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光の誘い

女神のように口許に柔らかな微笑みを浮かべている彼女に、幼いユナも一瞬見惚れたが、それ以上に彼女から感じる優しさではなく、それこそ目の前に大蛇が今か今かと獲物を口にしようとしてるかのような、威圧を感じて、ユナはこの場から逃げ出してしまいたい衝動に駆られていた。だが、ユナの身体は金縛りにあったかのように動けず、ただ呆然と彼女を見あげる他なかった。


そんなユナに、ナギは殊更優しく口角をあげてニッコリと微笑んだ。それだけなのにユナの背筋から大量の冷たい汗が吹き出して折角乾いた服がまたしっとりと濡れていた。


ナギは微笑んだまま、ユナの手を握って、彼の耳元に唇を寄せた。いくら恐ろしく感じるとはいえ、間近の美少女の顔に、ユナはたじろぐ。先程は金縛りにあったように動かせなかった首も、なんとか動いて、辛うじて彼女から首を反らせ、俯いた。


「まぁ、そうなったら大樹は枯れてしまうだけさ。でも、大丈夫」



「大丈夫‥って、大樹が枯れたら里の一大事なんじゃ‥‥」


唇が震えていた。声は掠れている。怯えているのが一目でわかるであろうほどに震えている。そんなユナに対してナギはあっけらかんと言い放った。


「そりゃあ、まぁ、そうだね。

大樹が枯れる影響は大きい。この辺りの里一体の守護がなくなって、闇の神の支配圏に落ちることだろう。」



彼女は事も無げに答え、君は何を当然な事を言っているのだろう?と心底不思議そうに小首を傾げていた。


「だけど、それはさぁ、大樹の精を殺してしまえばの話。殺す訳じゃない。ほんの少し角を削らせてもらうだけだよ。」


「そ、それなら、里は大丈夫なの?」


「そうだね。それならまぁ、平気さ。ただし、番人からすると、大事な主に何かあったら事だろう?だから、大樹の精に()()()人間がいれば、それだけで殺すだろうね。」


ふふ、と今度は心底楽しそうに笑って、その優美な手でユナの赤い頭を撫でた。


「‥‥‥っ、そう、なら僕はリーンゼィルさんがいない時に、その一角馬を見つけないとダメなんだね」


一角馬。聞いたこともない。想像もしたことのないモノを見つけその角の欠片を手に入れるなど本当に自分に出来るだろうか?不安しかない。それでもほの暗い野望が微かに出来た。


「そうだよ。ユナは賢いね。

まぁ、番人でも滅多と会えないと聞くし、難しいだろう。けれど、頑張って。応援はしているよ」



とてもとても、心の込もっていない応援だった。だが、ここにもし友たちが居れば、きっと「頑張って」などではなく任せろと言われるだけで、後ろに下がって何も出来ずに見るだけしかできないだろう。

任せるだけなのは嫌なのだ。だから、どんな意図をもって彼女が教えてくれてるかはわからないけれども、ユナは、本心からお礼をいった。


「ありがとう、ナギ」


それにほんの少しだけ彼女は面食らったようでその綺麗な瞳を大きく見開いた、ユナは意趣がえしのつもりではなかったのだが、くすりと笑った。彼女はまたすぐに切り替えて微笑む。


「ふふ、お役に立てたなら、それは良かった。

それでさぁ。ボクね。そろそろこの姿に疲れちゃったの。

もう、ボクという存在に慣れてくれただろう?だから、元の姿に戻るね」


そう言ってユナの返事も聞かずに、ナギは人の形から元の光の玉に戻り、ユナの周りをくるりと回った。それから、ユナの様子を見て


「うん、もう驚かないよね」


からかうようにユナの周りをもう一度回ってみせた。


「…」


ユナは目を見開いて口をはくはくと動かして、でも、声がでずに、少し泡を吹いて垂れ流していた。


「あぁ、そっか。溺れたせいで体力が削れててあんまり叫べないんだね。残念。それで、大丈夫かい?」


ユナは頭を縦にゆっくり動かした。まるで、油の挿されていない古いロボットのようだ。


「……う、うん、もう大丈夫。大丈夫だよ。大丈夫さ。

光の玉が人になるなんてさ。やっぱり夢だと思ってたんだ」


脂汗が出ていた。


──ここまでくる間だって、恐ろしいものに対峙することだってあった。だから、これは、ただの火の玉だ。いや、元のナギの姿を思い出せ!

