終焉の兆し 5
「わ〜本当に由奈ちゃんだ〜!うえ〜ん!会いたかったよ〜!」
観測所に入った瞬間、玄関で待ち構えていたリリィが由奈に飛びかかる。由奈はひらりとそれをかわした。
リリィはそのまま観測所の床にダイブする。
「痛い!由奈ちゃん冷たいよ!」
リリィは床にへたり込んだまま涙を浮かべる。
「あ、ついでに恭弥くん、久しぶり」
「はいはい、俺はついでですね」
俺は苦笑しながら、懐かしさがこみ上げてくるのを感じた。
「元気そうで何よりね、リリィ」
由奈が優しく声をかける。
「はい!元気でした!」
リリィは小さな体で飛び上がるように立ち上がった。元気いっぱいの小学生って感じだ。
身につけているブカブカの白衣と長い髪がひらひらと揺れる。
「ま、ま、とりあえずあっちの椅子に座ってください。飲み物用意するので」
リリィはそう言って、こけそうになりながら慌ただしく奥のドアの方に駆けていく。
「動作の一つ一つが騒がしいやつだ」
「そこが可愛いじゃない」
それに関してはノーコメントだ。
「なぁ、たしかここってこの世界で起きた大規模な魔力の揺らぎを感知できるんだったよな?」
由奈は部屋に飾られた人形を見回しながら、言葉だけを返す。
「そうね、最近は精度も上がってきて上級魔法が使われた形跡くらいは確認することが出来るわ」
「それなら、封印を解いた者の場所もすぐに特定できそうだな」
俺の率直な感想に、由奈は眼尻に手をあてながら振り向く。
「ほんっとに恭弥は、、、。」
「な、なんだよっ」
由奈はため息を一つ吐く。
「あのねぇ、犯人は恐らく魔術教会なのよ? しかも私たちの封印を解除できる程の実力者。つまり、かなり上層部の人間。」
「・・・。」
俺の顔の?マークに気付いた由奈が更に続ける。
「本当察しが悪いわねぇ、全部言わないとわからないのかしら。
かなり上層部の人間が関与している以上、工作が行われているに決まってるでしょう? おそらく同じタイミングで同規模の魔法を複数展開しているわ。」
「なるほど。一筋縄ではいかないってことか。」
由奈はまた人形へと向き直る。
「恭弥はもっと物事を考えるべきね、そんなだから人の気持ちにも気づかないのよ。」
「ん?何かいったか?後半聞き取れなかったんだが。」
「なんでもないっ!」
由奈はこっちを振り向かない。
「なんでそんな怒ってんだよ、悪かった。次からはちゃんと考えるからさ。」
「べつに怒ってないわよ!」
どうやら由奈の機嫌を損ねてしまったらしい。
こうなった由奈はしばらく話してくれない。
一連の流れに、懐かしさと感慨深さを感じながら、俺は窓へと目を向けた。
外では沈みかけの太陽が世界を朱色に染め上げている。
魔界の長い長い夜に抵抗するが如く燃え盛るこの夕日が俺は好きだ。
視界の端に写る由奈の頬が少し朱くなっていたのはきっと、夕焼けのせいだろう。
キッチンからはほろ苦いコーヒーの香りがただよってきていた。