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EX8.MECATECH BATTLE CITY(シミュレーション)<1>

「どうもー、21世紀おじさん少女だよー」


 そんないつもの口上と共に、本日もライブ配信が始まった。

 最近はマンドレイクの母星がどうだとか、始球式がどうだとか色々あった。だが、それでもこうして、定期的にライブ配信は続けている。


『わこつ』『待ってた』『生きがい』『ようやくヨシちゃん成分が摂取できる』


 視聴者コメントも、いつも通りの反応だな。今は人間やAIだけでなく、異星人であるギルバデラルーシも積極的にコメントを発信するようになっていた。


「助手のヒスイです。本日は、ゲストを一名迎えております」


 ヒスイさんも視聴者に挨拶をする。それで、だ。今日はゲストを迎えての配信である。

 SC空間に立つ俺とヒスイさん。その横に、派手なエフェクトをともなって、一人の人間が出現する。

 それは、ツナギ姿の三十代くらいのおじさんだった。


「おう、田中宗一郎っつうもんだ。ニホンタナカインダストリの前身、日本田中工業の元社長だ」


『マジで』『宗一郎ではないか』『うわー! 歴史上の偉人だー!』『すげえ人が出てきたな……』


 そう、今日のゲストはギルバデラルーシの住む惑星ガルンガトトル・ララーシで会った機械技師、田中宗一郎さんだ。


 実は彼、ギルバデラルーシの元大長老であるゼバ様を連れて、惑星テラに帰省中である。

 そんな彼と会うために、ヨコハマ観光局のハマコちゃんと一緒にニホンタナカインダストリに訪ねていったところ……田中さんが俺の配信に興味を持ってくれて、ゲストに出ると言ってくれたわけだ。


 そのあたりのことを田中さんが、視聴者に告げていく。


「昔は小さな町工場だったっつーのによ。久しぶりに帰ってみたら、すげー広さででけー建物があってビックリだ」


 田中さんが語る町工場は、ゲーム『MARS』で見ることが可能だ。そのためか、視聴者の反応も上々である。


「玄関ホールに入って、いきなりマーズマシーナリーが置いてあったのは笑ったな。ヨーロッパの貴族が、屋敷に甲冑飾るんじゃねえんだからよ」


 と、そんな小粋なトークをしばし続けた後、本日のメインイベント。ゲームの時間がやってくる。


「では、今日もゲームをやっていくぞ。今回やるゲームは、こちら!」


 俺がそう言うと、ヒスイさんがいつも通りバスケットボールサイズのゲームアイコンをその場で掲げる。


「『MECATECH BATTLE CITY』だ!」


 俺がそう宣言すると共に、ゲームが起動し、背景がタイトル画面に変わる。

 何やら、機械のパーツがいくつも小山を作っており、さらには上の方には空がなく、高い位置に天井が存在した。


「おっ、なかなかいい雰囲気だねぇ。スペースコロニー内のジャンク屋ってところか」


 田中さんが周囲を見渡してから、ニヤリと笑ってそんなことを言った。

 なるほど、ジャンク屋。言われてみるとそんな雰囲気だな。


「『MECATECH BATTLE CITY』は、様々なパーツを組み合わせてロボットを作り、ミッションをこなしていくシミュレーションゲームです。プレイヤーはジャンク屋の主となり、作り上げたロボットを使って資金を貯め、さらなるパーツを増やしていくストーリーとなっています」


『ジャンク屋かー』『リアルには存在しない職業だね』『機械パーツをバラ売りしても、組み立てられる人間がほとんどいないから』『機械か……馴染みのない存在であるな』


 そんな視聴者のコメントに、田中さんが反応する。


「確かに今はジャンク屋を見ねえが、昔は普通にいたぞ。第三次世界大戦直後なんかは、戦地跡でジャンク集めが流行ったって聞いたことがある」


 それに続いて、俺も話に続く。


「21世紀もジャンク屋はあったぞ。自動車とかバイクとかのジャンクを扱う業者がいたり、電子機器の中古品やパーツを集めて売るジャンクショップがあったりしたな」


『へー』『中古品か』『中古品ってリアルで見ないよね』『技術の向上で、リサイクルして新品に作り替えてもさほど製造コストがかからないんですよ』


 へえ、今の人類って、中古に触れる機会あんまりないんだな。俺がもと居た時代はネットの発達で、中古品の売買が盛んだったんだけどな。

 まあ、中古の概念が完全に消えたわけでもないだろうけどな。俺の今のボディは、元々ヒスイさんが使っていた中古ボディだし。あくまで、民間人が触れる範囲で中古品の取引をする機会がないというだけだろう。


