179.St-Knight ストーリーモード編<5>
視点が自動で動き、華の国上空から王宮らしき大きな建物へとフェードインしていく。そして、王宮の庭に作られた闘技場を前に視点が固定された。
闘技場には、魔王トウコと、もう一人の男が向かい合っている。
準備万端、というところで、闘技場に『華の天子、紅蓮大王のご入場です』との言葉が響く。
すると、御輿のような物が、複数の男達に担がれて闘技場にやってくる。その御輿の上に乗っているのは豪奢な服を身にまとった、五歳ほどの幼子だ。
『えっ、天子様って、子供!?』
トウコが驚いて口に手を当てると、対面の男が言葉を放つ。
『彼女は王の座についてからまだ短い。だから、俺が支えると決めたのだ』
その男の声は、どこか機械音声じみたエフェクトがかかっていた。彼の格好を見てみると、ハオランのような古代中国風の物ではなく、近未来的な黒いプロテクターだった。文明の発達した異世界からやってきた英雄騎士なのだろうか。
『確かに、あんな可愛い子は応援したくなるよね』
『天子は確かに愛らしいが、容姿と国家元首としての器は関係ない。俺は、天子に王としての器を見たのだ』
『なるほど。それで、辺境の国と朝貢の関係を作ることで、新米天子様の実績としたかったわけか。そりゃあ、使節もあれだけ食い下がるわけだ』
『お前も馬鹿な王ではないようだな』
『うんにゃ、頭脳労働は私の仕事じゃないよ。私の仕事は、敵を斬ることさ』
トウコはそう言って、胸から刀を生み出し、剣帯に収める。
対する男は、右と左の手の平を胸の前で打ち合わせた。すると、両の手の平の間から金属の筒が生まれ、筒が宙に浮いて静止する。
そして、男はその筒を右の手に握り、袈裟斬りにするように腕を振るう。すると、筒の先から青白い光の棒が伸びてきた。
「うお、フォースソード!? ビームサーベル!? かっけえ!」
俺は思わずそんな感想を叫んでいた。
『急に現代的になった』『『St-Knight』ってこういう路線の武器もあるのか……』『非実体なので長さを自在に変えられます』『騎士は異世界から呼ばれているんだから、中には文明レベルの高い世界の出身もいるよな』
俺と視聴者がそう言って盛り上がっている下で、魔王と華の国最強の騎士が名乗りを上げる。
『辺境の魔王、トウコ』
『サイバネ戦士、アベベ』
『いざ尋常に――』
『勝負!』
トウコとビーム剣の男アベベが互いに構えたところで、『デュエル!』とシステム音声が響き、俺の視界がトウコのそれに重なる。
「さあ、ひと勝負いこうか!」
『トウコ VS. アベベ』
開幕からの居合抜きをしようと、俺は鞘に左手を添え、右手で柄を握る。
『ファイナルラウンド ファイト!』
前方にダッシュしようとしたところで、アベベのビーム製の刃が伸び、広範囲の横薙ぎがこちらを襲ってきた。
それに対し、俺は刀の刃を立ててそれを受けようとするが……。
「って、すり抜けただと!?」
ビームの刃は、こちらの刀とぶつかり合うことはせず、何もなかったように素通り。
それなのに、こちらの胴体をしっかりと斬りつけて、俺の体力ゲージを減らしてきた。
「刀は素通りするのに、身体は素通りしないってどういうことだ!?」
ダメージを受けた俺は、とっさにバックステップをして距離を取り、追撃を食らわないようにした。
『ふっ、たわいもない』
アベベがそう言ってこちらを挑発してくる。むかつくな!
『種明かしをすると、このサイコブレードは俺の脳チップと繋がっていてな。意志の力で、自在に切る対象を選択できるのだ』
「おおう、高度だな……」
『まあ、このようなハイテク機材、蛮族の王には理解できまいが……』
「ジュブナイル小説読んでいる女子高生のトウコちゃんが、SF小説も読んでいないと決めつけるのはよくないぞ!」
『ふむ……? まあいい。殺さないでやるから、かかってこい。遊んでやる』
さらなる挑発! 決闘開始前の理知的な態度はどこにいったんだ。
くっ、サイバネ戦士め。お前がSFを行くのなら、俺は20世紀をいってやる。
そこで俺は、意を決して叫び声をあげた。
「いやー! やられちゃうー! いやー!」
『なんだなんだ』『ヨシちゃんどうした』『急に何を?』『頭がおかしくなったか』
「説明しよう。女子高生トウコちゃんは、極度のピンチ状態に置かれることで、イヤボーンで目覚め、スーパー女子高生となるのだ」
『なに言ってんの』『イヤボーンってなに?』『スーパー女子高生ってなに?』『しかもアホなこと言いながら、めっちゃ攻めているし』
20世紀の学生によるバトルと言えば「嫌ーッ!」ってピンチになってボーンと敵を倒すイヤボーンなので、なんとなくやってみただけだ!
