本気
――「教室、戻るのか?」
「はい、もう大丈夫」
未来は真っ直ぐな視線を俺に、そして空に向けた。
「歩くんは、私のこと見ていて下さい。私、頑張りますから」
「は? 何だよ、それ。俺だってついて行くに決まってるだろ」
「ありがとうございます。……でも、これは私の問題です。だから、ちゃんと一人で向き合ってみたい。強くなりたい。お願い、歩くん」
「……」
「私には、歩くんがいる。それだけで、私は戦えるから」
……ふざけんなよ。俺はお前を守る為にいるんだろ。――だけど、未来の覚悟を決めた瞳に、俺は答えることにした。
「……分かったよ。だけどお前がピンチになったら俺はすぐに助けに行くぞ。いいな?」
「はいっ……!」
未来はどこか安堵した笑顔を見せる。
未来に手を挙げる奴は、俺が許さない。
「じゃあ、行きましょう」
「ああ」
未来の言葉と共に、俺達は歩き出す。教室に入るのが一瞬不安になったのか、未来は俺の手をぎゅっと握った。
「大丈夫だ」
俺は未来の小さな手を優しく握り返し、そう言った。
未来は、約束通り一人で教室に入った。
「あ、天宮ちゃ~ん。何か、どっかの知らねえ奴に絡まれたんだけど~! お前、どうしてくれんの」
さっきのさっきのあいつ……! 俺が隠れて未来を見守っているのをいいことに。
「……」
「おい、何とか言えよ!」
「知らない奴じゃ、ない。あの人は、私の大切な人だからっ……!」
未来――……。俺もだよ。
「ああ!? ふざけんなッ! お前にそんな奴いるわけねえだろ!」
そう言った主犯が未来に手を挙げた時――。
「お前、次未来をいじめたら、容赦しないって言ったよな?」
「歩くん!」
未来の言葉にふっと微笑んだ後、俺は主犯の胸倉を力一杯掴む。
「痛ッ……!」
主犯が顔をしかめたその瞬間、俺は勢い良く拳を振り上げた。
ドシャ!!
主犯の身体は傍にあった机にぶつかり、あっさりと崩れ落ちた。
「俺の未来に手出すな」
俺が見下ろしながらそう言うと、周りのクラスメイトはそそくさと教室を後にする。中には興味津々でこちらを見ている者もいたが。
「歩くんっ……! ありがとう」
「ほんと泣き虫だな。未来は」