110.超神演義(対戦型格闘)<4>
お茶とモッコスで一息入れてエナジーチャージ完了したので、続きをやっていこうと思う。
ゲームをスリープモードから復帰させ、戦場ステージに戻る。
目の前にキャラクター一覧が展開しているので、キャラ選択のパネルをぽちっと押す。
『ナタ降臨!』
ステージは、蓮の池か。
視界が暗転し、徐々に明るくなっていく。すると、蓮の花が多数咲き誇る池のほとりに俺は立っていた。
そして、相変わらず宙に浮いている審判のジジイの他に、一人の少年が俺の対面にたたずんでいる。
『僕の力を見せてあげるよ』
対面の少年はそう語りかけてきた。肌は白く、結い上げられた黒い髪はつややかで、女と言われたら信じてしまいそうな美少年。だがしかし、その美少年の武装は物騒だ。
足に炎の車輪、手には火をまとう槍、左の手首には大きな金の輪が自動で回っている。
複数の宝貝を持つ少年。この特徴から連想できるキャラクター。これは……。
「ナタって、ナタクかよ!」
『宝貝から生まれた道士、蓮の化身ナタです。移動用の車輪、風火輪。近距離・中距離戦闘用の槍、火尖鎗。遠距離戦闘用である輪、乾坤圏。同じく遠距離用の金属片、金磚。捕縛用の布、混天綾の五つの宝貝を持ちます』
あれ? 三つじゃなくて五つか。
混天綾とかいうのは、首に巻いた赤いマフラーがそうなのだろう。マフラーは風もないのに不自然にはためいている。忍者かお前は。
金磚は……それっぽいのが見えないな。装飾品を複数つけているから、そのうちのどれかがそうなのだろう。
「うへー、気合い入ったキャラデザだな、こいつ」
顔が美しいだけでなく、着ている中華風の服もきらびやかである。
『ストーリーモードでも主役級の活躍をしますからね。このゲームの顔の一人と言えるでしょう。ちなみにキンタの弟です』
主役級のキャラが敵になったのか。宝貝の多さも考えるに、強敵っぽいな。
『準備はよろしいかね?』
おっと、審判の声があがった。俺はとっさに曲刀を構える。
『いざ、超神せよ!』
『これでもくらえ!』
開始の銅鑼の音と同時にナタが叫び、金属の輪が勢いよく飛んでくる。乾坤圏の一撃だ。狙いは頭部に一直線。
俺はそれを最小限の動きでかわすと、まっすぐナタに向かって駆けた。こちらこそ、そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!
対するナタは、槍の先を俺の方へと向ける。すると、槍から勢いよく火が噴き出した。
さらに、背後から乾坤圏がUターンして戻ってきていて、俺の後頭部に直撃コースなのが未来視から見てとれた。
解ってはいたが、遠距離攻撃手段が豊富だな、こいつ。
俺はそれらを全て回避して、蛇行しつつ少しずつ距離を詰めていく。
だが、ナタは足元の火の車輪を激しく回転させ、車輪で地を走り俺から素早く距離を取った。
俺がアシスト動作を駆使して近づくより、明らかに相手の動きの方が速い!
「一番の強敵は風火輪か!」
乾坤圏が飛び交い、火尖鎗から火が噴き出す。
青雲剣のような激しさはないが、休む間もなく的確にこちらを狙ってくるのはやっかいだ。
こちらが執拗に距離を詰めようとしていることを理解したのか、ナタは風火輪で一定の距離を保ち続ける。こちらがいくら突撃しても近寄れない。なんだ、このクソキャラは! ゲームセンターの筐体だったら、台パンされているところだぞ!
仕方がない。こちらも遠距離攻撃で対処するしかないか。
青雲剣攻略のために何度も使ったサイコキネシスとパイロキネシス。それをさらに鋭くするのだ!
相手の足を止めるのを狙って、地面から火柱を立たせ、さらにナタの足元に直接念動力を発動させる。
『くっ! やるね!』
よし、怯んだ。さらに攻め立てるぞ!
