服部さんがシュークリームを食べ終わるまで、少々お待ちください②
彼女は二口目を口にしたが、シュークリームを噛み切ることをしなかった。
彼女が胸の前で、その軟な両手を使いシュークリームを支える姿を【基本姿勢】と呼ぶことにしたい。
彼女は基本姿勢に戻ると、じっと手の中のシュークリームを見つめ始めた。
因みにシュークリームとは、空洞の生地にカスタードクリームを詰めたもののことである。
フランス語で「シュー」は、キャベツを意味する。
丸く絞り出して焼いた生地がキャベツに似ているんだとか。
誤解されることが多いが英語の靴(shoe)とは何の関係もない。
幕末にサミュエル……なんちゃらさんが日本に伝えたと聞いたことがある気がする。
「どうしたのさ、固まってるよ」
僕は心配になって彼女に声をかけた訳ではない。
そして、彼女が何故に食い止まっているのかも分かっている。
だが、声をかけないと一日中このまま、という事態があり得るので。
「いやね、この洋菓子がどうして我を魅了するのか、という疑問を抱いたのだ」
「だろうな、と思ったよ。この前来た時も同じことで悩んでたよね」
「そうだったかな?因みに、我がその時どんな結論を出したか覚えているかね」
「んー……覚えてないなぁ」
「そうか、それならそれでいいさ」
彼女はシュークリームに顔を近づけたが、食べる訳ではなかった。
匂いをくんくんと嗅いだかと思えば、くるくると回して眺めだした。
「正直に言わせてもらえば、この容姿は魅力に欠ける。ごわごわとしていて、わら半紙を彷彿させる。色合いも同じくして、更には人皮と紛うてもおかしくない。だが、質素な外見が、中に詰まる濃厚で美味な乳液を際立たせるのに一役買っていることは言うまでもない。また、この薄皮と中の乳液との食感の相性が抜群である。そして、時に甘すぎる乳液を口内で緩和させてもくれる。其よ。我の言いたいことが分かるか?」
僕は静かに首を横に振った。
「この洋菓子は、【皮】が素晴らしい、ということだ」
そう言うと、彼女はパクリとシュークリームに齧り付いた。
やれやれ、一口食べるのにどれだけ時間がかかるんだか……
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