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悪徳神官の顛末

「俺の加護鑑定結果は偽りのものだったんだろう? だからもう一度鑑定してもらいにきた」

「なっ……!! 私の仕事に言いがかりをつけるというのですか!?」

「あんたは俺を加護なしだと鑑定した。でもこのとおり、加護なら使える」

 俺はその場で例の加護を発動させてみせた。

 もちろん神官に向かって、攻撃を放ったりはしなかったが。

 なぜならそんなことせずとも俺の加護を見た途端、神官は腰を抜かしてしまったからだ。

「ひぃっ!? こ、殺されるぅっ……! 衛兵! 衛兵ぃいいい!!」

 神官が喚き散らすと、武器を手にした衛兵たちが駆けつけてきた。

「この者が私に狼藉を働こうとしているのです! さっさとつまみ出してください!!」

 震える指で神官が俺を指さす。

 誤解されたくなかったので、衛兵が現れる前に発動させた加護は解除しておいた。

 丸腰で立っているだけの俺と、取り乱している神官を見比べた衛兵たちは、どうしたものかというような表情を浮かべた。

「何を迷っているのです! さっさとその者を捕まえるのですッ! あなたがたは神官を守るために雇われているのでしょう!?」

 鬼の形相で捲し立てる神官の勢いに気圧され、衛兵たちが俺を取り囲む。

「俺は加護鑑定の不正について、話を聞いてもらいたいだけだ」

「聞いたか、衛兵たちよ! 加護鑑定で不正が行われるなどありえるわけがない! この不届き者はアッカルド神殿の権威を侮辱しにきたのだ! 摘み出すだけでは足りん。私が許可する。切り捨ててしまえ!」

 神官が責任を取るとわかったからか、衛兵たちはもはや躊躇うことがない。

 力技で俺を摘まみだそうと襲い掛かってくる。

 こんなところで無意味に戦うつもりなんてなかったのだが、迎え撃つしかなさそうだ。

 一対十五か。

「イエティ、氷魔法で複数の敵の動きを封じるなら、どういう使い方を勧める?」

 隣でふよふよ浮いているイエティに尋ねる。

 神官にはイエティがまったく見えていない様子だ。

 ――氷の輪を飛ばして、脚を切断してしまえば、一歩も動けなくなるでしょう。

 それはバイオレンスが過ぎるな……?

「衛兵たちは悪者ってわけじゃないから、動きを止められればそれで十分だ」

 ――なるほど。では吹雪による超音波を用いるのがよいでしょう。一瞬で彼らを気絶させることができます。

「衛兵たちの命を危険に晒すことなく?」

 ――さようでございます。

「わかった。やってみる」

 《吹雪の超音波》なるものを発動させるための知識は持っている。

 ――ご主人様、ご自身の耳を塞ぐことをお忘れなく。

「ああ」

 両手で耳を押さえてから、頭の中で魔法をイメージする。

 大きく息を吸い込み、口から冷気を吐き出すと――。


 ヒュォオオオオオオオッッッッ――。


 耳を塞いでいても、体がぴりっとなる。

 吹雪の超音波を直に聞いてしまった衛兵や神官は、目を回してその場に倒れ込んでしまったぐらいだ。

「……生きてるよな?」

 ――気絶しただけでございます。

 ならよかった。

 ――申し訳ございません、ご主人様。……なんだか私、急に眠く……すぴーすぴー……。

 言ってる傍から寝息が聞こえはじめ、やがてイエティの存在が遠のいていくような感覚がして、寝息も届かなくなった。

 まったく気配がなくなったというわけではない。

 恐らく脳の中の深いところで眠りについたのだろう。

 力を使ったからなのか、疲労が溜まっていたからなのか。まあゆっくり眠らせてやろうと思う。

「さて……。衛兵たちはとりあえず気絶させたままにしておくとして――」

 俺は転がっている神官の前にしゃがみ込むと、その頬をペチペチと軽く叩いた。

 神官の瞼がパチッと開く。

 俺と目が遭った途端、神官の顔は真っ青になった。

 自分のほうが分が悪いと気づいたのだろう。

「あっあっ……ぁひいいいッッどうかお助けをぉおおおッッッ……!!」

 あっさり態度を翻した神官が、床に額を擦りつける勢いで土下座してくる。

「ほんっとうに申し訳ございませんッッッ。私だってあんな事はしたくなかったのです! しかし、あなたのお義兄さんがどうしてもと頼んできたので断り切れずッ……。ああっ、どうお詫びをしたらいいものか……!!」

 一方的に叫び続けている神官を前に、ため息を吐いたとき――。

「なんの騒ぎです?」


◇◇◇


 静かで威厳に満ちているにも関わらず、あどけなさの残る声がした。

 振り返ると、神殿の奥の扉から人が出てくるところだった。

 頭からすっぽりとローブを被っているせいで、相手の顔は見えない。

「し、神官長代理様……」

 土下座したままの体勢で、神官が呟く。

 神官長代理?

 ローブのせいで顔立ちは確認できないが、幼い声や小柄な体格を見れば、明らかに俺より年下だとわかる。

 その年で神官長代理の座についているということは、よっぽどの実力者なのだろう。

 少女は気絶している衛兵たちをちらりと見やり、それから俺を見て、最後に神官の前で視線を止めた。

「あっあのっ、神官長代理様、これにはそのわけが……!」

 神官が捲し立てようとするのを、神官長代理の少女が手で制する。

 彼女はそのまま無言で杖を翳した。

 杖の先端がぽうっと光り、少ししてから消える。

「……なるほど。情けない話ですね。神に捧げるべき心を、欲に乗っ取られ買収されるとは……」

 どうやら神官長代理は、魔法を用いて悪徳神官が犯した罪を垣間見たようだ。

 すべてを見透かしているような瞳で、神官長代理が神官のことを冷ややかに眺める。

 その途端、神官の顔に絶望の色が広がった。

 口で何と言おうが、自分の罪をごまかせないと悟ったのだろう。

「そちらのあなた、誠に申し訳ありませんでした。この者に代わって謝罪させていただきます。神官長は朝の祈りの最中でご不在なため、私が改めて加護鑑定を行わせていただきます」

「な!? そんな……! 神官長代理ともあろうお方が、こんな一般人の加護鑑定をしてやるなんてありえません……!! あなた様の加護鑑定を受けられるのは、貴族だけのはず……!!」

「黙りなさい」

「ひっ……!」

「そのように身分や立場ばかりに気を取られているから、くだらない過ちを犯すことになったのです」

 神官長代理に威圧され、義兄と組んでいた神官は震え上がった。

「さあ、ついてきてください。奥で再鑑定をいたしましょう」

 悪徳神官に対する時とは違い、穏やかな声音で神官長代理が俺に呼び掛けてきた。

 俺は頷き返し、神官長代理の後に続いた。

 神官長代理は奥の間に繋がる廊下に出る時、青ざめている悪徳神官のほうを振り返った。

「悪に魂を売った者を神殿に置いておくわけにはいきません。すぐさま荷物をまとめて出て行きなさい」

「ああ、そんな……」

 悪徳神官が床に頽れるのと同時に、扉が閉まった。

本日、あと2話更新します。

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