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獄中殺人  作者: しず***
3/5

推薦文

 先程、人には感情の波があると説明しました。

あれは特定の物事に関して選択を行う場合にしか言えませんでしたが、少し応用を加えてやると、それはそれは簡単に人を操れるのです。


 まず、動かしたい人と動作の内容を決めます。

次に、動作とその逆の動作とで選択肢を作り、人へ送るのです。


 わかりやすく例を挙げますと、この手紙が貴方に届く前、中身を調べる検閲官ですが、彼は茶封筒の封を開けてすらいません。

検閲官として封筒の中身を確認することは当然の行動なのですが、封を開ける、開けないのニつで選択肢を作りまして、検閲官が頭の中でその選択を行うよう誘導するのです。

 結果として、私は茶封筒にびっしりと工夫をこらした文字を書きまして、検閲官に中身を調べさせないことに成功しております。


 南本様にとってはなんら不思議のない、言ってしまえばどうでもいい駄文でしょうが、検閲官の男にとっては中身を見る気が失せるものであったのです。

詳しい方法に関しましては割愛いたします。

私が人を動かすのには、二人をつなぐ媒体が必要不可欠だと知っていただければそれで良いのです。


 私の性分からしまして、人間のメカニズムは、何より人生を彩る輝きです。

右肩を叩かれて右から振り向く動作は、私の頬を紅潮させます。

条件反射、プラシーボ効果、ひいては人間の本能、それらが私に語りかけるとき、耐え難く幸福を感じるのです。


 そんな私ですが、ある場合においては、一寸先も予想のできぬ状況というものが存在しておりました。

火事場の馬鹿力、という言葉はご存知でしょう。

人間は窮地に立たされた時、自身も知らぬ限界を発揮します。

 日常で目にすることはない、人体の未知の領域、いわば深海でございますが、私はどうしても、どうしても、その瞬間を看てみたくて堪らないのです。

当時の私は、自身の矜持や倫理観などかなぐり捨てて、人が苦しみそして活路を見出す瞬間を、五感で感じるために生きておりました。


 一人目は、もう、よく記憶に残っておりませんが、大学の同級生の女であったと記憶しています。

自宅に呼び寄せて、軽めの、片手で振り回せるハンマーで後頭部を潰しました。

 叫びながら床に倒れたところを、四肢を押さえつけて拘束しようと試みましたが、弱々しい体から想像できないほど、ばったんばったんと抵抗するのです。


 もう、祭りですよ。


 今日一番の大物を生きたまま捌くみたいな、まな板の上で、ばったんばったん。

脂で滑るのも構わず、鱗なり、内臓なりが剥がれていくので、ばったんばったん暴れるのです。


 瞬きはしてませんでした。

体温は少し、上がっていました。


 言いたいことは色々ありますけども、まとめて申し上げれば、実りのある体験であった、と言えばよろしいでしょうか。

女はどこか、家の近くに埋めたと思いますが、申し訳ない、忘れました。

あまり関心がないと言いますか、動いてないので、不気味なのです。


 観察を終えた人間へスコップで土を被せながらに、私の心は、次の決行日を見据えておりました。

探究心とは、何より輝かしい依存先でして、人の造った麻薬やギャンブルなど、比べるのもおこがましいものです。

「当たりか外れか」でレバーを下ろすスロットマシーンより、何が出るかわからない未開の地に踏み入る行為の方がよっぽど素晴らしい、そうは思いませんでしょうか。

私の場合はそれが人間の頭の中で、とりわけ行動理念に興味を持っただけで、それ自体は指をさされる行為ではないと信じています。

ただ、手段については反省しておりまして、人を殺めて行動を観察するなど同じ人間の所業ではないこと、深く理解し後悔しております。

だからこそこの手紙を書いているわけで、反省していなければ、そもそもこんな長ったらしい手紙など書かずに看守でも観察して楽しんでおります。


 あの時、私は一種の暴走状態であったのだと、どことなく、納得しています。

15人、15人です。

気づけばひとり、またひとり、穴の跡が増えていくのを見て、私は何も考えずに土を被せる機械でした。


 死体を埋めた程度で臭いがかき消せるはずもなく、行方不明者の関係者ということあり、当然、警察により捜査の手が入ります。

しかし、私は人間がどこを探してどこを探さないかなど、手にとるように把握できますので、決して見つからない場所に隠すなど容易でございます。

あとは捜査に協力的にしていれば、ボロは出ないと踏んでおりました。


 ただ一人、貴方に見つかるまでは。ですが。

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