中編①
彼女から預かったシュークリームの残りと僕の分のゼリーを、冷蔵庫へと運んだ。
冷蔵庫の中は空っぽで、2Lのミネラルウォーターがほとんど満タンでドアポケットに入っているだけだ。
……本当に彼女はここで生活出来ているんだろうか?
半年前にここを訪れた際は、もう少し人間的な生活を営めていたと思うのだけど。
心配だから、しばらくの間、ここに毎日通おうかな。
しかし、彼女がそれを嫌がるかもしれない。
僕は、ため息と共に冷蔵庫の扉を閉じた。
部屋に戻ると、彼女はベッドに仰向けで寝転がっていた。
目線だけを僕に向けると、「はて」と呟いた。
「其は、我に用事があってここに来たのだろう。我はその用事をまだ伺っていないな」
「うん、いや。言わなくても分かったりしない?」
「ほほう……なかなか面白いことを言う。つまり今日行われた、我と其との言葉のやりとりの中で既に示されたと言いたい訳だな?なるほど、それは気付かなかった。違和感を覚えたような瞬間がない訳ではないが……」
「いや、今日じゃなくて……服部さんにとっては少し前のことだよ。きっと」
僕がそう呆れた調子で言うと、彼女は上体を起こした。
口元に右手を添えて、目線はどこを見つめるでもなく、左側に体が少し傾く。
彼女が考え込むときのスタンスだ。
「そうなると……思考視野が広くなるな。明確な日付を教えては貰えぬか」
「僕に届いたのは今日だけど」
「届いた……ああ、手紙か。我は其に手紙を書いたのか?」
そう彼女に言われて僕は、愕然とした。
自分で書いた手紙を覚えていないのか?
いや、だってあの手紙の入った封筒に書かれた名前は彼女のものだったし、字だって妙に丸っこい癖のある感じは彼女ので間違いないはずだ。
僕の表情を見てか、彼女にしては珍しく慌てた風を見せた。
彼女は額に手のひらを当てて、必死に頭を回しているようだ。
「いや、そうか。我は送ったんだな。あれを。あー、何ということを。あんな恥ずかしいものは其に見せまいと心に決めていたのに」
彼女はうーんと唸りを上げている。
どうやら、あの手紙は僕に送ったつもりはなかったらしい。
何をどうして、手紙を送った記憶が無くなってしまう事態になるのかは理解しがたいが。
あちゃー と小さな声で呟いた彼女が普段と違って弱気で可愛く見えたので、まあ良しとしようと思う。