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扉の外へ  作者: いざぱんす
第1章
6/11

終焉の兆し6

「お待たせしました~」

キッチンの方から銀のトレイを両手で持ったリリィが、ふらふらと危なっかしい足どりでやってきた。

「よいしょっと」

やっとのことで机に着いたリリィは、トレイを卓上に置き席につく。

「はい、どうぞ」

目の前に湯気の立つマグカップが置かれる。

「ありがとう」

由奈はそう言って一口すする。

俺もそれに続いた。リリィの淹れるコーヒーは激甘だ。最初に飲んだ時はびっくりして吐き出しそうになった。でも慣れてくれば病みつきになる味なのだ。

「それで、何がどうなってるんですか?」

「どこまでわかってるの?」

由奈はリリィを試すように問い返す。

「......由奈の封印は解かれました」

俺は驚いた。

「わかるのか?」

「恭弥は黙って」

由奈が鋭く俺を制した。

「な、なんで」

「今はリリィの話を聞きたいの」

こう言われては俺は黙るしかない。結局、俺も今は何が何だかわからないのだ。

「続けて」

由奈がコーヒーを飲みながらそう促す。

「そして、由奈は危険な状態です」

思わずまた声を上げそうになって、どうにか押しとどめる。また口を挟んだら由奈に追い出されるかもしれないのだ。

だが、由奈が危険?

「由奈の魔力を、由奈の肉体が抑えきれなくなっています。おそらく封印を解かれた時にさらに何かあったのでしょう。封印を解かれるだけでこんなに体が傷つくとは思えません」

リリィはとても深刻そうに言った。最初の無邪気な様子が信じられないほど冷静だった。

「封印が解かれたことについては、何か知ってる?」

「......話せません」

リリィは顔を伏せる。リリィの様子が気になったが、俺は下手に口を挟めない。

「それは魔術協会が関わっているから?」

「っ!」

リリィは驚きの表情を浮かべていた。

「分かっていることを教えてくれない?」

「そこまで分かっているなら私から言うことはありません」

由奈は全く表情を変えていない。こういうときの由奈は、少し怖い。

沈黙が流れる。俺はこの空気に耐えられず何か言おうとして、しかし先に口を開いたのはリリィの方だった。

「由奈、私は協会側の人間です。由奈はもう協会の仲間ではない。もちろん由奈のことは大好きで、協力したいですが私にも立場があります。本当はここにこうして由奈がいることだって...」

「ありがとう、リリィ」

由奈が遮るようにそう言った。

「もう封印を破った相手のことについては聞かないわ。そのかわり、ひとつお願いがあるの」

「......なんですか」

リリィは笑顔を浮かべていたが、どこかぎこちない。

「私の代わりの肉体を探すのを手伝って」

リリィは困惑の表情を浮かべる。

「そうよ、今のままでは私は満足に戦うことさえできない。さっきの危険な状況というのは、今の私が魔法を使うと魔力が暴走するってことを言ってるんでしょう?」

「・・・」

リリィは黙ったままだ。

「それくらい私にも分かるわ、この世界にゲートを繋ぐだけでかなり体に負荷がかかっていることを感じたもの。」

「・・・」

リリィは何も語らない。

「リリィ、私はね今回の事が片付いたらまた消えてしまう。だから私はもう失うものは何もないの。でも、あなたにはまだこれからの人生がある。だから、私は強要することはできない。ここから先はあなたが選んで」

由奈は優しい笑顔を浮かべていた。

彼女は本心でリリィのことを思っているのだろう。

「こっちの世界で一番に頼れるのがあなただった。かくまってくれるという絶対的な信頼があった。だから私はここにきた。だからあなたが選んだというのなら、今から教会に私たちを突き出してくれたって構わない」

「ちょっ、由奈それはっ」

「だまって!」

ピシャリと鋭い口調で止められる。

「恭弥は何も言わないで。私は今リリィと話をしているの。」

由奈はもう一度リリィの方を見る。

「・・・」

リリィは少し俯いていて、表情を見ることができない。

そして、さっきまでの元気溌剌とした声とは正反対のか細く震えた声で、

「・・・少し、考えさせてください」

そう言い残し寝室の方へと歩いて行った。

部屋は静寂に包み込まれ、リンリンと鳴く虫の音だけが鳴り響いていた。

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