93.僕らの地球を守れ! 20世紀地球防衛軍(操縦アクション)<3>
『ステージ3 スンガ激動!』
アメリカ合衆国の東にある海の上を軍艦が進んでいる。哨戒中なのだろうか。
軍艦の周囲には何もなく、ただ波の音だけが響きわたっている。
だが、その平和はいつまでも続かない。海面が大きく波打ったかと思うと、海中から巨大な何かが飛び出してくる。
それは、竜のあぎと。東洋の伝説に伝わる竜が、海から顔を出したのだ。
軍艦はとっさに砲撃を開始するが、竜はそれを気にした様子も見せず、逆に頭を軍艦に近づけていく。
そして次の瞬間、竜は軍艦にかじりついた。金属で作られた軍艦だが、竜はそれを軽々と咀嚼。しかし、味が気に入らなかったのか、竜は口からひしゃげたスクラップを吐き出す。そして、口から水流を吐き出して軍艦を完全に破壊した。
軍艦を沈めた竜はおたけびを上げ、再び海の下へと潜っていくのであった。
そこで視界が暗転し、モロボシ・アンヌのアバターに意識が戻る。
『海蛇怪獣スンガの位置を捕捉! 対宇宙怪獣特務隊はただちに出撃せよ!』
そのアナウンスを聞き、アバターが自動で格納庫に駆けていく。
次の怪獣は、竜かと思ったら海蛇か。でも、デザインは明らかに東洋の竜だったな。
俺は、格納庫で怪獣の情報をチェックする。
怪獣スンガは水の星に生息していた怪獣だが、とにかく食いしん坊で、星の水中に住む全ての生物を食い尽くしてしまった。
そこで、空を飛べ宇宙も飛べるスンガは、宇宙でも珍しい水の星である地球に目をつけ、大西洋に落下した。
その後、地球防衛軍はスンガの居場所を探していたが、アメリカ東海岸にて今回発見された。
スンガはとにかく水が好きで、空も飛べるが海から出ようとはしないと推測される、か……。
「乗り込む機体は……おっ、水中兵器が解放されているな」
潜航艇に、海底を進む戦車もある。
『せっかくだから水中兵器に乗ろうぜ!』『戦闘機で行って、水中に潜られるとどうしようもないですからね』『うーん、逆に水中の方が、怪獣が強くなるかも』『ヨシちゃんの判断に任せる!』
俺は少し悩んでから潜航艇を選び、すぐさま機体に乗り込む。
そしてまた第三者視点で発進シーンだ。
まずは空中輸送機が、大西洋の西側まで飛んでいく。すると、輸送機は海面に向けて巨大なカーゴを放り出した。そして基地へと帰っていく輸送機。
一方、海面上を漂うカーゴ。カーゴに取り付けられていたハッチが開き、そこから水中に向かってレールが伸びていく。
さらに、ハッチの奥から潜航艇が姿を見せ、レールを伝って海の中へ潜航艇が発進する。
海の中を進む流線形のフォルムをした潜航艇。
ここでまたワンダバに曲が変わり、潜航艇のコックピットで操縦桿を握るモロボシ・アンヌのアバターに意識が戻る。
ふーむ、水中を進む潜航艇だが、操縦の基本は戦闘機とあまり変わらないようだな。ビームやレーザーといったエネルギー系の武装がない代わりに、小型魚雷がたんまり積まれている。それと、銃弾の代わりにニードルガンが装備されていた。
一通りの武装を確認したところで、俺は潜航艇を加速させて前へと進む。
『はー、海中もしっかり作り込まれているんだな』『魚が泳いでおる』『こういうのはゲーム製作者用にプリセットが売っているよ』『そうなのか。インディーズゲーム業界も奥が深い』
「あー、21世紀でも、ゲーム製作者用にRPGの素材とかがネットで提供されていたりしたな。だから、フリーゲームのRPGもいろいろプレイしたもんだ。後は安値で販売されているエロ同人RPGとかも」
『ヨシちゃん今なんて?』『えろえろヨシちゃん』『この配信チャンネルは健全! 健全です!』『ヨシちゃんも以前は健全なおのこ。えっちなゲームくらいたしなむさ』
「いや、ごめんて。配信で流したわけじゃないんだから、過去のちょっとした所業は許せ」
そんな無駄話をしている間に、海獣スンガの尾がコックピットのモニターに映し出された。
BGMがワンダバから、戦闘用の曲へと切り替わる。
スンガはまだこちらに気づいていないようで、尾をたどって頭部を見ると、何やらクジラを食している最中のようであった。
食いしん坊怪獣か。クジラを全て食べつくしたら、今度は普通の魚を全て飲み込んでしまうのだろうな。
「許さん……地球の水産資源は全て20世紀の人類の物だ!」
『いかにも20世紀人らしい台詞!』『この発想が第三次世界大戦と太陽系植民地支配に繋がるんですねぇ』『傲慢ヨシちゃん』『まあ、今も無生物惑星は資源掘り放題しているけどな、人類』
一応言っておくけど、ジョークだからな。
さて、お馴染みとなった、無防備なところへの攻撃だ。小型魚雷、全門発射!
