終焉の兆し4
「ここは魔力観測所です。立ち入りは禁止されています」
突然落下してきた金髪ツインテールの美少女は機械的にそう言った。
「人形の趣味は相変わらずね、リリィ」
由奈がそういうと、美少女は動きを止めた。
「え?ゆ、ゆ、由奈!?」
少しくぐもった声が人形から聴きこえる。
ガタッ、ガッッシャーーン、ゴッッ
本が落ちるような音や鈍い鈍器で殴られたような音が聞こえてくる。
「うううう~、痛いよう」
その声に俺も懐かしさを覚えた。
「相変わらずだなリリィ」
「えっ!恭弥くんもいるのっ!」
リリィの驚きが言葉越しに伝わってくる。
「ちょっとまってね!今トラップ解除するから」
ピピピピピピピ、ガチャンガチャンガチャン、プシューー...ゴトン!
精巧に作られていた美少女人形の目が、電子的に赤と青の点滅を繰り返したかと思ったら次に、あちこちの間接がおかしな動きを繰り返した後、頭から煙を吹いて肩を落とし首をもたげた。
「これでよしっと...二人とも中へ入ってきても大丈夫よ!」
動かなくなった人形の代わりに、側の木についているスピーカーからやたら大音量でリリイの声が聞こえてきた。
「この人形がトラップだったのかよ...趣味悪いな」
「言ったでしょ、相変わらずねって」
そう言って由奈は入り口のほうへ、スタスタ歩きだした。
「ひっどぉ~い!こんなかわいいトラップ他に無いですよ!リリィのお気に入りの子なんですからね!」
リリィの必死のアピールを無視して歩き続ける由奈。この二人の関係も相変わらずなようだ。
「さて、俺もいくか」
一人言を呟いて、俺が観測所の敷居をまたいだそのとき。
「シンニュウシャ!シンニュウシャ!ハイジョシマス!」
突然、背後の人形が叫びだし、右手首を高速回転、つまりドリル化させて俺の顔面へ突っ込んできた。
「うおぉ!」
反射的に回れ右をして上体を反らし、人形の肘部分を掴むことでなんとかドリルは鼻先スレスレで止まってくれた。
「ファーストアタックシッパイ。セカンドアタックカイシシマス。」
お約束であるかのように、左手もドリル化して左フックのように俺の脇腹めがけ放たれる。
しかし、そのハンドドリルが俺の脇腹に突き刺さることはなくその寸前で掴まれていた肘をを思いっきり外側へ捻られる。人形はその勢いで宙を舞い大きく一回転。頭から地面に落ちるとまたもやプシューと煙を排出し動かなくなった。
「いっけなーい!人間を排除対象外にするのを忘れてましたー!恭弥くん大丈夫ですか?」
「あー、大丈夫だけどこれ、俺以外の人間だったら間違いなく死んでるからね?!」
「うううう~ごめんなさいです。」
こんな感じでリリィのドジに命を奪われかけたのは今回が初めてじゃない。というより、リリィに会うたび毎回命を落としかけてるといった方がいいだろう。だから俺はこいつのことが苦手なのだ。
「遅いわよ恭弥、はやく来なさいよー」
玄関の方を見るとすでに由奈が到着していた。どうやら戦闘中も振り返らずに、歩き続けていたらしい。
「ちょっとくらい心配してくれてもいいだろ」
俺がそう文句を呟くと
「何言ってるの、戦いにおいてあなたに心配事があるわけないでしょう。」
由奈にそう言われ少し胸が高鳴る。久しく忘れていたこの信頼される感じ。信頼というのは心配されるよりもずっと心地よいんだったな。
そう思い、顔に出そうになるニヤニヤを由奈に見られないよう、うつむきながら俺は玄関に向かって駆け出した。