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祝賀会

「それでは改めて――、ディオ・ブライド君。Aランク冒険者認定試験の合格おめでとう!」

 ギルドマスターが立ち上がり、木樽ジョッキをかかげる。

 それを合図に、お祝いの場に集まってくれた人たちから、一斉におめでとうの声がかけられた。

 受付嬢マーガレットの手配してくれた小さな酒場は今日、貸し切りになっているので、気兼ねなく騒ぐことができた。

 席についているのは顔見知りの面々ばかりだ。

 ギルドマスター、ルカ試験官、マーガレット、アリシア、それからウォーレンも。

 俺の右側の足元にはいつもどおりフェンが伏せをしていて、左側にはなんとキャスパリーグが座っている。

 キャスパリーグは俺たちの後を勝手についてきてしまったのだ。

 彼女曰く、とくにすることがなくなったから、飽きるまで一緒にいることにしたらしい。

 フェンは納得がいかないようで、キャスパリーグが少しでも近づくと唸って威嚇する。

 キャスパリーグのほうは全然気にせず、尻尾を優雅に振ってはフェンを挑発した。

 とはいえキャスパリーグはそれ以上の問題を起こすわけでもないし、トーマスのために行動していたことからも悪い魔獣ではないことがわかっている。

 だから好きにさせることにした。

 フェンがあんまり嫌がるのならよくないと思ったけれど、こっそり尋ねてみたところ、『すぐにどうこうしなくてもいい。だが主に迷惑をかけたら、我が噛み殺してやる』という返事が戻ってきたのだった。

 そんなことを思い出しながらキャスパリーグを眺めていると、正面の席に座っているギルドマスターから声をかけられた。

「今回の任務報告の最中、SSランクのキャスパリーグが現れたと聞いた時には、嫌な汗をかいたものだが……。さすがディオ君だ。キャスパリーグまですっかり手懐けてしまっているようだな」

 キャスパリーグは自分の意志でついてきただけなので、手懐けたというのは語弊がある。

 そう伝えたら、何を言ってるんだという顔をされた。

「キャスパリーグはSSランクの魔獣の中でも、とくに狡猾で獰猛だと知られている。それが見てくれ。君の隣ではおすまし顔で座っているんだぞ!?」

 たしかに魔獣辞典には、ギルドマスターの言うような情報が記されていた。

 先人の教えを全否定するつもりはないが、今回接してみてキャスパリーグに対するイメージはがらりと変わった。

「魔獣の性格は個体差がかなりあるようです。このキャスパリーグは俺が会ったときから、優しさを持った子でしたし」

 キャスパリーグを再び見ると、なぜか彼女はその澄んだ目で俺をまじまじと見つめていた。

『……別に優しくないにゃ』

「そんなことはないだろ」

『優しく見せて取り入ってやろうっていう魂胆かもしれないにゃ』

 俺は笑ってしまった。

「もしそう思ってるなら、計画を口にしちゃまずいんじゃないか?」

『にゃ!? そ、それは……うっかりしただけかもしれないにゃ……!』

 そんなうっかりしてる時点で、やっぱり狡猾さとは無縁だと思うけどな。

 俺がクスクス笑ったせいで、キャスパリーグはばつが悪いのか、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

 フェンとはまた違った意味で、かわいらしい魔獣だ。

 後ろからそっと手を伸ばし、ビロードのような短毛を撫でる。

 意外にもキャスパリーグは嫌がらず、ゴロゴロと小さく喉を鳴らした。

「……! いや、可愛すぎるだろう……!」

 っと、まずい。

 またうっかり全力でデレデレしてしまった。

 咳ばらいをして、なんとか表情を引き締める。

「ははは、ディオくんは本当に魔獣が好きなんだな。その点も実に素晴らしい。だからこそ、魔獣たちも気を許して懐くのだろう」

「この調子だと、ディオさん、稀代の魔獣使いになっちゃうかもしれませんね!? なんてったって、冒険者デビューした直後から、両手にSSランクの魔物を侍らせているぐらいですしっ!」

