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中編③



行動に移す、というプロセスは大抵は突然であり、不意なのだ。その瞬間において。

これは、確か彼女の言葉だ。


しかし、目の前に他人が、それも親しい人間がいる場合はその目的を伝える方が良い。

何故なら、それはいつだってトラブルの元になるからだ。


「じゃあ、隣の部屋に行ってくる」

「どうしてそうなる?」


僕の意志表明は、彼女のお気に召さなかったようで、両手をベッドについて、今から腕立て伏せを始めようかという恰好になって、彼女は僕の顔を呆気にとられたような表情で見てきた。


「其はあれだな、妄執もうしゅうしとではないか?思い込んでしまったら、そうとしか思えないのだろう?其のそれは一種の”病”だよ。さらに悪いことには、他者の苦しみを勝手に想像して、痛ましげにしている。これはよくない」


彼女がどうしてか、歯止めが利かなくなってしまっているらしいので、僕としても少々心を砕かれてムッとしてしまう。


「そういうことなら」


僕は彼女の隣、ベッドの上に腰かけた。


「服部さんがそれでいいなら、僕はもう帰るけど」

「帰ると口にしながら、座っているじゃないか。矛盾も甚だしいな」


それなら、と僕は立ち上がって廊下へ歩き出した。

勿論本当に帰るつもりではないが、このまま”201号室”に声をかけるのもいいかもしれない。



「ま、待ちたまえ!」



彼女に後ろから声を掛けられて、僕は立ち止まる。

本当に怒ってるわけではないから、謝罪の言葉なんて必要なかったけど、彼女が何て言いだすのか、興味がある。


暫く沈黙が部屋の中を支配して、沈黙に溺れてしまいそうで、声を上げようとしたところ、彼女の”か細い声”が聞こえた。


「……その通りだ」

「へ?」

「其、其の言う通りだ!201号室!だけど、直接行ってもらうのは困るのだ。もっと穏便に済ます方法をお願いしたい!」


彼女はぜぇ……ぜぇ……と苦しげな息を吐いた。珍しい姿だ。

僕は再び、彼女の隣に座った。


「……すぐ、そう言えばいいのに」

「其も意地が悪い。今日は随分と野暮だ」

「ちょっとした悪戯心でね、ごめん」


こうして僕らは、ようやく問題に向き合う準備ができた。





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