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21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!  作者: Leni
配信者と愉快な仲間達
100/229

100.21世紀TS少女による未来世紀芋煮会実況配信!<4>

今回、著作権の切れている歌の歌詞を掲載しています。

「よーし、みんな芋煮は行き渡ったな?」


 多摩川沿いの河川敷。ここで芋煮を食べるのだが、現在配信中のため、食べるときは見栄え的に地べたに座るというわけにもいかない。なので、作業ロボットに簡易テーブルを何個も用意させ、その上に完成した料理を多数並べていっている。

 芋煮、焼き鳥、鉄板焼き、バーベキュー。ミズキさんの前にはチーズフォンデュの鍋が置かれているし、閣下の前には生ハムの原木が鎮座している。あらためて見ると、生ハムの原木の存在感がやべえ。


 まあ、食べる物がいろいろあって飽きないのはよいことだ。俺は、周囲に向けて挨拶を始めた。


「今日は俺の誕生日ということで、芋煮会に参加してくれてありがとう。俺のいた21世紀では秋の風物詩だった芋煮会だが、この27世紀でも毎年の定番イベントにしていけたらと思う。だから、今日はじゃんじゃん食べていっぱい楽しもう。いただきます!」


 俺がそう言うと、皆口々に「いただきます」と言い、芋煮を食べ始めた。


「……はー、芋煮だぁ。我が家の味!」


『やさしい味だね』『この里芋というやつ、初めて食べる食感だ』『この肉ってオーガニックのやつ?』『さすがに豚肉でオーガニックってことはないだろう』


 本日のライブ配信は味覚共有機能をオンにしているため、視聴者達も芋煮の味を楽しんでくれている。


「肉は普通の培養豚肉だぞー」


 俺は視聴者コメントにそう返して、芋煮を食べていく。

 うーん、汁が美味え。野菜ときのこから染み出た出汁と味噌のこのコラボレーションよ。

 そして里芋がねちねちほくほく。ジャガイモと違って煮崩れないので、ごろっとしているのを食べられるのが好きだ。ジャガイモも、それはそれで嫌いじゃないけどな。


 そうして味わって食べているうちに、一杯目をあっさり食べ終わってしまった。


「ふう、それじゃあ……行くか、酒を確保しに!」


『酒かー』『味覚共有機能じゃ酔えないから微妙なのよな』『酒の味好きじゃないからオプションで酒だけオフにしておくよ』『日本酒ってどんな味なんだろう……』『何気にヨシちゃんの配信では、酒を飲むのは初めてか』


 酒、不評!

 まあ、酔えない酒とかなんのために飲むのか解らんからな。俺、ノンアルコールビールは楽しめないタチなんだ。ノンアルコールカクテルは、ジュース感覚で飲めるならありだけど。


「そういえばガイノイドボディって酔えるのかな」


 俺がそう言うと、隣で芋煮を食べていたヒスイさんが、食べるのを中断して答えてくれる。


「ミドリシリーズは高性能機ですので、酔いも再現できますよ。飲食が可能な民生用ハイエンド機のワカバシリーズにも酔える機能がついています」


 なるほどなー。よし、それじゃあ酒、行くか。まずは、日本酒だ。

 俺は芋煮の器をテーブルに置いたヒスイさんをともなって、るんるん気分でチャンプのもとへと移動する。

 そこには、どでかい酒樽が一樽、砂利に敷かれた板の上に置かれていた。


「チャンプ……何が『貴重な酒なので少ないですが』だよ。樽でけーよ!」


「おや、ヨシムネさん。芋煮、美味しいですよ」


 芋煮の器を片手で持ちながら、チャンプがそう言ってくれる。


「ああ、そりゃあ何よりだ」


「豚汁みたいで、どこか懐かしい気持ちになります」


「おおっと、確かに豚肉と味噌の芋煮はほぼ豚汁の材料を使うが、それでも芋煮だぞ」


「違いが芋くらいしか判りませんが……」


 心意気が違うんだよ!