可愛い少女が、小さくなって光る玉になっただけ!いや、そっちの方がずっと怖いじゃないか!!


そんなに考えないようにと頭を振り、頑張って怯えている顔を隠そうとしているが、表情には現れていて、ナギは内心笑いだしそうになっているのを必死で堪えていた。小さくってユナには見えないけれども、口元をひくひくと震わせている。


「っ、へぇ、そ、そうなんだ。

人からこの姿になるのはそんなに驚くんだね。う、ぷふふ。ぼ、僕も勉強になったよ。」


笑いを堪えているせいか、途中で噛んでいる。それに、余裕のないユナは、気がつきもしなかった。


「そ、それは、よかったのかな??

あっ、そういえば、えっと、ねぇ、ナギ」


ナギと反対方向を向きながら、ユナは、ナギに話しかけた。


「ん?なぁに?」


彼女はユナの頭の辺りでくるくる回って遊んでいる。それでも、ユナは、ナギを真っ直ぐに見つめた。

泡はまだ口から垂れたままだった。



「ねぇ、ナギ、ナギは一体何者なの?

その姿もそうだし、大樹についても色々知っている。そんなの、人も、魔物も、妖精も精霊も聞いたことがないよ」


ユナは、先ほどの金縛りも完全に解けたのか、わずかに後退しながら、ナギに問いかけた。彼女は一度動きを止めると、ゆらゆらと炎のように揺れている。


「僕の存在の説明かい?まぁ、ここまでおも‥‥いや、怖がらせてしまったのだし、一応答えるけど、そうだねぇ、僕の存在はボク自身にもよくわからないんだ」


光の玉の姿なので、とても分かりにくいが、ユナにはナギが腕を組んで悩んでいるように見えた。嘘では無さそうだ。


「そうなの?」


「うん、そう。見ての通り人では無いし、神様でも無い。妖精でも無いし、精霊とも違う。

まぁ、君が心配してそうな魔物でも当然ないと明言しておくよ。」


「めいげん?」


「ん?そうか、僕が小さいから大きく見えるけど、君は年の割にはしっかりして見えるけど、まだまだ幼い子供だもんね。知らない言葉もいっぱいあるよね。」


「そ、そう?そんな幼くなんて」


「いや、充分過ぎるほど幼いから。」


光の姿でユナの頭にボスボスとのったり降りたりするので、髪がふわふわと乱されていた。


「まぁ、そうだなぁ。色々呼ばれているけど、ここ数百年は皆、僕のことを光の神様の御子っと呼んでるかなぁ」


「数百年?光の神さまの御子?」


「うん、そうだよ。神様の子供だね。

でも、ボクってさ。光の神は嫌いなんだよね。あの人って、すっごく偉そうなんだよ。」


心底嫌いだとばかりに彼女は神様を罵る言葉が次々と溢れだした。


「ねぇ、ナギは神様の子供なら。それならナギは神様に会ったことがあるの?」


「あったこと?大昔に‥‥ね。」


「でもいるにはいるんだよね。

なら、神様は、どうして父さんを助けてくれなかったんだろう?闇の神様の侵入を防ぐには僕の村の楔はカナメだっておじいさまが昔言ってたよ‥‥。なのに、どうして‥‥‥??」


「そう。そっか。ユナは、最果ての村の子なんだね。」


そういって、ナギの光の色が虹色から金色へと変わったけれども、ユナは、涙が溢れそうで、彼女の方を見れずにいた。


「可哀想なユナ。でもね。申し訳ないのだけれども、この世界には確かに神様はいる。

けれども、皆が思うような、万能ではないんだ」


「ばんのうじゃないの?神様なのに?闇の神様の方がつよいから?」


「いいや、彼らは双子だからね。相反していても力自体は一緒だよ。

でも、君の村の場合は本来いてはならない異分子が混ざり混んでいたのさ」


「いぶんし??」


「あぁ、そうさ。本来あの村に入っていてはいけない存在だよ。

だから結界は破れてしまった。

まぁ、だれが、「それ」を引き入れてしまったのか。それは僕も知らない物語だよ。」


そう言って、彼女はユナの頭を撫でるように揺れた。



「入ってはいけない存在‥‥‥闇の神様を誰か入れたってこと‥‥‥‥?」



スッと、ユナの顔色が白くなっていた。



「いいや、それはね。」


赤い髪の上で彼女は怪しい光を放っていた。








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