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この作品は黒森冬炎様主催企画「ミラクル・チェンジ~改造企画~」・コロン様主催企画「酒祭り」参加作品です!
此処は異世界のお酒を提供するお店。
異世界のお酒とは、秘密ではあるのだけどね。
その理由は……。
実は、勝手口の裏は異世界・ピュアーロに繋がっているの。
あ、私の名前は露美と言うの。
この居酒屋で夫とお店を営んでいます。
え、異世界・ピュアーロって?
異世界・ピュアーロの事は、実はそんなによく知らないの。
でも本当にお酒好きな人たちが集まる世界みたいで、様々なお酒があるの。
心からお酒が好きな人に悪い人はいない。
これは私の持論よ。
このお話は、そんな異世界のお酒とこの世界のお酒の出会いの魔法の物語、なんです。
ある日。
「おい⁉」
夫の異様な声に私は驚いて酒瓶を並べていた手を止めて声の方に飛んで行ったわ。
目の前には勝手口の扉があるの。
夫はそこで何故だか腰を抜かしていたわ。
「麹くん、どうしたの⁉」
麹くんとは私の大事な旦那様。
お酒を造る酒造会社に生まれたから、義理のお父さまがお酒に愛されるように"麹"と名付けたの。
本当にお酒を愛してらした義理父さまだったわ。
麹くんは散々からかわれて嫌だったとは言ってたけれど。
まあ、現在はこのお店で実家のお酒を提供している居酒屋の店主になっているから、もしかしたら気に入っているのかもね。
そんな麹くんはわなわなと手を震わせて勝手口を指さして口をパクパクさせているの。
どうやら何かあったみたい。
私は、息を吸ってから勝手口のドアノブに手をかける。
すると、向こうから誰かが扉を開けたの。
「わっ!」
私は麹くんに抱き付く。
「〇✕△□?」
そこには、見たこともない不思議な恰好をした人が困惑気に立っていた。
しかも、英語でも中国語でもない言葉を話して。
「▼〇□××?」
「え、えーと、Why?」
麹くんがなけなしの英語の知識で聞いたけれど、やはり言葉は通じなかったわ。
麹くん、ちなみに「Why?」は「なぜ」よ……。
仕方なく、私は最近ハマっている韓国ドラマで培った知識で話しかけてみる。
「〇〇●‼」
初めて、言葉が通じたみたいでその人は嬉しそうに笑顔を見せる。
少なくとも宇宙人ではないみたい。
「同じ(?)人間だもの、きっと分かり合えるわ」
私は今後の人生に自信が付いた気がした。
「△△××!」
その人は、麹くんの側に置いてあった日本酒の酒瓶を見て歓声を上げたみたい。
酒瓶に近寄って手に持つと、嬉しそうにちゃぷちゃぷとお酒の液体を振っている。
「飲みますか?」
麴くんがおずおずと聞く。
「○○!」
その言葉は通じたのか、その人は何度も頷いた。
私はお猪口に透明な日本酒を注ぐ。
お猪口を見たことが無いのか、その人は不思議そうにしばらく見ていたが意を決して手に持つと口元に運んだ。
「オイシイ……」
私と麴くんは驚いた。
「い、今、美味しいって言ったよな?」
「言ったわね。世界共通語なんだわ、美味しいって!」
「ハイ、トテモトテモオイシイデス」
その人は片言だが完璧な日本語を話した。
言葉も出ない私と麴くんに向かって、優雅にその人は一礼をする。
「ワタシ、イセカイノヒト。ピュアーロジンデス。オサケノマホウデコトバガツウジマシタ」
「「お酒の魔法?」」
同時に言う私たちに、ピュアーロ人を名乗る異世界の人は続けて言った。
「ピュアーロジン、オサケトテモスキ。ゼヒトモコノオサケ、ムコウデノミタイ。イクラハラエバイイ?」
「ええっ!」
まだ驚いている麴くんを置いて、私は店の戸棚から新しい別の種類の酒瓶を持ってきた。
奮発して一升瓶を二本だ。
「はい。どうぞ」
ピュアーロ人は困った様に私を見る。
「お代は要らないわ。異世界との交流の証に、プレゼント!」
「サンキュー、ナンデス」
こうして異世界のピュアーロ人さんは勝手口から帰って行った。
物語はそれで終わりかなとその時は私も麴くんも思った。