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181.St-Knight ストーリーモード編<7>

 世はまさに戦乱の時代。

 元々小競り合いの多かったらしいこの大陸だが、神聖マケドニア王国の誕生をさかいに国際情勢は大きく動き始めた。


 まず、神聖エルラント王国に従っていたヒューマン族の国々が、神聖マケドニア王国から離反。それぞれの国が野心をむき出しにして、他民族の国家を侵略し始めた。その様子は、まるでタガが外れたようであった。


 そして、神聖マケドニア王国もまた、他国の侵略に動く。

 ヒューマン族の国も異民族の国もお構いなしといった様子で、後先考えているのか不明な拡大路線を取っていた。


 そんな中、我らがミツアオイ王国はというと……引きこもりに成功していた!

 元々大陸の中でも東の端に存在する辺境の国であり、国境を面するのも一国を除いて小国ばかり。

 そして、唯一の大国である華の国は、同盟国なので攻められる心配はない。


 華の国自身は大国ゆえに他国から狙われることも少なく、唯一の悩みの種だった竜王国も撃退に成功したため、戦乱の世にあって平和な時を過ごしていた。

 天才幼女の天子様は、これ幸いと内政手腕を発揮し国は富み、華の国の民は天下太平を享受していた。


 ミツアオイ王国の首脳部も、内政に努めていた。

 孔明大臣の采配は見事の一言であり、大量に取れた作物を戦争に明け暮れる西の諸国へと売り払い、資金を確保。石材を買いあさって国境沿いに砦と石壁を築いた。さらに、辺境で取れる鉄鉱石を西から買いあさった木材から作る木炭で精錬し、武具を増産。いついくさに巻きこまれてもいいように、軍備を整えていた。


「……戦国時代の始まりかと思ったら、ちゃっかりしているなこいつら!」


『賢い』『戦争なんてやっても何もいいことないからね』『でも、戦争時は技術が発展するとかいうじゃん?』『あー、たまに聞くね、それ』


「技術が発展ねぇ……。人的リソースの分配の話でしかないから、開発に多くの人を割り当てた分野が発展するだけだろ? つまり、軍事関連に人的リソースをつぎこむからその分野だけ急発展するけど、それ以外の平和的な技術分野は発展が遅れるわけだ」


『なるほど?』『一理ある』『まあ、平時も技術が発展しないかというとそんなことないしね』『でも、戦争って必要に駆られて新しいことをするから、新技術が見つかりやすい気がする』


「確かに、平和な時間が長く続くと、新しいことにチャレンジってそこまでしないかもしれないな。現状維持で十分だから」


 そんな雑談をしているうちに、ストーリーは進行し、とうとうミツアオイ王国にも戦争の兆しが訪れる。

 元神聖エルラント王国に従っていたヒューマン族の宗教国家に、西の小国郡が征服されたのだ。

 デーモン族を悪魔と認定する宗教の国々。彼らにとって、デーモン族を内に抱えるミツアオイ王国は神敵だった。


 宗教国家は東に進軍し、ミツアオイ王国が築いた砦の近くに布陣する。

 ミツアオイ王国軍も、砦を中心に戦う姿勢だ。


『この戦い、負けられないですぞ。何せ、国土を直接攻められているのですからな』


 外務の金柑大臣が、砦の前方に布陣するミツアオイ王国軍を眺めながら言う。


『そうだね。でも、勝てるかな』


 魔王トウコが不安そうに言う。


『どうですかな。なにせ、我々には……』


『軍師がいない!』


 金柑大臣とトウコがそう言い合い、『あっはっは!』と笑った。


『おじさん、この国にいて大丈夫か不安になってきたよ……』


 この戦いには、客将のハオランも参戦している。

 そんなハオランにトウコは言う。


『ハオランさん、軍略とかたしなんでない? 今なら筆頭軍師の座が空いているよ』


『いやー、おじさん、生前から武術一筋でねぇ……』


『やれやれ、大丈夫ですか皆さん……』


 彼らのやりとりに、内務の孔明大臣が呆れたように言う。


『とりあえず、この戦い、時間が経てば我々の勝利です。華の国に援軍を要請していますからね。こちらには砦があり、援軍で数の優位を得たら、負けることはありません。ですので、平地での戦いで消耗しそうならすぐに退却し、砦に籠もりましょう』