四つの魚雷が泡を吹いて海中を進み、クジラを噛み砕いている頭部へと突き刺さった。
大きな爆発が起き、潜航艇まで衝撃が伝わってくる。
のけぞったスンガだったが、すぐにこちらを向き、口を開いて威嚇を行なってくる。
いや、威嚇ではない、水流噴射だ!
俺はとっさに操縦桿を動かし、水流を回避した。
「ふう、危ない危ない」
そうして、戦闘は開始される。
怪獣スンガの特徴は、その長い胴体。ただの的にしか思えないこれだが、鞭のように操ってきてなかなか油断ができない相手だった。
さらには、水流を操りこちらの動きを誘導して、胴体で巻き付き攻撃をしてこようとする。
さすがに巻き付きを食らっては、電磁バリアでも耐え切れそうにない。俺は操縦桿を必死に操り、竜の胴体から逃れていった。
俺も負けじと、小型魚雷を何度もその胴体へと叩き込む。
そして。
「おらっ! ニードルガンじゃ! むっ!?」
顔に接近し巨大な針を命中させたところ、スンガの雰囲気が変わる。
胴体を埋め尽くしていた鱗が盛り上がり……なにやらトゲトゲとしたフォルムへと変化した。さらにはとぐろを巻き、円盤状に姿を変える。
そして、スンガはそのトゲトゲの目立つ円盤状の姿のまま、体当たりをしてきた。その攻撃を予想していた俺は、潜航艇を急発進させ、攻撃を回避する。
『第二形態!』『うわあ、攻撃力高そう』『竜だからどんな神秘的な攻撃してくるんだろうと思ったら、まさかの物理特化』『ヨシちゃん頑張れー!』
「が、頑張るー。さすがにあれに当たったらまずいよなぁ」
できるだけ距離を取って戦いたいが……でもこの機体の決め技、パイルバンカーなんだよなぁ。
俺はとりあえず離れたところから小型魚雷を撃って、チャンスを待つことにした。
『!? ヨシちゃん、今、色の違う鱗が』『マジ?』『それって逆鱗じゃねえの?』『弱点!』
「むむっ! どこだ!? オペレーターのヒスイさん!」
『今回私はオペレーター役ではないのですが……アゴの下あたりです』
「さすヒス! よし、見つけた! ニードルガンを食らえ!」
色の違うトゲトゲした鱗に近づき、針を撃ち込む。すると、スンガが大きくのけぞったので、チャンスとばかりに逆鱗へ近づき……。
「パイルバンカーだ!」
はいドーン! 命中だ!
杭に撃ち抜かれたスンガは、その身から力をなくしていき、海の底へと沈んでいった。
『ミッションコンプリート』
勝利だ!
