豆腐ハウスへようこそ
【前回のあらすじ】
少女を負ぶってどこへ行く
背丈の三倍はあろうかという細かい格子状のフェンスは、その仰々しい物々しさを主張していた。
そのフェンス越しに見える建物は謂わば無機的で、他の住宅街の建物に垣間見えるヒトの温もりの残滓のまるでない、固い印象を受けた。
キューの指示に従って歩き、外周沿いに暫く進むと、ヒト一人入れる程度の小さなドアがあり、南京錠と鎖で厳重に施錠されていた。
「……ここ、なのか?」
「はい。基本的にここからしか出入りはできません」
「でも鍵かかってるぞ」
「ええ……ですから――こうするんですっ!」
キューは尻尾を頭上高く振り上げると、先端を尖らせ、鎌首をもたげた状態から鞭のようにしなりをつけて、施錠部位に叩きつけた。
目にも留まらぬその衝撃はいとも容易く、しかも正確無比に錠だけを破壊した。
あんなものくらったらひとたまりも無い。手負いの状態でこの破壊力なのだ。その時ノリはいかに自分がキューに手加減されているかを思い知った。
ゾッと血の気の引いたノリの心情を慮ってか、キューが付け加える。
「ノリにはこんなことしませんよ。ボクだってヒトの頭が風船みたいに破裂するの見たくないですし。さあ、行きましょう」
「はいはい、そうねそうだよねえ」
何もフォローになってないフォローを半ば自棄になって受け流し、中に入っていく。
中の構造は迷路のように複雑怪奇で、案内なくしては目的地に辿り着けないだろうことは容易に想像できた。事それ自体がここがいかに重要な拠点なのだという証左である。
「なあ、中にいるヤツは信用できるのか? 僕の記憶が正しければ随分と巫山戯た感じのヤツだったんだが――」
「彼女は……リクコといいます。言葉遣いや見た目がノリを多少驚かせてしまうかもしれませんが、優秀な子ですよ――っとそこを右に曲がって下さい。そうすれば正面の建物が目的地です」
そうして、そこにあったのは装飾のかけらもないまるで――豆腐のような正立方体の建物だった。
正面についた観音開きのドアの取手に手をかける。
「……開いてるっ!?」
そのまま開け放つと、中央に陣取るようにして立ち、赤地に白の椿の絵柄の入った振袖を着て、こちらに背を向けた黒髪の少女が「待っていました」とばかりに、両腕をいっぱいに広げ言った。
「我が豆腐ハウスへようこそ。お待ちしておりましたよモルモット君」
「……お前がリクコだな。頼みが――」
「いいよ~、お引き受け一丁!」
リクコが腕を下げ半身をよじって顔を向ける。
その顔には、目が一つしか無かった。
十一話目にしてようやく単眼少女ちゃん改めリクコが舞台袖から現れました。
ホントは一話目から出したかったのに、物語の都合上ムリでした。
さてどう活躍させてやろうか。