。

道三も娘婿を気に入り最大限後ろ盾となる。


1551年、信長の父、信秀が急死した。

信長は17歳だった。

家中に、信長が偉大な信秀の後を継ぐことが出来るかと不安が渦巻いた。

信長は「うつけもの」と言われる傍若無人な態度を続け、家中の信望がなかった。

家督を引き継ぐことには当然とは思っても、家中を率いることができるか自信がなかった。


そこで、道三がにらみをきかした。

家中で浮いたようになった信長の背後で、信長の後ろ盾になった。

そして、いつでも信長の為にはせ参じると家中の反信長勢力を牽制した。

信長が当主として家中をまとめていくのを、繊細な気配りで応援したのだ。

信長は、道三の存在の大きさを身にしみて感じる。


道三の威力があったことで、萱津の戦いを乗り切り、反乱が起きるも抑えながら、信長の家督引き継ぎは順調に進む。

1553年、道三との正徳寺での会見以後は、道三との息のあったコンビで、たぐいまれな信長の才知を発揮していく。


信長が引き継いだ織田家は「織田弾正忠家」だ。

尾張には守護、斯波氏(足利一門)とその下に、下四郡守護代、清洲織田家と上四郡守護代、岩倉織田氏がおり、信長の織田家はその下に位置する。


織田家中では、信長の実力は圧倒的だが、形式的には、織田本家は清洲織田家であり従わなくてはならない関係だった。

尾張守護や守護代は、実質の力はなくなっていたが、その権威を利用し、他の織田家や周辺豪族や今川氏ら有力大名と結び権力を守ろうとする為、油断できない。


比べて、美濃守護、土岐氏を追い払い守護代を引き継いだ道三は、名実共に美濃の覇者だ。

美濃の支配者、義父に深い恩を感じ、婿に値する働きをすると信長は、尾張の覇者を目指す。


1554年、60歳を過ぎた道三は体力知力の限界を感じ、信長の活躍に目を細めながら、濃姫の異母兄、(よし)(たつ)に、家督を譲る。

濃姫は、父が家督を譲りゆっくりするのは良いことだと思ったが、父、道三と兄、(よし)(たつ)が険悪になっていく様子を知らされ、心痛めていく。

溺愛されて育ち父が大好きな濃姫は、父を尊敬しており、なぜ兄が父を信頼しないのか理解できず、許せない思いだ。


濃姫は結婚生活を通じて、信長とはどのような人物なのかを見続けた。

織田家中を率いる颯爽とした若武者ぶりに何度も心躍らされ、戦いぶりも見事だ。

父、道三を目指す姿に頼りがいのある夫だと感じた。


濃姫は、父を救えるのは信長しか居ないと、種々の交差する思いもあるが心を決める。

信長の得る情報とは違う内々の実家の様子を事細かに知らせ「実家を守って欲しい」と話す。

信長も同じ思いを持っており、力強くうなずいた。


1555年、信長は知謀を駆使し尾張(下四郡)守護代、清洲織田家を滅ぼす。

続いて、尾張(上四郡)守護代の岩倉織田家を追い詰めた。

尾張守護・守護代を配下にし、尾張の覇者となる日も近いと意気盛んだった。

道三の戦力に支えられ、快進撃を続けていた。


 ところが、1556年5月、道三は殺された。

救援し(よし)(たつ)勢を蹴散らすはずの信長の援軍は間に合わなかった。

濃姫は、(よし)(たつ)の動きが事前にわかっていたはずだと、間に合わなかったことが納得できない。

信長には、命がけで「道三を助ける」との強い意思はなかった。


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