 ギルドマスターの隣に座っているマーガレットが、テーブルに身を乗り出して叫ぶ。

「侍らせるって……」

 苦笑するしかない。

「とにもかくにも、ディオさん、合格おめでとうございます!」

「ディオ君の活躍に期待しているぞ!」

 マーガレットとギルドマスターが改めてお祝いの言葉を伝えてくる。

 その流れに追従しようと思ったのか、左隣に座っているルカ試験官が、テーブルの上に置いている俺の手のひらを指先でつんとつついてきた。

「あ、あの私からも伝えたいことが……。依頼に同行させてもらったことで、あなたのすぐれた人柄と見事な実力を目の当たりにしました。ディオさんならこの先何があっても、道を切り開いていけるでしょう。私はそんなあなたを命がけでサポートいたします……!」

 一息でまくし立てるようにルカ試験官が言う。

 テーブルについている人々は呆気にとられた顔で、ルカ試験官をまじまじと見ているが、ルカ試験官自身は周囲の様子などまるで目に入っていない。

 ルカ試験官の過去を知っている俺ですら、熱烈な言葉に驚いたぐらいなので、他の皆がどう思ったか。

「今の言葉、聞きましたか。ギルドマスター……!」

「ああ、あの大人しくて口数の少ないルカ試験官が、あれほど饒舌にディオさんのことを絶賛するなんて衝撃だな」

「それより、永遠に特別な存在って言いましたよ!? 告白しちゃったってことじゃないですかっ!?」

「くっ、た、たしかに。うらやましい……。若者らしい眩しさで消滅しそうだ……」

「ロマンチックですよねえ!」

 まずい。ギルドマスターとマーガレットが、変な方向で盛大に勘違いされている。

「あの、今のルカ試験官の言葉はそういう意味ではなくて……」

 補足説明しようとしたところで、右隣から咳払いが聞こえてきた。

 振り返るとアリシアが唇をぷうっと尖らせている。

「君が誰からも好かれる人だってことはわかるけど……あんまり見せつけられると妬いちゃうな」

「え?」

「ね、私からもお祝いを言わせて。ディオ、本試験の合格おめでとう! 何よりも怪我なく戻ってきてくれてホッとしたわ。遅くなっちゃったけど、おかえりなさい」

 俺の右手にそっと触れて、アリシアがにこっと笑う。

 はからずも左手をルカ試験官に、右手をアリシアに握られている状態になってしまった。

 なんだこれ……。

『主、両手に番だな』

「フェン……!!」

 この場にいる俺以外の人が、フェンの言葉を理解できなくて本当によかった。

『さすが我の主だ』

『あたしのご主人でもあるにゃ』

 また一触即発になる二匹。

「まあまあ、喧嘩はやめとけ」

 俺は苦笑しながらフェンとキャスパリーグを宥めた。

 ――ご主人様の目ざましいご成長……ううっ……私も感無量でございますっ……。

 この騒ぎでは寝ていられなかったのだろう。

 イエティが起きてきたようだ。

 俺にしか見えない半透明のイエティは、ごちそうの載ったテーブルのうえで、大粒の涙を流している。

 思い起こせば、アダムによって突き落とされた奈落の谷でイエティと出会ったのが、俺の冒険の始まりだったともいえる。

 その出会いからずっと傍にいて、支えてくれたイエティ。

 冒険者としてスタートラインに立てた瞬間を、イエティとともに迎えられて本当によかった。

「さあ、ディオ君。明日には本部から君の冒険者ライセンスが届く。それで正式登録の完了だ。本当におめでとうディオ君。君の新たな門出にもう一度乾杯だ!」

 ギルドマスターの掛け声杯に合わせて、みんなも一斉にグラスを掲げる。

 こうして、笑い声の絶えない夜は更けていった――。

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これにて第一部完結です!

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