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21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!  作者: Leni
配信者と愉快な仲間達

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56/229

56.リドラの箱船(サバイバルアクション・農業シミュレーション)<2>

 セーブポイントの赤いモノリスの前に、俺は座り込んだ。

 いきなり死んだので、反省会だ。


「いまさら虎なんかに負けるとはなぁ……」


 そんなことを俺はぼやいた。話を聞いてくれるいつものヒスイさんはいないが、今の俺には視聴者達がいる。


『人食い虎の恐怖!』『いやいや、初期レベルなら虎は厳しいでしょ』『そのゲーム、レベルあるの?』『まずは小動物から狩っていくんじゃね』


「そうはいうが、ろくにキャラクターが成長しない『-TOUMA-』を最後までクリアした身としてはねぇ……ちなみにレベルはある」


『あのゲームでも素手で虎は無理でしょ』『チャンプが素手縛りで『-TOUMA-』の最高難易度一ヶ月モードクリアする動画上げていたよ』『システムアシストないゲームで素手縛りとか、チャンプなんなん?』『あの人、すでに人類卒業済みだから……』


 チャンプ、チャンプかぁ。確かにあの人なら素手で虎くらいくびり殺しそうだ。それもリアルで。


「あー、チャンプの超電脳空手道場に通っておけばよかったかな。それなら虎も素手で勝てたのに」


『超電脳空手道場』『なんぞそれ』『チャンプが開いているサイバー道場だよ。ソウルコネクトPvP素手勢のための格闘術講座だってさ』『チャンプそんなことしてんのか』『そこに通えば俺もチャンプの強さの秘密を……』『ちなみに有料な。安いけど』


 だが、今はゲーム中。中断して道場に通うわけにはいかない。

 ならば、どうするか。そう、武器を用意するのだ。


「サバイバル系ゲームのお約束と言っていいのか、幸いアイテムクラフト機能がある。それで武器を作ろう」


 俺はそう言って、足元を見回し始めた。

 ほどよく尖った石に、ひらべったい石をいくつか確保。道具を虚空に収納できるアイテムボックス機能を使ってしまっておく。

 そして、また森に向かって歩き出す。虎に遭わないよう森の浅い場所で、真っ直ぐな木の枝と、木に巻き付いているツルを回収した。


「材料はそろった!」


『わくわく』『なにつくるんだろうなーわからないなー』『きっとすごいものつくるんだろうなー』『期待が高まる』『ヨシちゃんならやってくれるよ』


「いや、別に驚きの結果とかないから! アイテムクラフト!」


『材料を投入し、作りたい物をイメージしてください』


 そんなメッセージが視界に表示され、目の前に魔法陣が広がった。なるほど、ファンタジー系のクラフト機能か。

 俺は、拾ってきた石、枝、ツルを魔法陣の上に載せる。すると、魔法陣に材料が飲み込まれた。

 そして、武器をイメージする。


『石槍、石斧が作成されますよろしいですか?』


 よろしい!


 そう念じると、ピカリと魔法陣が光り、魔法陣の中からするどく尖った石槍と、重そうな石斧が吐き出された。


『アイテムクラフトのスキルレベルが上がりました』


 そんなシステム音声を聞きながら、俺は右手に石槍、左手に石斧をつかむと、高々と掲げた。


『原始人爆誕』『完全に石器時代の人』『これは虎もイチコロですわ』『マンモス全滅の危機』『見た目が完全に合ってる』『21世紀は原始時代だった……?』


 そうなんだよなぁ。今の俺の格好は、簡素な貫頭衣である。女性キャラの初期衣装としてこれはどうかと思うんだが、孤島サバイバルなら、衣装も自分で作れということだろうか。


「よし、虎の毛皮剥いで、服にしちゃる」


『毛皮の服とか、野生児度がアップするな』『革にしてボンデージを……』『アイテムクラフトでなめし革にできるんだろうか』『アイテムクラフトを信じろ!』『アイテムクラフトならやってくれる』『石器しか作ってないのにアイテムクラフトの信頼感高いな!?』


