表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!  作者: Leni
配信者世界に羽ばたく
129/229

129.風牙の忍び(ステルスアクション)<3>

話数が増えてきたので適当に章を追加しました。

『手に汗握る展開だった』『ドジっ子ヨシちゃん』『あのうっかりは珍しかったな。普段は堅実なプレイやっているのに』『忍具がいろいろ見られて配信的においしかったのでは?』


 ステージクリア後に転送された夜の草原。そこで、視聴者達と先ほどのチュートリアルステージを振り返っていた。

 相手に発見されてしまったのは完全に俺の落ち度だが、あの土蔵は鍵を外してかんぬきを抜いて中に入っていたのだ。窓から逃げても、どのみち俺が侵入したことは、バレていたのではないかとも思う。チュートリアルだから、練習用にそういうシチュも用意してくれそうだからな。

 今回のステージ評価は隠密という項目が×になっており、良という判定を食らってしまったわけだが、いるのがバレても姿を見つけられなければ隠密は○になるのだろうか?


「ところで、良ってどれくらいの評価判定だったんだ? こういうのはAとかBのアルファベットで示すのが、21世紀じゃ一般的だったから、よくわからん」


 俺がそう言うと、ヒスイさんの声が届いた。


『秀、優、良、可の順ですね。証文を燃やしてしまったり、捕らえられたり、殺されたりして任務を失敗した場合は、不可となります』


「大学の成績かよ」


 さて、そろそろゲームを先に進めていくか。

『ここまでの話の進行を記録しますか?』との画面が表示されているので、『はい』を選んでセーブをしておく。


 すると、草原に一人の忍者が足を忍ばせてやってきた。

 オープニングで主人公キヨコと戦っていた男忍者だ。


『高利貸しの件、よくやったようだな。これで国外に人が売られていくこともなくなるだろう』


「あの高利貸し、やっぱり人身売買していたのかよ。しかも国外って……」


 作中の時代が江戸か戦国かは知らんが、闇が深そうな設定出しやがって。


『さて、次の任務だ。これが指令書だ』


 男忍者が巻物を俺に渡してくる。俺はそれを受け取り、巻物を開いた。


「なるほど……達筆すぎて読めねえ!」


『自動翻訳もされてないな』『つまり読む必要はないんじゃね?』『どうせナレーションさんがまた指示出してくれるよ』『ゲーム製作者の人、これ読める人が読めば内容判るように書いたのかな……』


 俺は巻物を閉じ、男忍者の方を見る。


『今回の任務は、私腹を肥やす代官の暗殺だ。悪徳商人と手を組み、その悪行を見逃し、多額の賄賂を受け取っておる。これはもはや矯正が不可能であり、殺めるしか手立てがないと判断された。悪人に天誅を下すのだ』


「善なる忍者なのに、暗殺するのかよ!」


『では、頼んだぞ』


 男忍者がそう言って俺を送り出そうとしてきたので、俺は素直に従って、町の方へと向かおうとする。


『待て』


 だが、男忍者がそれを止めてきた。


「まだ何か?」


『指令書を返すのだ。それを持ったままお前が捕まると、風牙の関与が知れてしまう。今の藩主に、風牙の暗躍を知られるわけにはいかん』


「んん? 風牙忍者って、大名とか藩主の手下じゃないのか?」


 俺は、そんな疑問を持ちながら巻物を返却する。

 そして、男忍者は巻物を懐に収めると、その場から去っていった。


「答えはなしか……会話できるほどのAIは積んでいないのかねぇ」


 そんなことをぼやきながら、俺は町の方角に向けて走り始めた。

 すると、すぐさま背景が切り替わり、町中に瞬間移動した。高い塀に囲まれた大きな武家屋敷の前だ。


『任務の弐 悪代官を暗殺せよ!』


「ふむ。悪代官ね。悪徳商人に黄金色(こがねいろ)のお菓子を貰って、『おぬしも(わる)よのう』『いえいえ、お代官様ほどでは』みたいなやりとりでも見られるかな?」


『何それ』『ニホン国区の過去を題材にしたドラマで定番のやりとりだな』『町民に紛れたお偉いさんに成敗されちゃうやつ』『それは見たことないけど、なんとなく理解した』


 時代劇テンプレ、未来人に通じるのかよ。

 俺は武家屋敷の中に思いをはせ……そしてふと、関係ないことを思いついた。


「これ、侵入しないで町の外に出たらどうなるんだろう?」


『どうなるって……どうなる?』『任務失敗するのではないですか』『普通に見えない壁で進めなくなっているのでは』『ヨシちゃん、ちょっと試してみてよ』


 よしきた。

 俺は、武家屋敷に背を向け、全力で駆け出した。すると、十秒もしないうちに、勝手に足が止まる。

 そして、視界に文字が表示された。


『このまま進むとあなたは抜け忍となります。それでも進みますか?』


「おおっ! 抜け忍になるのか! やってみよう!」


 俺は止まった足を再度動かし、前へと進む。

 すると、視界がだんだん暗くなっていき、気がつくと俺は先ほどの草原に移動していた。


『キヨコよ、なぜ裏切った!』


 と、男忍者の声が聞こえる。

 その方角を見ると、男忍者がクナイを構えてこちらをにらんでいた。

 さらに、二人の忍者がその後ろで忍者刀と鎖鎌を持って、臨戦態勢に入っていた。


『抜け忍は抹殺するのが、風牙のおきてだ。覚悟しろ!』


 おお、この展開、キューブくんの名前の元ネタのゲームで見たことあるぞ。

 抜け忍は、元いた集団から追っ手がかかり、血で血を洗う闘争が繰り返されるのだよな!


