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大樹の森=Ⅶ=

リーンゼィルの指笛に呼ばれ現れたのは、豪奢な紅に青やみどひりの差し色が入った、美しい怪鳥だった。金色の尾を自慢気に広げ、そしてその大きな嘴から放たれたその鳴き声は、最初に彼の家まで運んでくれた鳥と比較にならない程大きい。


彼は急今一度翼をはためかせ上昇して急滑空すると、そのままリーンゼィルの肩を掴かんで、あっという間にまた空へと舞い上がった。

リーンゼィルが、「光苔の湖へ」そういうと更に最初よりも、更に大きな鳥は、その大きな見た目にもかかわらず素早く動き、器用に枝葉を避けながら空を駆け抜けていく。ユナは声をあげる余裕もなく、あまりの早さに息が出来ずに口を何度も金魚のようにパクパク動かすのが精一杯だ。それでも上手く呼吸が出来ずに白目を向いて泡を吹いていた。


一時、失神していたユナの意識が戻る頃には、黄昏の光を受けてキラキラと光る黄金尾が見えて‥‥

その僅かな合間に、突如リーンゼィルの焦った声が聞こえた。


「おい、ちょっとまてって!!?」


それと同時に、重力に引かれる感覚と、ついで派手な水音が森に響きわたった。突然の衝撃に何ひとつ出来ぬまま、ユナはまた意識を手放していた。








──────








湖から、金色の長い髪が浮き上がってくる。リーンゼィルは、水から浮き上がるとゲホゲホと水を吐いた。髪が、身体に張り付いて鬱陶しそうに振り払うと、空を見上げた。


「げはっ、おい!レイ!!

誰が湖に投げ込めって言ったよ!」


空中に滞空する赤い色の鳥は、困ったようにリーンゼィルに向かって苦情を言うように鳴いた。



「え?いつも湖に行くときは投げていいって言ってたって?」


何度も頷いて、したり顔でレイと呼ばれた鳥はまた一鳴きする。


「そういや、言ってたな…、いや、言ってたけど一人連れてただろ?」


まるで人間が首を傾げているかのように、レイは首を傾げてくるくる鳴いている。


「え、そんなのいないって?」


自分の腕を見るが、確かにユナがいない。


「あれ?いない?あっ」


衝撃でうっかりユナを手離してしまっていた。


「あ、本当だ。」


それでレイはリーンゼィルの肩を怒ったようにつついた。ごめんって、と謝りながらレイをいなして、「あっ、あっちにタモが泳いでる」好物の魚で釣ることにした。言われてレイは指差された方へと喜んで飛んでいった。


「さてとー、」


呼び掛けたら浮いてくるかな?


「おーい、ユナーーー?

早く浮いてこいよーーー」


湖に向かって呼び掛けてはみたものの、いつまで経っても赤髪の少年は浮かんでこない。


「なんでだ?」


うーん、ガリガリだし小さいからかねぇ。空気を含まないような服装だったから沈んじまったのか。

まぁちょっと待てば浮かんでくるだろう?



しかし、待てど暮らせどユナは浮いてこなかった。




浮かんでこない…泡も浮かんでこないな。

流されたか。闇雲に探すには広すぎる湖で、リーンゼィルは、しかたなさそうに青い笛を取り出して吹いた。それで、ひょっこりと愛らしい瞳のなにかが湖から此方を見ていた。


「おいで、アース。」


彼の声が聞こえたのか、それは、湖から飛び出してきた。大きさは3メートルほどの巨体。真っ白な身体に、青いラインが入っている。顔は愛らしいが、口から飛び出している牙は全くもって可愛らしくなかった。


「赤い生き物が流れてこなかったか??」


それに、こくりと頷いて。


「魚に食われてない?」


アースは、天を見上げた後に、またこくりと頷いた。


「じゃあ、そこに連れてってくれ」


といってるそばから、アースは、リーンゼィルを湖へと突き飛ばした。僅かな瞬間にリーンゼィルは、大きく息を吸うと、淡く輝く水の中へとアースに引きずられて潜水していった。


湖の底は、岩が光っているため陸地よりずっと明るくなっている。辺りの岩には、光苔と呼ばれ、自ら発光する苔が大量に生えていた。

この光苔は、大樹の枝葉に隠れて太陽の光を浴びれない木々や草に、光を与えていた。代わりに、苔は草木の出す酸素や、木から落ちた葉が苔の栄養として分け与えている。、リーンゼィルも幼いときから、光苔の恩恵をうけていた。

大昔の光苔のない代は、闇夜を見る眼を持っていたが、光の王より賜った光苔が溢れてからは、眼も退化し、これ無しには、真っ暗な森の中を生きるのはなかなか酷になっていた。だから、近隣の光苔を見かけては肥料を撒いたりしている。


さて、そんな光苔の湖の中でアースに掴まりながら、リーンゼィルは、ユナを探して回る。アースの泳ぐ速さは、リーンゼィルより当然遥かに速いので、助かるのだが、速すぎて水中での探し物は中々骨の折れる作業だった。


さてと、赤色、赤色ーっと。


水草が、もっさりと生えていて、底が見えにくい。

助かるのは、それでも派手な色の水草が、少ないことだろう。これで、赤やら青やらと色々なカラーの生き物がいたら、捜索は更に困難になっていた。


しかし、こんだけ長く沈んでいるのに生きてるかねぇ。


そんな不安がよぎる頃


アースの超音波が耳に響く。居たようだ。


お!本当だ。赤い髪が見えた!なんか凄い派手な水草みたいになってる。

っていうか


『魚に襲われてる?……』


さて、どうしたもんかなぁ?

