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大樹の森=Ⅵ=

「大禍時…?」


聞き覚えのない言葉に、ユナはより一層混乱していた。なぜ、ここから出してもらえないのかわからず、あの冷たい監獄とは異なるが、また閉じ込められるのかと身体が凍りついていた。

その様子の変わったユナに気づいてリーンゼィルは、ユナに落ち着くようにと、頭を何度かかき混ぜて困ったように笑った。


「出せないのはそれが、過ぎ去るまでの間だ。後はお前の好きにするがいいさ」


「あっ、その‥‥すみません。解らなくてごめんなさい。その大禍時ってなんですか?どうして外に出れないんですか??よく解らないです」


「ん?知らないか??森の外からでも見えてただろう?」


ユナは村から遠く離れた大樹を思い出してみた。それは、それは、大きな樹だ。あんなにも離れていたのに、それでもとても大きくみえていた。

その大樹以外にみえているもの。

天を、雲を貫いた枝葉の先は不思議と見えなかった。

じゃあ、後は‥‥‥


「え?あ、えっとぉ、遠くからでも、見えるもの。しかといつもみえるものじゃないとしたら、

もしかして、もしかしなくても‥‥‥あの、竜巻とかですか?」


「おう、それだ。あれが現れると外には出たくてもでれないからさ。」


とてもあっさりと答えているが、森にずっと住んでいる彼の言葉は重かった。



「あの竜巻が、もうすぐ来ると??」


「そうだ。流石にこれは知っているだろうが、この森には風の精霊達が住んでいる。

そいつらの力が、時折余ってな。

暴走してしまう刻があるんだ。それが禍時だ。

そして、その最大級の刻がもう少しで来る大禍時だ」


「あ、あれが、すぐそばで‥‥

その、それってその、人がその竜巻にいたらどうなります?」


「まぁ、人間なら粉々だな。下手すりゃ、俺達番人でもただじゃすまないというか、死ぬな」


彼はあっけらかんと答えた。



「その、リーンゼィルさん、僕実は‥‥」


「ん?なんだ??」


「実は‥‥その、僕この森に、一人できたわけじゃなくって‥‥」



ユナは、ザックリとリーンゼィルになぜあそこにいたのか、大まかに説明し、彼は目を見開いたのち、叫んでいた。


「!?仲間ときてはぐれていたのか!?っていうか仲間いたのか??」


じっと、リーンゼィルの目が赤い髪に向かっていた。

それに気づいてユナは目をそむけて、「シン達は僕がこうなる前からのお兄さんなんです、ぼくの髪が変わったくらいで見捨てたりなんてしません!」怒ったようにそっぽ向いた少年に苦笑して、彼は謝った。


「そうかい、悪かったよ。そりゃそうだよな。お前一人でどうやってここまで来たのか不思議な程だったから、それで納得がいった」


そりゃそうか、と彼はおおらかに笑うと、「それで、どこではぐれたんだ??」そう、リーンゼィルが問いかけるが、ユナには正直ここがどこかさえもわからないのに、そんなこと言われても答えようがなかった。


「ん?、あー、悪いな。人間には森の地理は解んないもんな。じゃあ、何か目に着いたものはなかったか??」


「‥‥‥」


あれ?人間には??いや、きっとかの森の外のことだろうな。あの時は、何が見えたろう?

リノが、よくみていたけれど、そう、確か森ら暗いのに湖面は凄く輝いていて、それで、そう。とっても大きな魚がいたっけ。


「あ、……えっと、目についたものは、ほとんどなかったかな。でも、その‥‥確か…光っていて大きな魚のいる大樹の湖の前です。それで、鈴の音に気を取られて坂から転がり落ちちゃって……」


そう。でも、そういえば、音以外にもおかしなことがいっぱいあった気がする。どうしてか、そこだけ思い出せなかった。


「光る湖‥‥か。それは何色かわかるか?」


「えっと、確か‥‥綺麗な水色のような緑色‥‥かな?」


たしか、水の底から輝いてて、魚がくっきりと見えていたのだけは、頭に残っていた。


「そうか……ふむ、それでいくらか絞れるが、光る湖。何ヵ所かあるな。

しらみ潰しに行くしかないか。しかし、鈴の音か。俺は聞いたことがないが、それに気を取られて転がり落ちたと??」


「そうです。

凄くリンリン鳴ってて…

でも、仲間達も誰も気がついてなくて、どうやら僕だけ聞こえていたみたいです。

それで、気がついたら、落ちていました」


思い出しても恐ろしい。

あんな風に転がり落ちるのはもう勘弁願いたい。身体を眺めてみたが、もうその傷は夢の幻のようになくなっていた。まるで、あの死にかけていた自分が嘘だったかのうようだ。


「滑り落ちたって、どこも落ちれば大怪我だぞ。なのに、……、お前、怪我がほとんどないな」


リーンゼィルは、ユナの服を軽く捲って身体を再度確認するが、擦り傷さえない。幼く柔らかな肌しか見えなかった。


「あれ?そういえば……」


いや、確かアンジェに引きづらりまわされた痕もない。そうだ。僕はもっとずたぼろの頭陀袋みたいだったのに……その擦り傷も消えていた。あれは、本当に夢だったのだろうか??ユナがそんな風に自分を疑いはじめていた。


「うーん、お前は運動神経悪そうだしなぁ。ふむ?しかし服は引きづりまわされたかのように、ボロボロだから……、落ちたのは、おちたのか??