「話を戻してよろしいでしょうか。ジャンク屋の主となるゲームですが、本日はパーツを集めるストーリーモードではなく、複数人でロボットを作って競う対戦モードをやっていきたいと思います」


 ヒスイさんがそう言うと、背景に表示されていたメニューから対戦モードが選択され、またもや周囲の空間が切り替わる。

 ジャンクの山が姿を消し、代わりに天井の高い格納庫のような場所へと俺達は立っていた。

 そんな場所で、ヒスイさんがさらに説明を続ける。


「ヨシムネ様と田中様には、解放済みの全パーツを組み合わせてロボットを作っていただき、それをお互いに戦わせて勝敗を競い合っていただきます。テーマを三つ用意しますので、計三回の対戦となります」


「おー、ロボットバトル。面白そうだな!」


 俺がそう言うと田中さんも「いいねぇ」とノリノリだ。


『ヨシちゃん大丈夫? 相手本職だよ?』『田中宗一郎っていったらロボット製作の第一人者じゃん』『エンジョイ勢の中にガチ勢が乗りこんできた構図』『勝ち目が見えない』


「いいんだよ。ゲームなんだから楽しめれば、それでいい」


 俺がそう言うと、田中さんはガハハと笑って「さすがだな」と俺の肩を叩いた。


「よろしいでしょうか。では、始めましょう。ロボットの作り方を私から説明しながら、進めていきます」


 ヒスイさんがそう言うと、彼女の目の前にメニュー画面が開く。

 それを手動で操作したヒスイさんが、さらに言う。


「一回目のテーマは『戦車』です。まずは、今回のテーマや作りたい機体のコンセプトなどを音声指示して、大まかな形を作っていきましょう」


 お、目の前にウィンドウがポップアップしてきたな。音声入力待機中とある。なるほど、ここに向けて指示すればいいんだな。


「じゃあ、今回のテーマの戦車を作るぞ」


 俺がそう発言した次の瞬間。

 目の前にリアルな戦車が出現した。


 戦車の各部には、半透明なウィンドウがいくつもポップアップしており、どうやらそこに交換可能なパーツが表示されているようだ。


「完成品がいきなり出てきて、そこから細かく組み替えていくってわけかぁ」


「そうですね。次は一つ一つパーツを組み替えてもいいですが、追加で指示を出してディテールを凝らせていくのもよいでしょう」


 俺の独白に、ヒスイさんが横からそんな解説を入れてきた。


『おー、一から組み立てるとかじゃないんだな』『さすがに全手動だと配信の時間が足りなくなる』『小さなロボットで対戦すると思っていたら、ガチの戦車が来るとか……』『戦車ははたしてロボットと言ってよいのだろうか』


