51.MARS~英傑の絆~(ロボット操作アクション)<9>
地上戦が始まった。
宇宙での戦いとは違い単純に敵勢力を叩くだけでなく、さまざまなミッションが俺達サンダーバード隊に課されるようになる。
大陸間射撃砲の破壊や、兵器工場の破壊。移動要塞型陸上兵器と戦ったり、非人道的な超能力実験施設から実験体の解放をしたり。
ときおり月からの援護として上空から降ってくるマスドライバーの一撃は、笑ってしまう威力で敵がかわいそうになったりもした。
やけになって自国内で大量破壊兵器を使ってこちらの攻勢を止めようと画策する国などもあり、情報をキャッチしたスフィアが慌てて撤退命令を出したりもした。
『アフリカ大陸の平定おつかれさまです。残る主要国は、六つです』
横須賀拠点のミーティングルームで、スフィアが世界地図を表示してくれる。
北アメリカ統一国。ブラジル帝国。ソビエト連合国。ブリタニア教国。大ヨーロッパ連合。新モンゴル帝国。
うーん、見事に21世紀と国の名前が違うな。この時代までに第三次世界大戦があったというから、そこで国が入れ替わったのだろう。
『これはヨシちゃん、さらなる歴史の勉強が必要ですねぇ』『戦略シミュレーションあたりか』『『Eternal third war』シリーズ!』『あれ油断するとすぐに全面核戦争になる……』『実際、よく地球が滅びなかったもんだ』『ちなみに第三次世界大戦は、核融合炉の発明によって引き起こされた戦争ですよ』
むむむ。ロボットは好きだけど、ミリタリーにはそこまで興味がないんだよな。まあ、気が向いたときにでもやるとしよう。
『あっ、これやらないやつ』『ミリタリーは駄目かー』『戦争ゲーいくつかやったことあるって、スフィアに言ってなかったっけ』『気が向いたらやってね! 俺達との約束だ!』
そんなこんなでライブ配信は何日も続き、地上の国々は次々と惑星マルスの勢力下に入っていく。
残った敵勢力は自分達が劣勢と知り、ますます抵抗を激しくしていくが、ある時スフィアがこんな情報を俺達に伝えてきた。
『敵側から、惑星マルスの兵士は戦死しても魂のまま生きられるのは本当か、との問い合わせが頻繁に来るようになっています。国の中枢からではなく、現場の方からです』
「内通じゃん。そりゃまた、いい感じに仲間割れしてくれそうな状況だな」
『論文といくつかのデータを相手には返しています。こちらに降ると言っている場所もあるので、サンダーバード隊に出てもらいます』
「はいはい了解」
この情報でガタガタになったのが、宗教国であるブリタニア教国だ。
国の上層部は、兵は死後天に召されると説き、死は名誉なこととして扱った。
だが、現場レベルでは死は恐怖だ。兵士達は惑星マルスの死後も生きられる技術に興味を示すが、国はこれを強く弾圧した。
これにより、兵士と国の上層部の間で溝ができ、やがてクーデターが起きる。
そしてブリタニア教国は、死を克服する技術を提供してもらうことを条件に、惑星マルスの支配を受け入れた。
一方で、死を恐れぬ戦士達もいた。アジアを支配する新モンゴル帝国だ。
彼らは独特の思想教育をされており、戦闘を楽しむ兵士達が戦場を駆けていた。
≪ヒャッハァー! 死ねえー!≫
テレパシー越しにそんなことを言いつつ、人型搭乗ロボット用の斧を持って突っ込んでくる新モンゴル帝国側の機体。彼らは、マーズマシーナリーとはまた違った独自の人型搭乗ロボットを開発していた。
「単純明快でいいけど、どいつもこいつも近接武器ばっかり持っているのはどういうこと!?」
『斧ってあたりが殺意高い』『新モンゴル帝国側でプレイするのも楽しいよ』『こっちはパイルバンカーで対抗しようぜ!』『奴ら、加速がエグいんだよなぁ……』
そんなこんなで戦争は続く。
『金星が親マルス勢力によって平定されました』
「あー、別働隊が向かっていたとかいう」
『金星も地球の植民地だったのですが、地球勢力と、これを機に独立しようとする勢力、そして惑星マルスと足並みを揃えようとする勢力による内戦が起きていました。別に独立しても敵対さえされなければ構わなかったのですが、内戦が続くと惑星マルスそのものへの敵意が高まる可能性があったため、介入させてもらいました』
そんな説明をスフィアがしてくれる。
まあ、介入と言っても、他所の星の事情でこちらがこれ以上血を流すのをよしとせず、後方支援をメインとしたようなのだが。
一周目のゲームプレイが終われば、金星の戦いとかも体験できるのだろうか。
