変態のくせにそんなことも分からないんですか?
圧倒的不利な状況である。
相手はただの喋って動くマネキン人形なのであるが、いかんせん植え付けられたトラウマがこれ以上の接触を頑なに拒んでいた。
「リクコの名前を出してくるとはいい度胸ですね。みじん切りにしてあげます」
「……とりつく島もない、か。そんなに私が信用できないの?」
「あったり前じゃないですかあっ! 第一なんでボク何も着ていないんです? ここは一体どこなんですか? あなたは誰なんですか? 全部分かるように説明して下さい。こと返答によっては粉々の刑ですからね」
必死の剣幕で問い詰めるキューに変態マネキンはたじろぐことなく答える。
「まあ、裸なのは再生の度合いが一目瞭然なのと…………あー……、それくらいだね。うん。それくらい」
「……今の間は?」
「……さ、さあ?」
深く踏み入って聞きたい欲求に駆られたキューだったか、とんでもない羞恥を受けそうであったので、あと一歩のところで踏みとどまった。
知らなければ良いことも世の中にはあるーー。
キューはそう自分に言い聞かせた。
というか目下辱めを受けている最中である。
中年太りのだらしない体躯に女児用水着を着用した紛れもない変態の前に、全裸で対峙している今の状況以上に屈辱的なことなどありはしない。いや、あってはならない。
一方変態マネキンは警戒心を解かず尻尾を立て威嚇し続けるキューを見、何やら得心したようで「うんうん」とうなずいて立ち上がり、
「どうやら認識の齟齬があるようね」
「そんな得意げに言われてもあなたが変態なのは変わりませんよ」
「私もね、キューちゃんが喜ぶからってこんな姿でいるのは我慢ならなかったけど、すべてはキューちゃんのため。良かれと思って……」
「変態さん…………あなた……やっぱり変態は変態なんですね。成敗ですッ!」
「待ったっ! そうだ、名前! 教えてなかったでしょう? 私の名前はーー」
ーーアル。
その名前を聞いた瞬間、キューの目から動揺が消え去った。
被験体二号「アル」
サイコロ大のコアからなる不定形の生命体。無機物に取り憑いて自在に動かすことができる。
道理をよくわきまえているので数少ない信頼のおける仲間だ。
ーーそう、ミレイが言っていた。
直接会ったことは一度もないが、ミレイがそう言うのであれば信用せざるを得ない。
「まだ聞きたいことは山ほどありますが、とりあえずリクコに合わせて下さい。ミレイにもです。……いや、それよりも着るもの寄越して下さい。変態のくせにそんなことも分かんないんですか?」
キューのアルへの認識が「変態」から改まるにはそれ相応の時間が必要だった。




