中編②
「手紙の……いや、やめよう。手紙の話は」
彼女は俯けになって、バタバタと足を動かしている。
恥ずかしいのを誤魔化したいのだろうか、僕の顔は見ようとしない。
別に恥ずかしがるような内容ではなかったと思うけども。
「それで、煩いのはどっち?」
僕はそう言って、左手の人差し指と、右手の人差し指で、部屋の壁を指差した。
壁の向こうには部屋がある。”201号室”と”203号室”。
恐らく、”201”号室。だってそっちの方がベッドに近い。
「煩いなどとは、我は一言も言っていないよ。手紙にもそんなことは書かなかった。其が身勝手な想像をするのは構わないが、思い上がるのはよしたまえ。我の思っていることを推測で当てようなどというのは無粋な試みだよ。我が隣人からの騒音被害を受けているだなんてね。よくぞそんな妄想を抱くことが出来たものだよ」
彼女が枕に口を押し付けながら言葉を紡ぐものだから、こもった細い声だ。
けれど、僕は聞き逃さないように注意をしていたから大丈夫。ちゃんと聞き届けた。
聞き届けた上で思うことは、彼女の発言は自滅的だ。自分で多くの隙をつくっている。
わざとやっているんじゃないかと思えるほどに。
「いや、ごめんね。僕が手紙を読んだ限りだと、服部さんがその、隣人からの騒音被害ってやつを受けていると思ったんだよ」
「そんなはずがないだろう。どうしてあの手紙を読んでそんな発想に至るのかね?きっと其は我の手紙をあらぬ視点で深読みをしたか、もしくは分厚い休日の新聞に挟まった色紙を読むように流し読んだだけではないかい?」
彼女は全然認めるつもりが無いようだ。
いつも以上の早口で、僕への不満を口にした。
(本心は既に知れているから、対策を講じる話し合いに移ってもよさそうかな)
しかしだ。
別に隣人が煩くて困っているなんてことは何も恥ずかしいことじゃないと思うんだが。
不思議な人である。