運良く怪我しなかったとか?」


「え、いえ確かに怪我はしていました!

あっ!!そうだ!そういえば、リーンゼィルさんに会う前に真っ白で綺麗な人に会いました。なんというんだろう、そう。まるで、妖精のような人でした!!」


なんで、その記憶が消えていたのか不思議な位、白くて綺麗な人だった。

あ、そうか。最初はあの人、確か火の玉っぽかった。それが、こわくて‥‥あっ、


これは、今言ったら言うべきではなかったかな‥‥?



「……白い人??」


やっぱり言わなければ良かったかも。リーンゼィルさんの目がすごく鋭くなってる。


「お前。白髪の人に会ったのか?」


リーンゼィルはそれはそれは神妙な顔で訊ねた。その時の表情は、先程の笑みはなくなり、表情が抜け落ちていて、人ではない別の何かに見えて、酷く恐ろしかった。


「え、あ、その、‥‥」


ユナは顔を青くして後ずさりしていた。先程の温かい空気が一瞬で凍りついたのを、肌で感じていた。

それに気がついたのか、はぁ、と彼はため息をついて、頭を被り降った。

それで、また先程の穏やかな男に戻っていた。


「ごめんな。怖かったろう?」


ユナは、慌ててぶんぶんと勢いよく首をふった。


「無理をするな。青ざめている。

まぁ、それはそうと、時間もないし。

その人については、お前の友達を見つけてから話そう。」



何度もこくこくと、ユナは頷いてリーンゼィルは苦笑した。



「じゃあ、お前の友達をしよう。

ユナ、何かその友達の匂いがわかるものはないか?」


「え、持ってなるかな??……うーん、匂いが残っているかはわからないけれど、そう言えばこの服とか全部、友達にもらったんです。もう、10日程たっているから、匂いが残っているかはわからないけど」


そう言って頭に被っていたパイロット帽子をリーンゼィルに差し出した。それで、リーンゼィルはまぁ、大丈夫かと、言ってユナを掴んで虚の外へと出てきた。軽く子猫を掴むように首根っこを摘ままれたまま、ユナは唖然としていた。それで、今度はそのまま彼はユナを掴んだまま大樹から飛び降りた。勿論命綱なんてない。


突然の飛び降りにユナの脳みそは着いていっていなかった。あれ?あれ?あれ??

地面が近づいてくるのは、一瞬だった。その手前で、リーンゼィルは大樹を蹴って別の樹に飛び移り、それを繰り返して地に降り立った。


ユナは、その樹の降り方をする意味がわからなかった。


「な、なんでリーンゼィルさんは、ロープとか使わないんですか??」


声は震えていた。

「え?めんどくさいだろ?この方が早いしな」


「そ、そうですか」


自身の常識と、彼の常識が異なることにユナは、ようやっと気がつき始めていた。


「ほら、ユナ、見てみな」


「はい?」



リーンゼィルの指差す方向には小さな風の渦、つむじ風が出来ていた。


「これが、出来始める。今は乾いた空気だから、その頃までなら、ここに戻れる。」


「これは?」


小さな可愛らしい渦に、そっと、手を伸ばそうとして、彼に怒られた。


「こら、迂闊に触るなよ。それだけでも精霊の力の余波だ。指くらいなら捻りきられる」


「ひぇ」


「まぁ、今はそれくらいで済むが、問題は、空気の匂いが変わり始める頃だ。」


「え?これだけでもそんなに強いのに‥‥なにか、変わるときってちがうんですか??」


「あぁ、そうさな。風に水が絡んだような独特の香りがする。その前にここに戻れれば一番だ。だが、まぁ、難しいだろうな。」




彼は腰に下げている革の鞄から長い銀色の細長い物をてりだして、口づけた。勿論先程と同じで、音はわからなかった。


また、あの大きな鳥??



しばらくすると、ふわりと小さな真っ白な鳥がリーンゼィルの肩に留まった。



「もうすぐ禍時なのに、悪いな。」そういってユナの頭をつかむと、「この帽子のこの子と違う匂いの奴を探してくれ」


ピーっと可愛らしく鳴くと、トールはすぐさま飛び去っていった。


「かわいい」


思ったことが、口からもれていた。



「さてと、俺たちも空から行くか」


ニッコリいい笑顔で笑うリーンゼィルに、あっ、やっぱり、と、あきらめたように、ユナは肩を落とした。それで、愉しそうなリーンゼィルの腕に大人しく掴まれ、目を閉じて彼の腕をがっしりと掴んだ。





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