まあイヤボーンはジョークとして、ふざけている間にも続いていた戦闘は、こちらの優位に傾いている。
ビーム剣がガード不能ってことくらいじゃ、そうそう負けない。
受けられないなら避ければいいだけだしな。
剣を伸ばしての横薙ぎは、屈むかジャンプするかで回避が可能。不要なジャンプは大きな隙になるが、ジャンプと同時に飛ぶ斬撃を飛ばすなり、落下速度を速めて攻撃する強襲技を使うなりして、隙を潰していく。
そして、接近戦に持ちこみ、リーチの長さによる不利をなくして、果敢に攻めていき……。
『KO ユー ウィン』
「刀はビーム剣よりも強し! イヤボーンで覚醒したトウコちゃんは強いのだ!」
勝利のシステム音声を聞きながら、俺は刀を天に向かって突き上げた。
そうして戦いは終わり、再び闘技場を見下ろす上空からの視点へと変わる。
トウコとアベベは互いに刀とビーム剣を収め、『ちこうよれ』と言った幼女天子の前へと移動した。
『見事な戦いじゃった。魔王殿は本当に強いの。アベベ殿が敗れる日が来るとは思っておらんかった』
おお、幼女天子、もしや、のじゃロリか!? あざとい!
『天子よ、すまない。力になれなかった』
『よいよい。アベベ殿よ、おぬしに頼りきりでは、誰も朕についてきてくれなくなるというものよ』
「天子様の一人称、朕かよ!」
『なにこの朕って』『惑星テラの歴史上における天子っていう王の一人称だよ』『へー、そんなの学習装置で習わなかったな』『歴史ゲームやってないと知らないだろうなぁ』
「古代中国風の国で天子だっていうから、そりゃあ一人称は朕になるわな」
そんな会話を視聴者としている間にも、天子とアベベの話は続いていた。
『しかし、辺境の国を御せないとなると、天子の立場も悪くなる』
そうアベベが言うと、トウコが『ちょっといいかな』と横から言った。
『実は天子様に提案があるんだ。それが、あなたの立場にどう影響があるかは判らないけれど……』
『ふむ? 言ってみよ』
『辺境の国、ミツアオイ王国は、華の国との軍事同盟を提案するよ。華の国が攻められれば、私達が駆けつけて戦力になる』
『ほう……』
幼女は目を細めてその場で考え出す。
それを見て、俺は思う。
「すごいな、この幼女。五歳児なのに受け答えしっかりしているし、軍事同盟の意味も理解していそうだ」
『創作物特有の天才幼児キャラか』『可愛い』『あざとい』『愛でたい』『サイバネ戦士もこのギャップにやられたのか……』
サイバネ戦士アベベ、ロリコン説。
『よし、その同盟、受けるとしよう。魔王殿、よろしく頼む』
『即断即決! 話が早くていいね!』
『もちろん、ミツアオイ王国が他国に攻められた場合も、華の国は助けにいく。安心して開拓に努めるのじゃ』
『解った。これから、よろしくね』
そうトウコが言ったところで、カメラワークが上空に移動していき、ゆっくりと背景が暗くなっていく。場面転換だ。
と、そう思ったところで背景が真っ暗なまま変わらなくなり、周囲にヒスイさんの声が響く。
『切りがよいところですので、本日の配信はここまでにしてはいかがでしょうか』
「お、もうそんなに時間経ったのか。じゃあ、ゲームは終了と言うことで」
俺がそう言うと、周囲が明るくなり、VR空間の日本家屋に戻ってきた。
「というわけで、本日のゲームはここまでだ」
『おつかれー』『おつおつ』『一時間半かかって、たった四戦かぁ』『少ないな』
ああー、確かに、ストーリーを見ていてばっかりで、全然格闘ゲームしていないな。
「格闘ゲームなのに、長いストーリーでちょっと困惑しているぞ。ノベルゲームというか、ムービーゲームをやっている気分だ。俺の中の格闘ゲームって、ストーリーは簡素ってイメージがあったんだけどな」
『作品によりけりかな?』『短いやつは本気で短い』『『St-Knight』はアーケードモードとストーリーモードに分かれているから、戦闘重視のプレイはアーケードに任せているんだろう』『でも一時間半でまだまだ話が進んだ気がしないって、全キャラクタークリアにどれだけ時間かかるんだ』
「あー、確かPCは30キャラ近くいるんだっけ」
まあ、俺はトウコ編しかプレイするつもりはないけれど。
そんな感じで今日のプレイ感想を述べていき、配信は終了。
明日もまた、ムービー閲覧、時々戦闘のストーリーモードを楽しんでいくとしよう。