 そんな視聴者のコメントを聞いていた田中さんが、ニヤリと笑って言葉を発した。


「戦車はロボットじゃない? んなことはねえよ。戦車といえばガチタンだ。下半身が戦車で、上半身が人型ロボットを作るぞ!」


 田中さんのその言葉を受けて、彼の目の前に人型ロボットが現れる。

 ただし、脚の代わりに戦車の無限軌道が備え付けられている。


 うわあ、ガチタン、ガチガチのタンクかー……。

 俺が生きていた時代の特定ゲームの用語なのに、よく知っているなぁ、田中さん。


 そして、その後も田中さんは指示を次々と出し、着々とロボットを仕上げていく。

 だが、途中からその雲行きは怪しくなっていった。


「よし、見た目はほぼ完成だな」


 いやいや、ちょっと待てよ。


「……ガンタンクじゃねーか!」


 俺は、目の前に鎮座するロボットを前に、そんな突っ込みを入れていた。

 灰色・青・赤の三色が特徴的な人型戦車。20世紀のアニメ『機動戦士ガンダム』に出てくるモビルスーツ、ガンタンクだった。


「ガハハ、これはゲームだぞ? 遊びを入れてなんぼだぞ」


 田中さんのその言葉を受けて、俺は自分の目の前にある戦車を見た。

 なんの変哲もない戦車。だが、そこに『遊び』はない。


「そうくるなら、こっちだって考えがあるぞ! 戦車は戦車でも、多脚戦車だ!」


 俺がそう宣言すると、目の前の戦車が組み変わり、無限軌道ではなく四つ脚を持つ戦車が現れた。


「よし、じゃあ脚の数は六本で――」


 俺も田中さんに負けじと指示を出し、時には手動でパーツを選び多脚戦車を作り上げていく。

 ファジーな指示でも意外と形になるもので、なんだかロボットの組み立てというか別の作業を行っている気分になってくる。


「しかし、目的に合わせたメカを作るゲーム、21世紀というか20世紀末の頃にもやったなー」


 広大なフィールドの各地に様々なミッションがあって、それに合わせたメカを組み立てていくというゲームだ。

 空を長時間飛ばすのが、なんとも難しかった記憶がある。

 まあ、このロボットは自分で操縦するのではなく、AIに任せて自動で動かすタイプなので、そのゲームとは似ても似つかないのだが。


 そんな思い出に浸りつつも、やがて狙い通りのロボットが完成する。


「できた! 多脚戦車タケミカヅチだ!」


 田中さんがアニメの兵器で来るなら、俺だってアニメの兵器で対抗だ。


「おっ、瓜畑。なかなかイカすフォルムじゃねえか」


 ガンタンクの細部を仕上げ終わったのか、田中さんがこちらに来て俺のタケミカヅチを見上げる。


「タチコマと迷ったけど、こっちにした」


「これ、なんか元ネタあんのか?」


「21世紀のアニメ『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』の作中に登場した戦略兵器、タケミカヅチだな」


「む、聞いたことのない作品だな……その時代のロボットアニメには、詳しいつもりだったんだが」


「ロボットアニメじゃないからなぁ」


 女性兵士の小隊を扱った日常系アニメだからな。終盤はこのタケミカヅチに乗って戦争に介入するんだけど。俺はそんなにアニメに詳しくないんだが、たまたま知っていた作品だ。


「お二方とも、完成でよろしいでしょうか?」


 と、田中さんと品評をしていたら、ヒスイさんが割って入るように言った。

 おお、そうだ。作ったものを対戦させるんだったな。


 と、いうわけでお互いに完成ということで、次に移ることになった。

 タケミカヅチを組み上げるときに、おおよそどういう動きで戦うかの指示も出してあるので、あとは自動操縦に任せて勝敗を決めるだけだ。


 バトルのステージは、荒野。岩や石がゴロゴロと転がった厄介なステージだ。

 無限軌道のガンタンクに対して、六本の脚を持つタケミカヅチの方が移動に有利と思ったのだが……。


「ま、負けた……」


 遠距離からの撃ち合いになったのだが、よく分からないうちにタケミカヅチが撃破されてしまった。


「ガハハ、戦闘プログラムの作り込みが浅かったな、瓜畑」


『圧倒的だ』『さすが本職』『完全にアマVSプロの構図』『知ってた』


 視聴者も納得の勝敗だった。

 だが、田中さんはそうは思わなかったようで……。


「おっと、みんな待てよ。俺はあくまで機械技師だ。AIだのプログラミングだのは門外漢よ」


「あー、そんなこと前に聞いたような……。ニホンタナカインダストリのタナカ室長とは専門分野が違うんだな」


「おう、俺の一族のあの若造か。なんかAI設計が専門つってたな」


 そんな会話を田中さんと交わす。

 まあ、門外漢と言ってもド素人の俺よりは詳しそうなものだが……勝敗で何かを賭けているわけでもないし、ゲームを楽しめればそれでいいか。


「感触はつかめたでしょうか。では、第二戦に移りましょう」


 と、ヒスイさんがそう言って、背景を荒野から格納庫に戻す。


「第二戦のテーマを発表します。『空中戦』。お二方には、空を飛び、戦うメカを作っていただきます」


 ……また急に難易度上げてくるなぁ!


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― 新着の感想 ―
[一言] タチコマかと思ったら知らない子ですね、履修してきます。 タケミカヅチと聞くと、『それは、とてもちいさな、とてもおおきな、とてもたいせつな、あいとゆうきのおとぎばなし』の方を思い出しちゃう …
[一言] >「第二戦のテーマを発表します。『空中戦』。お二方には、空を飛び、戦うメカを作っていただきます」  これでどっちかがタケ◯プターを付けたドラ衛門を持ち出したら笑いますわ。
[良い点] ガチタンはいいぞ(´神`) [一言] ガンタンクはR44が好き
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