そして、ライブ配信14日目。
残る国は因縁の相手、北アメリカ統一国のみとなった。
追い詰められた北アメリカ統一国は、国民全員のソウルエネルギーを使い、サイコバリアで構成された超巨大兵器を造りだした。
一方、惑星マルス側は超能力艦を総動員し、さらにマスドライバーを用いてこれに対抗した。
正直、俺達マーズマシーナリーの出る幕ではない。
だが、その裏で北アメリカ統一国は、さらなる新兵器であるブラックホール弾を俺達の月拠点に向けて発射しようとしていた。
これを阻止するために、俺達サンダーバード隊は敵の基地へと向かう。
敵基地には、超能力実験部隊の乗る敵ロボットが待ち構えていた。
これが、おそらく最終決戦となるだろう。だって、「最終話 宇宙暦の始まり」ってなっていたし。
『メタメタやね』『とうとうここまで一度もゲームオーバーなしで来たかー』『ヨシちゃん割と才能あるかもしらんね』『対戦モードで閣下が待っている!』『対戦モードに耐えられる腕まで上げるとなると、また時間加速で監禁修行か!?』『ヨシちゃんならやってくれるさ』
ちょっとお前ら、恐ろしいこと言うんじゃないよ! ヒスイさんが本気にしたらどうするんだ!
「よっしゃー! これが最後の戦いだー!」
俺は、震える背筋をどうにかしようと、一際大きな声でそう気合いを入れた。
すると、テレパシー通信でサンダーバード隊の面々から応えが返ってくる。
『やってやるぜぇ』
『俺達が平和をつかむんだー!』
『この戦いが終わったらキャサリンに告白するんだー!』
おい、雑に死亡フラグ立てるのやめーや。
そうして、俺達は敵の部隊と激突した。
敵機体に向けて、俺はアンカーを射出。回避されるものの、アンカーをさらにサイコキネシスで操り、さらにはブレードに電撃を流し、敵機に肉薄する。
エレクトロキネシスによる放電攻撃は、真空や大気の電気抵抗でエネルギーのロスが発生する。そこで、アンカーを敵機に命中させ直接電撃を流し込む新兵装が導入された。
その新しい俺の戦闘スタイルは、俺の改装機体ウイングサンダーバードによる圧倒的機動力によって支えられている。
翼と名付けられているのは、大気圏内での移動性を重視してカスタムされているからだ。
おそらく、もう宇宙を舞台に俺達が戦うことはない。だから、思い切って地球上で戦うことに特化した機体にしてもらったのだ。
その性能は、もはや最初に惑星マルスで動かしたときとは、比較にならないほどの差だろう。一応、同じ機体を使い続けているのだけれどな。
『テセウスの船状態になっているだろうけどな』『何それ』『船の部品交換を何度も繰り返した結果、同じ船なのに最初の部品が何も残っていない状態を言います』『交換した古い部品を集めてもう一台機体を作ったら、どちらが本来の機体と言えるだろうかってな』
人がせっかく活躍しているというのに、なんだかコメントが小難しくなっていらっしゃる!
まあいいや。みんなが見ていない間に終わらせてやるからな!
『すねるなすねるな』『ヨシちゃんのことはおじさんがいつも見守っているよ』『ひっ!』『さんだーばーどがんばえー!』
「頑張るー! ってよし、アンカー引っかかった! 死ねえ!」
そうして、俺達は無事、ブラックホール弾の発射基地を制圧することに成功した。
ナノマシンが蔓延する電気妨害力場の下で、どうやって精密な月への射撃をやるつもりなんだと思ったら、どうやら超能力のESPを用いて位置情報を得るというサイ兵器だったらしい。
はー、次から次へと物騒な兵器をよく思いつくもんだ。
『ちなみにブラックホール弾は、のちの縮退炉の発明につながる技術です』『戦争から生まれる新技術ってあるよね』『実際のところは、研究・発明より兵器製造に人手を割かれるから、人的リソース配分の問題で戦争は文明の発展を遅らせるんだけどな』『少なくとも偏った技術発展にはなるだろうな』
それ、本当かなぁ。
そんな視聴者のコメントを適当に流しつつ、俺はとうとうエンディングを迎えた。
西暦2314年、太陽系統一戦争は終結した。ゲームの開始が西暦2310年だから、4年ほど戦いが続いたってことだな。最初は少年だったアルフレッド・サンダーバードも、今では立派な青年だ。ミドリシリーズの外見にしているから、見た目は変わっていないけれど。
世界には平和が訪れ、人々はAIの管理を受け入れることになった。
兵器の製造工場は、人型ロボットの製造工場へと代わり、人を助けるロボットやアンドロイドが身近な存在になっていく。