「まあ、それよりも酒をもらいに来たぞ」


「おっ、早速ですね。どれくらいいります?」


「どれくらいって、コップに一杯以外あるのか」


「こちらの(かめ)に入れて持っていってもいいですよ」


 そう言って見せられたのは、1リットルくらい入りそうな素焼きの瓶だった。小さな柄杓(ひしゃく)もついている。


「おっ、じゃあ瓶でもらおうか。俺のところには人が訪ねてきそうだしな」


「はい、ではお待ちくださいね」


 チャンプが樽から大きな柄杓で瓶に酒を移していく。


「どうぞ。せっかくですし、ここで一杯飲んできますか?」


「おー、そうだな。自分達の所で作っているというし、感想も伝えたいな」


「では、焼き鳥も焼きたてを持ってこさせます」


 そうして、用意された熱々の焼き鳥と、コップ一杯の酒。ヒスイさんの前にも同じように並べられる。

 俺は、早速コップから酒を一口飲み込んだ。


『うわっ、きゅーっときた!』『新感覚!』『これが日本酒かぁ』『俺苦手だわ』『私これ好き!』


 視聴者の反応は様々。キューブくんから流れる抽出コメント音声をチャンプは楽しそうに聞いている。

 俺の感想はというと。


「辛口のいい酒だ。おつまみは塩だけでもいけそうだな。まあ、そんな上級者なことせずに、素直に焼き鳥食べるけど」


 焼き鳥は、まずは塩から。一口食べて、一口酒を飲む。


「うーん、焼き鳥って、なんでこんなに日本酒に合うのか」


 次にタレ。


「これはご飯と一緒に食べてもいいな。あ、あとでサナエのおにぎりと一緒に食べるか」


「おにぎりが用意されていたのは、ありがたかったですね。うちの面子、酒が飲めない人もいるので」


 チャンプが芋煮を食べながらそう言った。そうだよな、お茶とかジュースとか用意していると言っても、酒飲まないなら炭水化物が欲しくなるよな。

 俺はそう納得し、残りの鶏皮の焼き鳥を食べ終わり、酒を飲み干した。


「うん、いい酒といいつまみだったよ。それじゃあ、瓶は借りていくよ」


「はい、なくなりましたらまたどうぞ」


 そうして俺達はチャンプと分かれ、もとの席へと戻ってきた。

 瓶からコップに酒を柄杓で注ぎ、あらためてヒスイさんと乾杯をする。


 さあ、いろいろ料理を味わおう。俺は、近くにいた作業ロボットに芋煮のおかわりを頼み、箸を手に持ち、皿の料理を楽しもうとテーブルの上を眺めた。

 と、選び終わる前に、人が訪ねてきた。マザーとスノーフィールド博士だ。


「どうもー、ヨシムネさん。鉄板焼き食べていますかー?」


 マザーがワインの入ったコップ片手に絡んでくる。


「おう、今食べるところだ。それよりも、銀河の管理AIが酒飲んで大丈夫なのか?」


「酔うのはこの個体だけで、本体にはなんら影響ないから大丈夫ですよ」


 くすくす笑ってマザーが言う。

 そうか、一応酔っ払いはするんだな……。


 俺はとりあえず、鉄板焼きが盛られた皿から箸でサイコロステーキを取り、一口食べた。


「どうだろうか。久しぶりに料理なんてしたから、上手くいったかどうか……」


 真剣な顔で、スノーフィールド博士が聞いてくる。


「あ、これ作った人、スノーフィールド博士なんだな。うん、美味しいぞ。かかっているソースは初めて食べる味だ」


「ソースも含めて、惑星マルスの郷土料理だ。小さい頃から食べ慣れた味だな」


「なるほど、俺にとっての芋煮みたいなものなんだな、この鉄板焼きは」


『マルス近くのコロニー在住だけど、この味は養育施設を思い出す』『懐かしすぎて泣きそう』『子供の頃に親しんだ故郷の味ってあるよね』『施設の仲間との思い出が頭に浮かぶ……』


