終焉の兆し 2
「まずはそうね、今の私の状態からでも話しましょうか」
由奈は視線を窓の方に泳がせた。外にはどこまでも暗い森が続いているだけだ。
「まず、私の封印は解かれた」
「なっ...」
俺は絶句した。
「破られたのよ。おそらく、人間によって」
「そんな!じゃあ、俺は、由奈は、何のために...」
脳裏に鮮明な映像が浮かぶ。忘れるはずがない。あの時に、自分がしたことを。
『恭弥、私ごと封印すればあの化け物は大人しくなるの』
『由奈はどうなるんだよ!』
『今更そんなことを言わないで!あなたに与えた力はそのためのものよ。私はこれでいいの』
『でも...』
『早く!』
そして俺は、由奈を。
この世界から消えると分かっていて、封印した。
何だまりこくってるのよ、続けるわよ?」
由奈の言葉で現実へと引き戻される。
「悪ぃ、ついあの時の事を思い出してた。」
由奈はこっちを一瞥し、
「まだあの事引きずってたの?男なんだからそんなうじうじしないの」
と控えめな笑顔を見せた。
「まだって、お前...」
俺と由奈が行動を共にしていたのは時期にしてたったの1ヶ月ほどでしかない。
きっと由奈は俺がまた彼女に巻き込まれるのを嫌っている理由は、異形の化け物の存在を恐れているからであって、俺がもう二度と由奈を失いたくないと思っていることは微塵も察してくれていないのであろう。
(そりゃあそうか。臆病な俺は由奈にこの特別な感情を伝えることなく消滅させちまったんだもんな)
最愛の人を自らの手で消し去る。これほど後味の悪い行いをするのは死んでもごめんだ。
だが、俺は一度はそれをこの手でやってしまった。
思考が堂々巡りする。俺は無理やりそれを断ち切った。
「それで、何者かに封印を解かれて、何でここに」
「殺されかけたの」
何でもないように由奈はそう言った。由奈の表情は全く動いていない。
こういうところが未だに俺はついていけない。
「封印を破って、私を襲ってきた。私は力が弱ってたから、すぐに逃げの手を打ったけれど少し遅かったわ。ちょっと傷ついちゃった」
頭が追いつかない。由奈との戦いが終わって、ほんの少しだけ取り戻していた日常がまた崩れていく。
「あなたに力を分けていたぶん、逆に耐えられた。私と恭弥は魔力でつながっているから。この館も同じね」
「...良かったよ」
何を言っていいかわからず俺はそんなことを言う。
「それで、由奈が封印していた魔物は?」
俺がそういうと、目に見えて由奈の表情が歪んだ。でも、それは一瞬のことだった。
「わからない」
「わからない?」
「ええ。封印を解いたものが倒したのかもしれないし、逃げられたのかもしれない」
嘘だ、と思った。由奈にわからないはずがない。根拠はないのに強くそう思う。
「恭弥」
由奈の声が俺の思考を遮る。
「ここからが本題。あまり時間がないの」
由奈の声にほんの少し動揺が含まれているような気がした。
「恭弥、私をつなぎとめる器を探して」