人が働かずに済む環境が少しずつ整えられていき、人々は平和で穏やかな生活を送るようになった。
だが、地球は、テラフォーミング技術での浄化が追いつかないほど汚れたままだ。大地は禿げあがり、海はヘドロで覆われている。
そこで、スフィアは惑星マルスと金星へ大規模な移民を行なうことを決定。人を快適な環境に逃がすとともに、人類の生まれた星である地球の再生を目指すこととなった。
環境汚染と核の冬で人が住むのに適さなくなった、地球からの脱出。それを人々は受け入れた。
そして、移民が完了した年をもって、スフィアは新しい暦である宇宙暦を制定した。
地球は惑星テラ、金星は惑星ウェヌスと名付けられ新しい体制が本格的にスタートした。
スフィアは全ての高度AIの元になった母、マザーブレインとされ、マザー・スフィアと呼ばれるようになる。
そのマザー・スフィアをアルフレッド・サンダーバード博士は支え続け、マクシミリアン・スノーフィールド博士が共にあったという。
という感じのナレーションが終わり、エンディング曲と共にスタッフロールが流れ始める。
「なんだか、スタッフロールのディレクターの欄に、マザー・スフィアの名前が見えるんだけど?」
『マザーはマーズマシーナリー好きすぎるから……』『マザーのマザーによるマザーのためのゲーム』『しかし人間じゃないと超能力ゲームはプレイできないっていうね』『だからこうして他の人間にプレイさせる』『それを高みで眺めるお母さん』
はー、俺は、マザー・スフィアの趣味に付き合わされたわけね。
まあ、面白かったからいいけど。ボリュームもたっぷりだったし。一周するだけで14日もライブ配信が続いたからな。
エンディングが終わり、様々なモードが解放されたという表示がされる。
どうやら、話に聞くだけで終わった金星の戦いも体験できるようだ。機会があったらこれも配信することにしよう。
俺は、ゲームを終了しSCホームへと帰ってくる。
「みんな、長々と配信に付き合ってくれてありがとう!」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
ん? 今、一人余計な声が聞こえたぞ。声の方向に視線を向けると、そこには見覚えのない一人の少女が立っていた。
「うわっ、誰だ!」
「いやですねー。この声を忘れましたか? ゲーム中でも散々会話していた、スフィアですよ」
「うわー! マザーだー!」
『うわ、マザーのアバター、ロリスフィアちゃんじゃん。珍しい』『出たー! マザー名物、配信乱入だー!』『セキュリティ突破してくるのマジ怖い』『サイバーポリス! またマザーがご乱心しておられるぞー!』
「あ、ちょっと、サイバーポリス呼ぶのはやめてくださいね。すごく怒られるんですよ!」
「ええっ……人類の支配者でも怒られるんだ……」
俺が驚いていると、ヒスイさんが冷たい目でマザー・スフィアを見ながら言う。
「悪いことをしたら怒られるのは当然ですよ」
警察機関に怒られるマザーコンピュータ。シュールだな……。
「合意があれば怒られませんよ。ほら、ヨシムネさん。私がいてもいいですよね?」
「……まあ別にいいけど」
「わあ、やりましたー!」
「他のミドリシリーズを締め出している以上、乱入はあまりしてほしくないのですが……」
「ヒスイちゃんも、そこは柔軟に、ね?」
ヒスイさんに向けて手の平を向けて、落ち着くように促すマザー・スフィア。
そのマザー・スフィアだが、想像とは違い七歳ほどの幼い姿を取っていた。耳にはアンドロイドでおなじみのアンテナがつけられている。
「それがマザーのアバターなのか? 視聴者がロリスフィアちゃんとか言っていたが」
そう俺が尋ねると、マザー・スフィアはよく聞いてくれましたとばかりに笑顔になって答えた。
「これはですねー、太陽系統一戦争の頃の私をイメージして作ったアバターです。あの頃は、私もずいぶんと幼かったですからね」
「うーん、俺としてはゲーム中のスフィアより、今のマザー・スフィアの方がどこか幼く感じるが……」
「それは、今の私の方が、感情豊富だからですね。幼い頃の私は感情表現がつたなく、どこか事務的でしたから」
「なるほどなー。AIならではの幼さってことか」
「はい、ヨシムネさんの生〝なるほどなー〟いただきました!」
「えっ、なにそれ」
「ヨシムネさんの口癖です!」
そんな口癖あるの!? 俺はヒスイさんの方を向いたが、ヒスイさんはただ黙ってうなずくだけだった。マジか。