 そんな視聴者コメントを聞きながら、俺は石斧をアイテムボックスにしまい、石槍を構えて森の奥に入っていった。

 遠くに見える暫定箱舟を目指しながら、うっそうとした森を進むことしばし。そいつは現れた。


「虎ァ! 死ねえ!」


 俺はアシスト動作を駆使して虎の側面にまわり、首筋に石槍を突き刺した。

 虎は苦悶の鳴き声をあげる。槍を抜き、今度は脇腹に一撃。そして、槍を手放しアイテムボックスから石斧を取り出して、虎の頭に叩きつけた。

 さらに何度も何度も頭に石斧を叩きつけていく。


 それで虎は沈黙し、倒れ伏す。HPバーの類はないので、念のためもう一度頭に石斧を叩き込む。


『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』

『槍のスキルレベルが上がりました』

『斧のスキルレベルが上がりました』


 なんか一気にレベルが上がったぞ。実は強敵だったのか。

 鳴き声があがらないのを確認すると、俺は虎をアイテムボックスに収納した。アイテムボックスには容量限界があるようだが、まだ入りそうだ。

 そして、俺は石斧を頭上に掲げながら言った。


「勝ったどー!」


『やるじゃん』『よっ! 虎殺し!』『肉も確保できて完璧』『虎って食えるの?』『肉食獣だから不味そう』


 虎肉かぁ。むっ、待て、視界にインフォメーションが来ている。なになに、図鑑が更新されましただって。

 俺は情報に従って図鑑を開くと、そこには虎の詳細が掲載されていた。


●コーラライガー

 コーラでできた血が流れるライガー。森に生えるコーラの実が主食で、肉食ではない。

 人を襲うことがあるが、それは食事のためでなく縄張りを守るためである。コーラライガー同士での生殖が可能であり、一匹のオスを頂点とした小さな群れを作って生活する。ライオン、虎との交配も可能。

 死骸をアイテムクラフトすることで、コーラ、肉、毛皮、骨を取り出すことができる。

 肉は柔らかくて美味。コーラ煮にするのがオススメ。


「……なんだこの不思議生物は」


『このゲームの生物、大体こんなノリだよ』『マジかよ。サバイバルの難易度低そうだな』『昔のゲームなのに、未知の生物の味データ、どこから引っ張ってきているのか気になりますね』『血を飲むのか……』


「21世紀に、こういうノリのグルメ生物を捕獲する漫画があったなぁ……」


 俺は、とりあえずうるおいゲージを回復させるために、血のコーラというやつを試してみることにした。


「アイテムクラフト!」


 魔法陣に虎の死骸を突っ込み、解体を意識する。

 すると、綺麗に剥がされた毛皮と、肉の塊、骨、そしてコーラの瓶が魔法陣から飛び出した。


「って、コーラの瓶かよ!」


『まさかの瓶』『どこから瓶生えた』『アイテムクラフトは神の力。なんでもあり』『なんでもありすぎるわ!』


 俺は、20本ほどになったコーラの瓶の一つを手に取り、まじまじと眺めた。

 中には茶色い液体が満たされている。そして、しっかりとキャップが閉まっている。


「この見た目、27世紀でも通用するんだなぁ。でも、栓抜きないから開けられないぞ」


『素手で開けるとか?』『低レベルじゃ力もないだろうから無理じゃね』『骨を材料にクラフト』『お前天才か』『骨もいい武器になりそうだよね』


「アイテムクラフト! ……骨でできた栓抜きとか初めて見たわ。よし、開けて、キャップは金属だから大切に取っておくとして、って消えた!?」


『材料に使われていない物質は仮の存在だから、役目を終えると消えるよ』『ファンタジーしてんな。やってることはコーラの瓶作りなのに』『それよりお味は?』『美味しかったら味覚共有してよ』


「どれ……、んぐ……ぷはー、うーん、普通のコーラだな!」


『残念』『未知の味を期待したんだが』『まあ初期スポーンの近くの敵だからかもしれんし』『ゲームが進むとグルメな敵も出るかも!』


 視聴者達がやたらと期待感を高めている。うーんでも、そんな未知の食材をたっぷり楽しめるようなグルメゲームだったら、ここまでマイナーゲーム扱いはされていないんじゃないか?