 うーん、視聴者がしんみりとしだした。

 まあ、誰にでも頭に浮かぶ原風景の類はあるよね。


 俺は山形の農地を思い出しながら酒を一口飲み、鉄板焼きの野菜を次々と口にしていく。


「そういえば、スノーフィールド博士を呼んだのに、アルフレッド・サンダーバード博士は呼ばなかったんだな」


 俺はふと、酒の勢いで、そんなことをマザーに尋ねていた。

 まあ、サンダーバード博士が今どうしているのか、そもそも生きているのかさえも、俺は知らないのだが。彼はスノーフィールド博士と違って、視聴者ですらない。


 すると、ちゃっかり瓶から日本酒をコップに注いでいたマザーが、俺の方に向き直って言う。


「フレディはですねぇ……ちょっと人様に言えない極秘の場所にいまして」


「極秘」


 伝説のサンダーバード博士ともなると、一般人に明かせない極秘の仕事もしていたりするか。


「来年にはヨシムネさんも会えるかもしれません」


「ほーん、引っ張るな」


「はい、この件は思わせぶりになっちゃいますね、どうしても。私も早く公表したいのですが」


 なにかあるようだ。まあ、一市民でしかない俺には関係なさそうなことか


『気になるー』『酒の勢いで吐いちゃいなよマザー』『ほれ、飲め飲め!』『そして宇宙の秘密を明かすのだ』


「ふふふ、飲みますけど、秘密は吐きませんよーだ」


 あざとい仕草で視聴者に向けて言うマザー。この人も、配信慣れしているよなぁ。


「ヨシムネさん、余興はないんですか、余興」


 と、酒に酔ったマザーが突然そんなことを言いだした。


「余興って、宴会じゃあるまいし。芋煮会にそういうのはないよ」


「えー、せっかくですし歌いましょうよ」


「ヤナギさんが来ていたら歌っていただろうなぁ……」


 先日SCホームで分かれたときのヤナギさん、最後まで恨めしそうだったなぁ。思い出して震えてきたぜ。


「歌うならマザーがやってくれよ」


 俺がそう言うと、マザーはにっこりと笑って返してくる。


「おっ、やりますか? 『Daisy Bell』歌いますよ? 芸名は小春ちゃんで」


「機能停止しちゃっているじゃん」


 コンピュータ様らしい選曲だが、HALはいかんHALは。


「それでは視聴者の皆さん、聞いてください。小春ちゃんで『Daisy Bell』です」


 マザーがそういうと、どこからか軽快な伴奏が流れてきた。

 これは……作業用ロボットから鳴っているのか。ハッキングでもかましたのか、この管理AI。


「There is a flower Within my heart, Daisy, Daisy」


 可愛らしい歌声が響きわたり、人が段々と周囲に集まってくる。

 視聴者コメントもキューブくんからの音声でなく文字コメントに切り替わり、『和む』『マザーはお歌が上手だね』『管理系配信者小春ちゃんマザー』などと文字が視界の隅で流れていく。


「But you'll look sweet upon the seat Of a bicycle made for two」


 と、マザーは最後まで『Daisy Bell』を歌いきり、皆に手を振った。すると、どこからともなく拍手が巻き起こる。


「ご静聴ありがとうございましたー」


 そう言いながらマザーはコップを片手に持ち、酒をあおった。

 うーん、酒と芸名さえなければいい歌だったね、で済んだのに。


「よし、次は私が歌うのじゃー!」


 そう言って閣下が飛びだしてきた。


「ふむ、伴奏はどうやればかかるのじゃ?」


「曲名を言ってもらえればかけますよ」


 閣下の疑問の言葉に、そうマザーが返す。


「『Rule, Britannia!』で頼む」


「了解しましたー」


 知らない曲名だなと思っていると、オーケストラの伴奏が流れ始めた。


「ブリタニアに古くから伝わる、ブリタニアを讃える歌じゃ。聞いてくれたも」


 そう前置きをして、閣下は高らかに歌い始めた。

 これで以前は音痴だったというのだから、『アイドルスター伝説』の偉大なことよ。


「Rule, Britannia! Britannia, rule the waves. Britons never never never shall be slaves!」


 視界に表示される翻訳歌詞によると、偉大なブリタニア人は世界を統べる存在で、絶対に奴隷にはならねえ! という内容のようだ。

 うーん、人類を管理するマザーの前で歌うにはなかなか挑発的な曲。


 そんなマザーと閣下の歌唱を発端として、みんなが余興をし始めた。

 酒も入り料理も豊富で、芋煮会という名の宴会になりつつあるが、これはこれで盛り上がるので、よしとすることにしようか。

 楽しい時間はまだまだ続く。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 100話おめでとう! [気になる点] サンダーバード博士何やってるんだ…… ヨシムネさんが会えるかもしれないって言うと観測実験関係とかだったりするのかな [一言] 著作権問題がなければマザ…
[一言] 100話到達おめでとうございます。 毎回量も内容も読みやすく安定していて、安心して楽しめてます。
[気になる点] 誤字報告? 100話で「あとでハマコちゃんのおにぎりを食べるか」とあるが、 98話にて、おにぎりを用意したのはサナエだと書かれてある件
2020/05/14 12:53 退会済み
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