『石壁を越えられて、砦を素通りされたらどうするの?』


 孔明大臣の言葉に、トウコが疑問をぶつける。


『その時は砦から打って出て、無防備な背後を攻撃します』


『なるほど、籠城は強いんだね』


『援軍が来ること前提の戦い方ですがね。後方からの補給線はしっかりしていますので、何ヶ月でも籠城は可能です』


『まあ、天子ちゃんの援軍は一ヶ月もかからないで来ると思うけどね! よし、孔明大臣、軍師役は任せたよ!』


『大軍の動かし方なんて、兵法書を読んだだけでよく知らないのですがねぇ……』


 そんなこんなで、ミツアオイ王国の戦いが始まった。

 まずは砦の前の平原でひと当てし、トウコが魔王らしく敵をなぎ払ったところで、敵の英雄騎士が二名同時にトウコを抑え込もうとやってくる。

 トウコはこれを上手くやり過ごし、その間にミツアオイ王国軍は砦に戻る。

 敵軍が砦攻めを始めようとしたところで、石壁の上に陣取っていた弓兵が敵軍に矢を雨のように撃ち込んだ。


 そこからは、膠着状態が続く。

 敵軍は砦を攻めきれず、頑丈に造られた砦の門を崩せない。

 英雄騎士を投入して破ろうとするも、ミツアオイ側はそれをすぐさま察知して同じく英雄騎士を投入する。


 騎士の数は、どちらも同じく二名ずつ。一人でも騎士を失うと一気に不利になってしまうため、決死の突撃は行なわれなかった。


 そして戦いが始まってから八日後の朝。

 華の国の援軍、その第一弾が来た。

 それは、走竜に乗った、たった百名の援軍。だが、その中には、英雄騎士が一名含まれていた。


 英雄騎士の数で優位に立ったミツアオイ王国軍は、再び砦から打って出て相手の英雄騎士を重点的に狙う戦法を取る。


 ハオランと華の国の騎士で一名を釘付けにし、その間に魔王トウコが、残り一名の英雄騎士を討つ!


『トウコ VS. クリシュナ』


 敵の騎士は、浅黒い肌のイケメン男だ。手には丸盾と、なんだかふにゃふにゃした剣をたずさえている。

 いざ戦闘が始まると、敵はその剣を鞭のようにしならせ、変幻自在に操ってくる。

 トウコを操る俺は、その攻撃をすんでのところでかわした。


「不思議な武器だよねぇ」


『ウルミだな』『なんぞそれ』『知っているのか兄貴!』『伝統武術のカラリパヤットで使う剣だ。相手もカラリパヤット使いだから、かなり変則的な体術を使うぞ』


「か、からりぱやっと……」


 聞いたことあるようなないような。


『カラリパヤットは、21世紀でいうインドの武術です』


 と、ヒスイさんの補足が入る。


「なるほど、インド! 格ゲーでインド。つまり、ヨガか!」


『えっ!?』『うーん』『まあ、当たらずとも遠からず?』『一応言っておくけど、20世紀の格闘ゲームみたいに腕は伸びたりしない』


 視聴者の人、この時代から見たらマニアックな部類であろう歴史的ゲーム知識よく知っているな!

 と、そんな会話をしつつも、相手を打倒する俺。まあ、アーケードモードで一度倒しているので……。


『魔王様が騎士を討ったぞ!』


『うおー! 敵にはもう騎士がいないぞ! 今のうちにやっちまえ!』


 そうして平原の戦いは、ミツアオイ王国軍の勝利で終わった。


 その後もミツアオイ王国は、いくさを重ねていく。


 その全てで勝利を収めるが、ミツアオイ王国は領土を増やしたり、属国を増やしたりはしなかった、

 なぜなら、彼らは生まれたばかりの国。辺境の土地はあまりにあまっており、開拓もまだ道半ば。国の外に領土を広げても管理しきれないのが解っていた。


 なので、侵攻してきた相手国の田畑をいくらか燃やして賠償金をとことんまでしぼり、後は放置。そんなことを数カ国相手にやっていたら、いつの間にか神聖マケドニア王国が漁夫の利でその相手国の領土を奪い取っていた。


 賠償金をしぼり取られた残りかすの国。そんなものを抱えては、負担でしかないのでは?