 俺は、テンションを上げて背中から忍者刀を抜き、構えた。

 さあ、戦闘だ!


『ふん!』


 忍者の一人が、鎖鎌の分銅をこちら目がけて投げつけてくる。俺はそれを回避し、鎖鎌の忍者に素早く近づいた。

 相手は鎌でこちらを斬りつけようとしてくるが、それもかわして忍者刀で腹を斬りつけた。鎖帷子(くさりかたびら)でも着込んでいるのか、手に返ってきた感触は鈍い。

 ならば、と俺は忍者刀で相手の首をかき切った。血の代わりに、白いポリゴンの欠片が派手に飛び散る。そして、鎖鎌の忍者はその場に倒れた。


「あれ? 一発で死んだぞ?」


『ヨシちゃん聞いてくれ。人は刃物で切られたら死ぬ』『HP(ヒットポイント)制じゃないのな』『これは、任務中も背後から一撃死を狙えるな』『つまりヨシちゃんも一発食らったら死ぬんじゃね?』


 おおう、それは厳しいな。まあ、ステルスゲームなら、その仕様はそれっぽいとも言える。

 そんなコメントのやりとりの最中にも、背後から忍者刀の忍者が近づこうとしていたので、俺はとっさに懐から手裏剣を抜き、投げつけた。

 手裏剣が相手の肩口に命中する。忍者刀を取り落とした相手に俺は走りより、眼孔に忍者刀を突き刺した。目からポリゴンの欠片を吹き出しながら、相手は倒れる。よし、後は男忍者一人を残すのみだ。


『やはりこやつらでは敵わぬか……だが、命を()してもお前を止めてみせる!』


「お前には無理だよ」


 俺は男忍者に近づき、一刀のもとに斬り捨てた。

 倒れる男忍者。だが、彼は地に伏せながらも、指の先に火を灯し、その火を自らの腹に押し当てた。


「あっ、やべえ!」


『キヨコよ、さらばだ!』


 男忍者を中心に大爆発が起きる。


『ヨ、ヨシちゃーん!』『まさかの腹マイト』『あっぱれ!』『ヨシちゃん死んだか!?』


「生きてるよ! あぶねー、前の任務で、アシスト動作一通り確認しておいてよかった!」


 俺は一番速く動けるアシスト動作で、とっさに男忍者の自爆攻撃から距離を取っていた。

 予想外の攻撃にあせったが、なんとか対処できたぞ。


 倒れる忍者三人を見下ろしていると、ナレーションが流れる。


『追っ手を撃退し、双子の兄をその手で殺めたキヨコは、やがて悪の忍者に堕ちていくのであった……』


 そして背景が切り替わり、タイトル画面に戻った。

 俺はキヨコの身体から抜け出しており、元のミドリシリーズのアバターとなっている。背景では、男忍者とキヨコがまたクナイで攻撃を交わしている。


「ゲームクリアおめでとうございます」


 姿を現したヒスイさんが、そんなことを言ってくる。


「いやまあ、これもゲームクリアのうちに入るのか? こういうゲーム途中で脇道にそれた結果ゲームが終わるやつ、結構好きだけどさ」


 RPGの負けイベントに勝った結果、シナリオから外れたその後の主人公の活躍がナレーションで語られて、タイトル画面に戻ったこともあったな。


「まあ、気を取り直してセーブしたところからやり直すか」


 メニューから『つづきから』を選択し、再び男忍者から指令を受けるところから始める。

 そして、俺はまたキヨコの姿で武家屋敷の前に立っていた。相変わらず、夜空には強く輝く月が昇っている。


『任務の弐 悪代官を暗殺せよ!』


 武家屋敷の周りをぐるりと巡り、門に近寄る。

 門の前では、二人の門番が長い木の棒を持って警戒を強めている。


 それを見た俺は、思わず笑みを浮かべた。


「どうやって屋敷に侵入するかなんだけどさ。さっきの戦いでテンションが上がったので……」


 俺は、背中に手を回し、背負っていた忍者刀を鞘から引き抜く。


「正面突破するぞ! 皆殺しじゃー!」


『ヨシちゃんマジか!』『ステルスアクションどこいった!』『やっぱりゴリラにステルスゲーは無理だったんだ』『討ち入りだー!』


 視聴者のそんなコメントを聞きながら、俺は忍者刀を振りかぶり、二人の門番に正面から躍りかかっていくのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やはりよしちゃんは暴れん坊将軍〆
[良い点] これいろんなパターンありそう 敵寝返りルートとか
[良い点] 抜け忍ENDまであるとは未来ゲームは何でもありですなぁ 600年後だと容量使い放題で仕事もないなら凝りまくったゲーム一杯作られてそうw [一言] ヨシちゃんそれ天誅じゃなくて無双シリーズに…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