神様の忌み子なんだろう?赤髪は。


魚に喰われかけるなよ。


何度となくアースよりも更に巨大な魚や、鋭い牙をもつ者がユナをエサと見なして牙を向いていた。

しかし、それでもある範囲から、近づけないでいる。


「??」


なぜだろう。早く浮き上がらせないといけないのに、近づいてはいけない気がして、リーンゼィルは、アースを止めた。

それで、また飛びかかった魚が、細切れとなっていった。


「!?」


見えたのは、赤い髪が、ユナの回りを丸い卵のように囲んでいた。それに近づいた魚は一瞬で割かれて小さな小魚のエサになっている。


どうやら、小さな魚は敵と見なされずにいるみたいだ。

だが、どのみち、このままいけば溺れ死ぬだろう。


「やはり、どんなに幼くとも女神の忌み子か。」


アースに、ここで留まるよう指示をだすと、リーンゼィルは、また懐から取り出した金色の笛を口に加え、今含んでいる空気を一気に吹き込んだ。


すると程なくして、ほとんどの巨大魚が気を失って、ふぷっかりと泳げずに水面に浮かんだ。


それのショックで、ユナの髪もち大人しく元の髪へと戻ってゆっくりと水面へと浮かびだした。リーンゼィルは自身の酸素もないので、慌てて赤髪掴むと酸素をもとめて浮かび上がって、慌てて息を吸い陸へとアースに運んでいってもらった。




──────




陸地に上げると、ユナは動かなかった。

顔色は青ざめて血の気は引ききって青を通り越して白色だ。呼吸は見ての通りなかった。

リーンゼィルは、ユナの額に手を当て、反対の手で顎をあげると、大きく息を吸ってユナに何度も息を吹き込んだ。それを何度か繰り返すと凄い勢いで水をぴゅーぴゅー吹いていて、咳き込みだした。その姿に安心したのかリーンゼィルは吹き出していた。


「ぷはっ、ははっ、大丈夫かよ…」



腹部を軽く押してやると、更に面白いほど水を吐き出して、何度も咳き込んで此方をみた。金色の瞳が真っ直ぐに此方をみて、不思議と光って見えた。


「よし、もう大丈夫そうだな」


「ゲホゲホ、ゲボっ」


何度も咳き込むユナの背中をトントンと優しく彼は叩いてやった。すると、まだ水がこの小さな身体にどれだけはいっていたのかと思うほどに、勢いよく水が口からあふれでた。


「もう大丈夫だから、しっかり吐き出せ。」


何度も何度も吐き出すユナに根気よくリーンゼィルは、背中を撫でてやった。漸く落ち着いた頃に、ほっとリーンゼィルは、肩を撫で下ろした。

ずっと濡れていたせいだろう。ぶるぶるとユナは震えた。それに、リーンゼィルは、自身とユナの服を全て脱がして出来る限りの水を絞ってやり、自分の大きな服を肩からかけてやった。


「すこし、横になっていな。

火を用意してやるからさ。」



こっくりと頷くユナを確認すると、リーンゼィルは乾いた薪を求めて森の中へと向かった。




──────



湖の近くの木々はどうしても湿っていて使いづらいこと、それについで、ユナの友をついでに探しておくため、彼は少し離れた場所まで歩いていた。

しかし人の気配はまるでなく、獣たちに聞いても人間自体がきていないという。

となると、他の湖か。ユナは、友とはなれ急斜面を転がり落ちたという。しかし、最初にユナを見かけたところは光苔の湖の近くの湖ではない。

それどころか、斜面さえない、あそこは番人でさえ入ることが憚るところだ。


珍しく物音と、獣たちが騒いだから向かったが‥‥‥


どうやって入ったか不思議だった。


でも、

鈴の音色。

白い人

怪我を治癒できる人

瞬時に移動できる能力



それは、リーンゼィルの中では一人しか知らなかった。

だが、その真相の究明は今は急ぐべきことではない。

少年の友、その子供達にも、情報を聞いてからでも充分だ。


「しかし、精霊の巣の辺りでないといいんだがな‥‥他にも探すとなると、もうすこし他にも手伝ってもらおうかな」


リーンゼィルは、緑色の細い筒を咥える吹くと、

やはり音は聞こえない。しかし、しばらくすると、銀色の毛並みの大きな大きな狼がこちらへと走ってきた。

両腕を広げれば柔かい毛並みの獣が嬉しそうに走ってくる。「フェイン!」そのふわふわの毛並みに顔を埋めてリーンゼィルは嬉しそうに全身を撫でてやる。


「フェイン!久しぶりだな」


フェインと呼ばれた銀色の狼は、真っ黒の鼻をリーンゼィルの頬に擦り寄せ、彼は、そのふわふわな頭をワシャワシャとかき混ぜ何度も撫でてやった。納得いくまで撫でてやると、フェインは鼻を鳴らしてリーンゼィルに何かを伝えた。


「そうか…、わかった、ありがとう。誰か侵入者はいたか?」


首を横にふり、一度吠えるとそれで、リーンゼィルには伝わった。


「そうか!ありがとな」


ふーん、フェインの縄張りにはいない。

となると、残る光りの湖は、やはり風の精霊の縄張りか………確か風の精霊が侵入は容易くない。まず、あの急斜面を登れるものはいないと豪語していたのだけど‥‥‥。


…小さな子供が登っているようなんだが‥‥大禍時の後でからかってやろう。


それにしても、本当に気まぐれな風だ。いつもより遅いのは助かるが、やはり幾らも時間をかけていられないな。早くそのオトモダチを見つけるしかない。


考え込むリーンゼィルの頬をフェインが舐めました。

急にフェィンが湿った鼻先をリーンゼィルの手に押し当てた。


「ん?ありがとうな。あぁ、俺は大丈夫さ。行こう」


フェインの頭を撫でて、集まった薪を背負うとリーンゼィルは、その場を後にした。


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