『よくやってくれた! 回収班を寄越すので、カーゴに帰還してくれ!』
そんな総司令の言葉を聞きながら、俺はステージクリアの余韻に浸るのであった。
そして、セーブをするとすぐさま次のステージが始まる。
『ステージ4 ベヒロン星人上陸!』
第三者視点に切り替わる。風景はどこかの都市部の海岸線だ。テロップには、『日本 東京』とある。
最終ステージが東京かー。そう思っていると、海の中から怪獣が現れ、陸地に近づいてくる。
いや、待て。これは怪獣か? フォルムは人型に近い。表皮のゴツゴツさはいかにも怪獣といった感じの質感だが、シルエットは人間だ。
そうか、こいつの名前はベヒロン星人。宇宙怪獣でありつつも、巨大宇宙人でもあるわけか!
陸上に上陸したベヒロン星人は、複眼となっている目から怪光線を放ち、陸地にある建物を破壊する。そして、手を振り回してビルなどを破壊していった。
ベヒロン星人は街を崩壊させながら陸地の奥へ奥へと進んでいく。
そして、ベヒロン星人の歩みに従って動くカメラに映ったのは……東京タワー!
東京タワーを見たベヒロン星人は手に光をまとわせる。そして、その手刀を横薙ぎに払った。
ああー! 東京タワーが折れた! お約束過ぎる!
なすすべもなく蹂躙される東京の街。
光の巨人ー! 助けにきてくれー!
そんなことを思っていると、視界が暗転し、俺は地球防衛軍本部のモロボシ・アンヌのアバターに再憑依した。
『日本にベヒロン星人が出現! 対宇宙怪獣特務隊は決戦兵器を用い、これに当たれ!』
アナウンスと共に駆け出すアバター。
すぐに格納庫へと到着したので、俺は早速ベヒロン星人の情報を表示させた。
ベヒロン星人。銀河を支配する宇宙人で、地球侵略のためにこの地へと現れた。
一度、地球防衛軍のメーザー兵器部隊がベヒロン星人と交戦したのだが、メーザー兵器部隊は壊滅。そのとき傷を負ったベヒロン星人は太平洋へと消えていた。
ベヒロン星人の能力は多彩で、通常の秘密兵器ではさらなる敗北は必至。ゆえに、決戦兵器の投入を許可する、とある。
「決戦兵器ねー。どれどれ……」
兵器の選択画面を表示するとそこにあったのは……合体ロボであった。
五つの秘密兵器を合体させ、巨大な人型ロボットに変える新兵器。
胴体と頭部が装甲戦車、右脚が潜航艇、左脚が海底戦車、右腕が流線形戦闘機、左腕がドリル戦車。そう合体することで、正義の使者テラガイアーが誕生するらしい。
「うーん、これはまた、日曜日の朝に登場しそうな代物が出てきたな……」
『合体とか熱いな!』『マーズマシーナリーじゃ補給できない成分だ』『合体! 合体!』『さあ、ヨシちゃん、乗り込むんだ!』
このロボ好き視聴者どもめ。今日も抽出コメントが偏っておるわ。
まあ、俺も好きだけどな、合体!
この合体ロボ以外は兵器の選択肢がないようだったので、俺は早速、胴体となる装甲戦車に乗り込む。
操縦桿を握ると、視界が切り替わり、発進シークエンスへと移る。
地球防衛軍本部の島から、五つのマシンが発進していく。そしてそれらのマシンは空を飛び変形し、胴体の形となった装甲戦車にそれぞれのマシンが近づいていく。
まずは腕、次に脚。順番に胴体へと合体していく。
そして、胴体から頭が出てくると、合体ロボはポーズを取り、島の上に着地した。
「正義の使者、テラガイアー!」
合体終了と共に、カメラに正面から映った操縦席のモロボシ・アンヌのアバターが、勝手にそう叫ぶ。
『ヨシちゃん?』『このおじさん少女、ノリノリである』『そうだね、中身は男の子だもんね』『一緒に叫びたかったー』
「いや、今のはアバターが勝手に喋ってだな……いや、まあいいや。出動だ!」
最後のステージ、どんな戦いが待ち受けているだろうか。
僕らの地球を守れ! 正義の使者テラガイアー!