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2丁目18番地、9号のトナカイ。  作者: ビートマサブネ
1/1

01

 階下で弟が騒がしい。降りるのは面倒臭いから、俺も声を張って、何があったか聞いてみる。わかったことは、ざっと六つ。

 ・お腹が痛い。

 ・外に変な奴が立ってる。

 ・ツツジの花の匂いがする。

 ・見た感じは醜悪。

 ・首から上がトナカイで出来てる。

 ・腰より下はウクライナにいる気分。

 主語が抜けてると対象が不明なので、ざっと六つを、声を張り上げて問い質した。すぐに回答してくれたからいいけど、なら最初からそう言えばいいのに。その内容を踏まえ、以下のように修正を加える。

 ・弟はお腹が痛い。

 ・弟の見てる外に変な奴が立ってる。

 ・弟はツツジの花の匂いを感じる。

 ・弟が見るに、見た感じが醜悪。

 ・弟の首から上はトナカイじゃない。外の変な奴の首から上に、弟がトナカイを感じている。

 ・弟の腰から下が、勝手にウクライナにいる。俺の認識でのここは日本国の一部。金満親父が余らした6LDK2階建ての一室。

 記録して最初に思ったのは、冗長な気がするということ。トナカイを削除して、変な奴が立ってる。それだけでよくはないか?問い詰めても、弟は屍のようだ。何も答えない。

 彼は面倒臭い。面倒臭いけど、俺も布団から起きることにする。カーテンを開けて、本日初めましての太陽を浴びる。

 家の外のぐるりを2階の俺の部屋から見てはみるが、トナカイはいない。そりゃそうだ。日本だもん、ここは。

 階下から弟のアドバイスが聞こえる。首から上がトナカイで、あとは普通。普通に人間で、普通に醜悪な感じ。

 俺みたいな感じ?

 俺よりは醜悪な感じ。

 さじ加減がシビアだ。

 さじ加減といえば、母がいた日々。塩のさじ加減とやらで、何が変わるんだっけか。俺たち二人とも、味の好みがてんでバラバラだった。うどんを出してしまうと、殺し合いになる。

 弟がミッション系の幼稚園の年中さんで、俺が市立小学校の3年だったときの話だ。母が出したうどんが辛口で、弟には不満だった。一口だけ食べて、ほんの少し泣いて、食卓に突っ伏して動かなくなった。俺は母から七味唐辛子を貰って、弟のことは気にしないで食べた。食後二ヶ月が過ぎた頃、俺は弟に包丁で刺されて、母がメッチャ泣いた。

 昼間のうちに病院に行ったから、父はこのことを知らない。二週間ほど入院することになったけど、父は疑問に感じた風ではなかった。母がうまいこと言ったのだろう。その母は、医者には何度も聞かれていた。偶然で、お腹に包丁が刺さりますかね?

 母は笑って言った。宝くじでも当たりますかね?

 二ヶ月が過ぎてからの凶行だったから、母もうどんのこととは思わない。俺は弟に、ちゃんと聞いたから知っている。俺と弟の秘密だった。


(続く)

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