そう思ったのだが、なんとナタは浮いた。跳躍ではない。風火輪で空を飛んだのだ。
「空を飛ぶのって、ありか!?」
『ありです。超能力者ならサイコキネシスで自分も飛べますから』
「俺は練習していないから無理!」
戦闘中にもかかわらず、俺はヒスイさんとそんなやりとりをする。
空を飛んだナタは、そのまま逃げ回るのかと思ったが、意外なことにこちらに向けて一直線に突撃してきた。
火をまとった槍での、強力なランスチャージ。
だが、直接刃を交わすその距離は、俺の領域だ。
「獲った!」
槍をかわし、カウンターでナタの腕を強く切りつけることに成功した。
相手は炎をまとっていたので、余波で少し俺の体力ゲージを削られてしまった。だが、こちらが相手に与えたダメージ量を考えると大成果だ。
そして、俺はさらに追撃に出ようとする。
『そうはさせないよ!』
それを防ぐかのように相手のマフラーが伸び、こちらに巻き付こうとしてきた。
俺はそれを曲刀で切り裂き、曲刀をナタに突き入れる。
ナタはとっさに乾坤圏を身体の間に割り入れ、突きを防ごうとする。しかし、俺は攻撃にも未来視を適用できるのだ。
曲刀は乾坤圏をすり抜け、ナタの胴体に突き刺さった。
『ぐあっ!』
ナタは胸元から血の代わりにポリゴンの欠片をまき散らし、うめき声をあげながら風火輪をうならせ俺から距離を取った。うーむ、当てられた攻撃は二発だけか。またチャンスを作らないとな。
しかし、そこから始まったのはナタによる完全な逃げ撃ち。
槍から火が吹き荒れ、乾坤圏が飛び交う。さらには、今まで使っていなかったレンガ状の金属塊の宝貝が自動追尾で追ってくるため、俺はいちいちそれを曲刀で打ち払わなければならなくなった。
俺もいい感じで距離を詰められることもあったのだが、そのたび混天綾が絡みつこうとしてくるので曲刀で切り払う必要があり、その間に逃げられる始末だ。
サイコキネシスやパイロキネシスで牽制攻撃は続けているのだが、有効打は入らない。
どうにかして近づかなければいけない。通算八度目にもなろうかという突撃をしようとした、そのとき――
『そこまで! 勝負あり!』
審判がそんなことを言いだした。
『ヨシムネの勝利!』
「あ、あれ? なんか知らんが勝ったぞ」
謎の勝利に、俺は首をひねった。
『タイムアップです。体力ゲージの残りが多い方の勝ちとなります』
「あっ、そうか。格ゲーだもんな。1ラウンドの制限時間があるのか」
対戦型格闘ゲームは攻撃を当てることで、相手の体力ゲージを減少させることができる。そして、体力ゲージの残りがゼロになった方が負けとなる。
だが、それ以外でも勝敗をつける方法がある。規定の試合時間を過ぎてもまだ決着が付いていなかった場合、体力ゲージの残りが多い方が勝ちとなるのだ。
そして、今回がそのタイムアップでの決着だ。ナタの攻撃は当たらず、俺の攻撃がいい感じに二発も入ったから、俺の勝ちということだな。
今回と同じ遠距離主体の戦いだった魔礼青戦では、未来視ですら避けきれない飽和攻撃で俺の体力ゲージを削られきって負けるというパターンが続いていた。
なので、魔礼青との戦いは、毎回制限時間内に勝負は決まっていた。ゆえに、タイムアップはこれが初めてだ。
『オプションで制限時間なしにすることもできましたが、今回は1ラウンド三分で設定してあります』
ヒスイさんの解説に、俺は納得して曲刀の構えを解いた。
結局、曲刀での攻撃を二発しか当てることはできなかったが、魔礼青のような理不尽さはなかったな。攻撃用の超能力に慣れるか、近距離遠距離両対応の宝貝を持てば十分対処は可能そうである。
『ナタの体力を削ると、三面八臂……三つの顔に八本の腕を持つ姿に変身して、陰陽剣と九龍神火罩という宝貝を追加で使い、無類の強さを発揮するようになるのですが……そこまでいきませんでしたね』
「なんだ、そのアシュラマンは……」
『阿修羅は三面六臂ですね。阿修羅もナタもそれぞれインド神話の神々が出自となっていますので、姿が似通っているのは妥当とも言えます』
「インド半端ないなぁ」
仏教に登場する神仏の多くが、インド神話出身なんだっけ。
神話の中で核兵器レベルの技をぶっ放しているとかも聞いたことあるし、古のインド人すごいわ。
そんな会話をヒスイさんとしながら、俺は次の戦いに挑むのであった。