終焉の兆し 7
「静かだな」
何か言おうとして出てきたのはそんな言葉だった。
「......そうね」
由奈はどこか遠くを見ている。
「由奈」
「なあに?」
「言いたいことはたくさんある」
「......それで?」
由奈の返答にはどこか力がない。
「一つだけ言っておく」
「・・・」
「また、由奈が消えるっていうのなら俺はもう協力しない」
少しだけ声が震えた。情けない。
俺は眼を閉じてもう一度思い出す。
「また由奈を、封印しろというなら俺は何もしない。そうすれば由奈は消えないだろう?」
由奈がまっすぐにこちらを見た。
俺は眼をそらしそうになって、しかしぐっとこらえる。ここでそらしてはいけない。
「由奈...。俺は由奈が...」
言わなければいけない。俺の気持ちを。
その時、勢いよく寝室の扉が開く。
「由奈!私も同じです!」
リリィが涙を浮かべながら飛び出してきた。
「由奈がまた消えるのに協力する気なんてありません!」
リリィによって俺がいうべき言葉は宙ぶらりんになってしまった。
なんだか悔しいような、安心したような気持ちになる。我ながら女々しい。
「恭弥、リリィ...」
由奈は微笑んだ。
それが嬉しさからくるのか、俺たちを言いくるめるための演技なのかは俺にはわからない。
「私が犠牲にならないとあの化け物を野放図にすることになるわよ?私のためにこの世界を危険に晒していいの?」
「それはっ」
俺は言葉に詰まった。由奈はそのために犠牲になったのだ。
それが由奈の使命。そう納得して俺は一度、由奈を封印した。それならそれを貫き通すべきなのか?
「協会にやらせればいい」
リリィの声が俺の思考を止めた。
「協会のものがといた封印です。どうしてそんなことをしたのかはわかりませんが、それなら後始末は協会がすべきです」
由奈が微笑んだ。その微笑みがどういう意味なのかは俺には読み取れなかった。
「私が片付けなければいけないの」
由奈は静かにそう切り出した。
「あの魔物は私の問題なの。封印が解かれたことも含めてね。恭弥もリリィも巻き込んでしまって申し訳ないと思っているわ。本当は私一人で片付けるべきなのに」
「どういうことだ」
俺は頭がついてこない。
「突然現れた、強力で危険な魔物とだけ由奈は言っていた。どこが由奈の問題なんだ」
「由奈」
リリィが口を挟んだ。
「隠していることがありますよね?」
由奈はしばらく黙っていた。
由奈はコーヒーの最後の一口をすする。それから観念したように口を開いた。
「あなたたちが一番巻き込まれているものね」
そう言って自嘲気味に笑う。
「私もダメね。どこまで自分勝手にやろうとしてたのかしら。もう、自分だけではないのに」
由奈は俺の方をちらっと意味ありげに見た。
「なんだよ」
「なんでも」
由奈は嬉しそうに笑った。
「恭弥、リリィ。ちゃんと全て話すわ。その上で...」
由奈は大きく息を吸い込んだ。
「私を助けて」
「ああもちろ「話を聞いてからです」
俺とリリィは顔を見合わせる。
「ここは素直に肯定しとくべきだろ!」
「恭弥くんはバカすぎます!ちゃんと事情がわからないと助けれないでしょうが!」
「な、誰がバカだ!」
「バカはバカです!戦闘しかできないくせに。その力も由奈に分けてもらったくせに」
「言っていいことと悪いことがあるぞ!」
「あーちょっと待って、ちょっと待って」
由奈は呆れたようにため息をついた。
「もう、仲が悪いんだから。そうね、リリィの言う通りまずは私の話をしましょうか」
俺とリリィはもう一度だけ睨み合って、同時に由奈の方を見た。
「リリィは知ってるけど...」
由奈が俺の方を一瞥する。
「なんだ?」
「恭弥は知らないわね」
「何をだ」
「私の生い立ちのこと」
確かに全く知らない。よく考えてみれば由奈について俺が知っていることなんて微々たるものだ。
「まずはそこから始めましょう」
由奈が一息ついて、話し始めるとか
「私は魔術協会の会長の道具として『作られて』生まれたわ」