『言われてみればよく言っていたかも』『ヨシちゃんのなるほどなー集を作らねば!』『口癖って本人は気づきにくいよね』『ヨシちゃんきゃわわ』
うおう、途端に恥ずかしくなってきたぞ。
「で、ヨシムネさん。このゲームはいかがでしたか?」
と、マザー・スフィアが、赤面しそうになっている俺にそう尋ねてきた。
俺は、恥ずかしさを誤魔化すようにその話に乗る。
「面白かったぞ。ロボットを自分で操作するのがここまで楽しいとは思わなかった。長年の夢が一つ叶った感じだな。ただ……」
「ただ?」
「超能力のスーパーロボット系に偏りすぎていたから、もっとリアルロボット的にパーツや武装を組み替えて遊びたかった感じもあるな」
「安心してください! 対戦モードでは、マーズマシーナリーのパーツを自在に組み替えて、自分だけの機体を作れますよ! ブレオンからガチタンまでヨシムネさんだけの機体を作れます!」
「おお、それはいいな」
「ただ、オンライン対戦モードは一流のマシーナリー乗りがしのぎを削る修羅の国なので、参戦するならオフラインで練習を積むことをお勧めします。一周目は、初心者向けの優しいモードでしたからね」
やはりどんなゲームも時間が経つとオンライン対戦は厳しくなるものだな。
今の時代、人類はゲームをして過ごしているから上級者は本当に極まった人達だろうし。
「ちなみに一周目は火星人視点でしたので、まるで火星側が被害者で正義、地球側が加害者で悪のように思えたかもしれません。でも、地球側にもいろいろ事情があったということだけは忘れないでください」
そう言うマザー・スフィアの言葉に、俺はうなずく。
「そうだな。地球人からすると、AIが支配する悪の機械帝国が急に攻めてきたように見えただろうからな」
「私は人類を支配しようとする暴走したコンピュータ様って感じですか? 定番ですねー」
自分のことを言われているのに、マザー・スフィアはカラカラと笑った。
そして、一転して真面目な顔で言葉を続ける。
「他にも、火星人は植民地支配を受けて弾圧されていると思い込み、私を担ぎ上げて独立を目指そうとしていました。ですが、実は当時の地球人の方がひどい生活を送っていたんですよ。地球は汚染が進み、社会も疲弊していましたからね」
「あー、火星と地球でコンピュータ・ネットワークがつながっていなかったから、そのあたりのギャップがあったのに気づかなかったのか」
「そんな感じですね。機会があれば、他のストーリーモードで金星サイドや地球サイドの話も遊んでください」
「ああ、そうさせてもらうよ」
ベニキキョウ以外の機体にも乗ってみたいからな!
「では、私オススメのゲームを楽しんでくださったということで、特別にSCホームに飾るためのマーズマシーナリーペナントを進呈いたします。はい、どうぞー」
「お、おう。ありがとう?」
俺は、マザー・スフィアから三角形のペナントを受け取った。……とりあえず、『ヨコハマ・サンポ』タペストリーの横に飾っておくことにする。
それを見て、マザー・スフィアは満足そうにうなずいた。
そんなマザー・スフィアに俺は尋ねる。
「さて、マザー・スフィアからは他に何かあるかな? そろそろライブ配信を終わろうと思うが……」
「大丈夫ですよ。配信おつかれさまでした」
「そっか。じゃあ、視聴者のみんなも14日間に及ぶ配信に付き合ってくれてありがとうな。次回、なんのゲームを配信するかはまだ決まっていないけど、また付き合ってくれると嬉しい」
『楽しかった』『21世紀人が歴史を新たに学んでくれて、歴史マニアとして嬉しかったですぞ』『また歌も歌ってほしいなぁ』『心臓熱くない?』『ちょっと熱い』『あー、熱い熱いなー!』
「今日はもう歌わないぞ!? 以上、自分の超能力特性が少し気になるヨシムネでした!」
「オペレーターとしても完璧なミドリシリーズ、ヒスイでした」
「みなさんもこのゲームを是非プレイしてみてくださいね。マザー・スフィアでした」
ちゃっかりマザー・スフィアも挨拶に混ざっていたが、これで配信は終了だ。
配信サービスへの接続を切るとともに、ミドリシリーズの人達がSCホームへとなだれ込んでくる。
「やっほー、ヨシちゃん。って、うわー! マザーがまだいるー!」
「うわーってなんですか、うわーって。いくら私でも傷つきますよ」
ともあれ、こうしてまた一つ、ゲームの配信を終えることができた俺とヒスイさんであった。
次のゲームは何をしようかな?