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扉の外へ  作者: いざぱんす
第1章
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終焉の兆し

四年間温めていたプロットをついに解放しました!自信作です!

時は漆黒。くるりくるりと日々が回り、またこの時刻がやってくる。

俺は暗い森を進む。目的の場所はもうすぐだ。

ずっと同じ場所を進み続けているような錯覚を覚えるほど、長い道のりだった。

足が棒というのはまさにこのことだろう。ありふれた思考をしているうちに青い外灯に照らされた白い洋館が見えてきた。

不意に明かりに顔を照らされて、視界が真っ白になる。人工的な光だ。

恭弥(きょうや)。遅かったじゃない」

鈴の音のような綺麗な声が聞こえる。

俺は右手で光を遮りながら洋館の方を見た。洋館の二階から女の子が懐中電灯でこちらを照らしている。

目を細め彼女の姿を視認する。

由奈(ゆな)…か?」

そんなはずは無い。由奈がここにいるはずが無いんだ。だって由奈はあの時...

「恭弥、入ってきて。いつもの場所よ。私たちだけの、秘密基地」

由奈の姿が消えた。再び俺を照らすのは月の明かりだけになる。まだ目の奥に懐中電灯の光がちらついていた。

「本当に由奈が俺を呼んだのか...?」

あり得ないことが起きているはずなのに、思ったほど俺は動揺していなかった。

俺はポケットから手紙を取り出す。スマホの明かりでそれを照らした。

『いつもの場所に来て。今週の土曜日。絶対よ。

由奈』

たしかに、由奈の字だった。由奈からの手紙のはずがないのに、なぜかいたずらだとは思えなかった。

むしろ、この手紙が来るのは必然だと思った。

「由奈、お前は何者なんだ」

俺のささやきは古びた洋館の方に消えていった。

俺は決意を固めて、洋館のドアを開けた。

ギィィっと軋むような音を響かせつつ両開きのドアを開くと、そこから先は長い廊下になっていた。

奥の方は(くら)く、まるで自分が吸い込まれるかのような錯覚を覚えた。

壁には均等な間隔で蝋燭が灯っているが、蝋燭の火が揺らぐ度に不気味に影が揺蕩(ようとう)する。

俺が一歩進むたびに俺と肩をならべることになった蝋燭はその灯火を消していく。

『私は、魔法使いよ』

この場所で聞いた由奈の言葉が脳裏に蘇る。冗談めかせていたが、それは真実だった。

『ねえ恭弥、私と関わるとろくなことにならないわ』

全くその通りだ。由奈との関わりは俺の日常を一変させた。

『でもね、もう遅いわ。あなたは巻き込まれてしまったのよ』

ようやく廊下を渡りきり、俺は二階へと続く階段を登っていった。

階段の先には入り口同様の大きな扉が立っていた。

扉の隙間からは光が漏れており、廊下の薄暗い光とは違った人工的な光だった。

「この先に由奈が…。」

恐怖と期待が折り重なったような感覚が全身を駆け巡る。

「ふーぅ。」

深呼吸を一つして、扉に手をかける。

その時、中から先程と同様の鈴の音のような声が聞こえた。

『ようこそ、私たちだけの秘密基地へ。』

扉を開けるとそこはあの時見たままの光景が広がっていた。

だだっ広い部屋、眩しすぎるほどのシャンデリア、中央に置かれた丸テーブルと向かい合わせの2つの椅子、それに腰掛け1つに束ねられた薄ピンクの髪を肩から垂らし、手に持ったカップに口をあてている少女、その少女はまさしくかつて俺が行動を共にしていた由奈だった。

「由奈、なぜここに...。魔女としての使命をまっとうしたお前はこの世界での生を終え消滅してしまう。お前自身が言っていたことだし俺も確かにこの目で一部始終を見た!なのに。それなのにどうして!?」

困惑と喜びが入り交じった口調でそう言い放っても何の返事もない。ただカップをすすっている。

あぁ、そうだ。ここでは彼女の作法に従わなければならないのだった。俺は静かにもう1つの椅子に腰かけた。それと同時に湯気を立てたカップが目の前に現れる。もうこの程度のことは慣れっこだ。

俺はそれを一口すする。

「久しぶり、恭弥」

由奈が微笑む。

ああ。由奈だ。本当に。

さっきはあんなに問いただしたいことがあったのに、今は声が出なかった。

「今の私は半分、死んでいるようなものよ」

由奈は一方的に語り出す。いつもそうだった。俺は毎回、置いてけぼりだ。

「あなたの存在と、この館が私を引き止めている。どちらかが欠ければ、消えてしまうわ」

由奈はまっすぐに俺を見つめる。

「恭弥、もう一度私を蘇らせて。まだ戦いは終わっていないわ」

由奈の言葉は圧倒的だ。どんなに理不尽でも、無茶苦茶でも、俺を納得させてしまう。

昔の俺なら、訳のわからないまま承諾していただろう。

それでも今は。

今は何かが引っかかる。

「由奈。また俺にそんなことをさせるのか?」

「どういうこと?」

「また、俺を散々に振り回して、消えるのか?」

「あなたも納得の上だったでしょ」

「二回目があるとは聞いていない!」

俺は声を荒げた。そうして初めて俺は怒っているんだと気づいた。

「俺が、俺がどんな思いをしたと思ってるんだ。由奈が、由奈が...」

「恭弥」

由奈が微笑んだ。それだけで俺は何かに引き込まれてしまう。

「ごめんなさい」

俺は驚いた。由奈がこんなに素直に謝るとは思っていなかったのだ。

「私はあなたを苦しませたわ。私はそれを分かっていて、でもあなたを頼った。そしてあなたを裏切るようにまた頼ろうとしている」

由奈は目を伏せた。由奈の表情はよく見えない。

「それでも、恭弥」

冷たい刃物のような声色が部屋を揺らした。

「あなたは私を助けてくれるわよね?」

由奈はずるい。簡単に俺は由奈に流されてしまう。いつも由奈は無茶苦茶だ。強引で、俺のことなんて何も考えていない。だとしても。

「分かったよ...」

「ありがとう、恭弥」

由奈のお礼は俺には白々しく響いた。

「それじゃあ、一から説明してあげるわ」


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