 そうトウコは考えていたのだが、マケドニアの拡大路線は収まる様子を見せなかった。


 そして、とうとう大国と化した神聖マケドニア王国の国境が、ミツアオイ王国の国境と接した。

 さらに、こともあろうにマケドニアは華の国とミツアオイ王国を同時に攻め始めたのだ。


「無茶するなぁ、アレクサンドロス大王」


『まあ、それくらいはしそうな人物ではあるね』『各地の人材を吸収して、騎士も多そうだし』『かならずしも騎士が従っているとは限らないけど』『騎士って我が強そうですし』


「出奔して他国に仕えるとか余裕でできそうだもんな、騎士って」


 そんなこんなで二日目の配信終了の時間が来たので、続きは明日に回してその日は終わった。


 そして明くる日、再びストーリー配信を進める。


 ミツアオイ王国と神聖マケドニア王国の大戦争が始まる。

 ミツアオイ王国は、金柑大臣の提案で、国土を攻められないようにこちらから敵領土に侵攻する方針を取った。華の国も攻められているため、援軍作戦が通用しないからだ。


 この頃になると、ミツアオイ王国軍はマケドニアから逃げてきた難民兵が多く含まれるようになっていて、その軍の規模はふくらみにふくらんでいた。

 そのため、兵を魔王軍、金柑軍、孔明軍といったようにいくつかに分けて編成し、各方面に分かれて侵攻を行なっていた。


 その中でも魔王軍は破竹の勢いで勝利を重ねた。

 魔王トウコが敵の騎士と戦うと、必ず勝利をものにしていたからだ。まあ、俺が操作して倒しているわけだが。


 魔王が相対すればどんな騎士も倒せる。それは、自軍の兵士だけでなく、敵軍にも知れ渡っていた。

 そこで厄介な動きを見せ始めた者がいる。

 マケドニアの騎士、クラウディアだ。


 クラウディアは自称大魔導師。彼女は魔法を自在に操る。

 その特徴として、広範囲の制圧攻撃が得意だった。すなわち、軍を相手にするのが大得意で、こちらの主力に火炎の嵐の魔法などを叩きつけられてしまえば、潰走する余裕すらなく壊滅するしかなかった。


 トウコはクラウディアをどうにかして倒してしまいたかったが、クラウディアはまるでトウコの進行ルートを知っているかのようにして逃げ延び、金柑軍と孔明軍に打撃を加えていった。


 そして戦況が混迷を極め始めたころ、トウコは金柑軍から火急の援軍要請を受け、走竜部隊200名を率いて魔王軍から先行して、金柑軍のいる西方に向かっていた。

 しかし、一昼夜で到達するような距離でもなく、トウコは小さな村にある古い寺院に宿を取った。華の国系列の寺院で、仙人を祀っているらしい。走竜部隊は寺院に入りきらなかったため、外で野営だ。


 心づくしの夕食で歓迎され、寺院の一室で寝間着を着て休むトウコ。

 だが、トウコは眠りにつくことができなかった。

 突如(とつじょ)、寺院が火に包まれたのだ。布団から飛び起きるトウコのもとに、部下の声が届く。曰く、『金柑軍の夜襲だ』と。


「えっ、金柑軍?」


 俺は驚いてそんな声をあげてしまった。


『裏切りじゃん!』『ここに来てまさかの裏切り』『いい人そうだったのに……』『俺は最初から裏切るって解っていたよ』『えっ、なんで?』『だって金柑だもん』


「金柑って、明智光秀のことだっけ。トウコはジョークで名付けたんだろうけど……」


 そんなコメントを視聴者と交わしていると、火に包まれた寺院ではトウコが一人、『人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり、か……』とつぶやいている。

 信長ごっこしている場合か!


 そんなトウコのもとに、二人の男が姿を見せた。

 鎧兜で完全武装した金柑大臣と、棍を手にしたハオランだ。


『あーらら、逃げないでいいのぉ?』


 ハオランがいつも通りの口調でそんなことを言う。


『待っていたら、あなた達が来ると思ったからね』


『そりゃあ、火くらいで、あんたが死ぬとはおじさん達も思っていないけどね』


 その言葉に、トウコは笑みを浮かべ、画面は暗転した。


「えっ、場面転換? ハオランとのバトルじゃないの?」


『まさかのバッドエンド』『えっ、マジで?』『選択肢間違えたか』『そもそも選択肢すらない一方的なストーリー進行なんですが』


 突然訪れた信長本能寺大炎上状態。はたして、トウコはどうなってしまうのだろうか。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王は魔王でも第六天魔王のほうだったか〜 トウコちゃんのcvが釘○さんで脳内再生される [一言] 連続更新ありがとうございます
[一言] 三つ葉葵なのに金柑頭が……w 戦争って体のいい実験場でもあるからねぇ。 平時では試せなかったことを、ドサクサであったり大義名分つけたりで試せちゃう場ってのもあるし、また小国が必死こいて技術…
[一言] 金柑は金柑だからしかたないね 槍を持っては来なかったかあw どうなるかなー
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