逆プロポーズ
バンッと勢い良く扉を開く。
「!!」
なんと天宮は、柵によじ登っているところだった。
やめろ。天宮。死ぬな。いや――
死なないでくれ。
「天宮ァ!!」
俺は大声で名前を呼ぶと、天宮の身体を勢い良く抱き寄せた。そう、出会った時の天宮と同じように。
「お前、俺と結婚しろ!!」
俺はそう叫んだ。こんなプロポーズの仕方があるか、と思うが、無我夢中な俺の頭は、彼女を助けることで精一杯だった。
後ろから抱き留めているのだから、今、天宮がどんな表情をしているのかは分からない。お願いだ、お願いだ、俺の気持ちが届いてくれ。
「長谷部くん……?」
「何なんだよ、お前。何かあるならちゃんと俺に相談しろよ。ふざけんなよ! お前のことは俺が助ける。ずっとずっと傍にいる。俺達、結婚するんだろ!? 幸せな家庭作るんだよ! だからお前は生きるんだよ!」
「は、せべく……」
天宮の声が震える。
「逃げたっていいんだよ! 無理して学校来なくていいんだよ! 俺が毎日遊びに行ってやる! お前は1人じゃないんだよ!」
「う、うわああああん」
天宮は全身を震わせながら、泣き出した。
「も、もう、毎日辛くて、死にたくてっ……! そんな時、あなたが自殺するのかなって。死なないで、って思、って。私も死のうとしてたのにおかしいですよね……。でも、気付いたら、プロポーズしててっ。そしたら、結局長谷部くんはとってもいい人で」
天宮はヒクヒクっと喉を鳴らしながら、一息ついた。
「だけど、それでもやっぱりエスカレートしていくいじめに耐えられなくてっ……! 長谷部くんとの幸せな思い出を抱いて死のうって思ったんです。思い出作りは途中だったけどっ」
「ッ……! やめろ! 俺が一生お前の側にいる! お前は俺と一緒に生きるんだよ!」
「長谷部くんっ……!」
「ずっと1人で無理しやがって。お前には俺がいるだろ!!」
ああ、俺は今とんでもなく恥ずかしいことを言っている。それでも、俺の気持ち全部、こいつに伝えたい。
「っ……!」
天宮は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を、必死に上下に動かした。
「うううっ……!」
いつも通り泣き虫な天宮を、俺はひたすらに抱き締めていた。
――「そう言えば、お前の名前何て言うの?」
「あっ……! 確かに、名前言ってなかったですね。じゃあ、長谷部くんの下の名前から教えて下さいよ!」
「俺? ……長谷部、歩」
――下の名前も知らなかった、そんな2人の関係。それでも、俺達は――
「私は、天宮未来です」
今日から、一緒に未来を歩んでいくと誓った。