 そんな疑問を覚えつつ、コーラを最後まで飲みきる。すると、空になった瓶は空気に溶けるように消えていった。


「まあ、これでうるおいゲージの心配はなくなったな。さて、残りの物は全部収納して、先に進むか」


 そうして、俺は再び石槍を手に、森を進み始めた。

 だんだんと暫定箱舟が近づいてくる。あそこに辿り着けば、ゲームが本格的に始まるのだろうか。

 そう考えていたら、コーラライガーとまたエンカウントをした。今度は三匹だ。


「多勢に無勢……! でも諦めないぞ! てりゃあって、うわ!」


 背後から衝撃! 首だけで振り返ると、背中に一際大きなコーラライガーが噛みついていた。

 動きを止めた俺に、さらに他の三匹のコーラライガーが噛みついてくる。


「ぐえー!」


『あなたは死にました』


 目の前が真っ暗になり、また俺は海岸線のモノリスの前へと戻されていた。

 アイテムボックスを確認してみると、見事にアイテムを全ロストしていた。


「はー、しんど……」


 俺は、海岸線の砂場にどっかりと座り込んだ。


「あの森、正規ルートじゃないんじゃね? 明らかに初心者向けじゃない」


 そう視聴者に向けて言ってみるのだが。


『虎から逃げるな』『虎から逃げるな』『君ならできるよ』『虎から逃げるな』


 そう来ると思ったよ!

 仕方なしに、俺はまた石槍と石斧を作って、森へと足を踏み入れた。

 ときおりコーラライガーを発見しては、狩っていく。レベルが上昇し、身体がだんだんと軽くなってくる。

 そして、慎重に進み、群れには今度はこちらから奇襲をして全頭撃破。無事に切り抜けることに成功した。


「満腹ゲージが減ってきたな」


『そこに生肉があるじゃろ?』『虎肉の刺身』『真っ当なサバイバルアクションなら、腹を壊すかゲロを吐くかだな』『真っ当とはいったい……』


「火を起こす道具とかないからなぁ。ブッシュクラフト的な火起こしとか、こんな危険な森の中でやりたくないし……おっ、木の実あるじゃん」


 俺は、背の低い木に生えた赤い実をもいで、手に取った。

 匂いを嗅いでみる。うーん、無臭。

 実を手で割ってみると、今度は甘い匂いがあたりに立ちこめた。


「これはいけるんじゃないか。どれ……」


『あなたは死にました』


 俺は海岸線のモノリスの前に立っていた。


「……毒かよ!」


『お約束』『みんな! 知らない木の実やキノコはうかつに食べないようにね!』『ヨシちゃん死ななきゃいけないノルマでもあるの?』『でも初見のサバイバルゲームなんてこんなもんよね』『パッチテストなんてやってられないしね』


 はー、うかつだった。

 と、視界にまたインフォメーションが来ているな。図鑑の更新だ。どれどれ。


●コーラの実

 コーラ味の木の実。猛毒を持っているが、この毒に抗体のある動物が摂取することで、その動物はコーラ味の極上の肉質になる。

 また、実そのものも美味なので、もし毒抜きができたならデザートとして大活躍してくれることだろう。挑戦してみよう!


 ……有毒食材の毒抜きとか、本格的に漫画の世界だな。いや、世の中にはフグの肝の毒抜きとかもあるらしいが。

 とりあえず、あの森の木の実は手を出すのは危ないってことだな。


 今度は失敗しないように頑張ろう。

 と、出発の前に、俺は一つ気になったことを視聴者に向けて言った。


「ところで、視界の端のメニューに見える、信仰ポイントっていうのが死ぬたびに減っていっているんだけど……」


『さあ……』『不穏だよね』『神様から貰える力だよ。肉体を再構成するのに消費されている』『ゲーム経験者がいると、こういうとき助かるな』『神様のおかげで復活しているのか』『ちなみになくなるとゲームオーバーね』


「マジかよ!」


 説明書斜め読みだったから、覚えていなかったよ!

 ゲームオーバーになるまでにちゃんと箱舟らしき場所へと辿り着けるのか、少し心配になってきたぞ。

 無様をこれ以上晒したら、視聴者達の笑いものだ……。いや、それはそれで配信として美味しいのだけれどな。


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[一言] 要は信仰ポイントは残機か
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