6話
賢さの種が戦士ルイの顔つきを変えるまで、実に一週間の山ごもりを余儀なくされた。
ようやく馬車の中から解放されて喜色満面の戦士ルイを尻目に、幾分かやつれた趣の魔物使いヌランが口を開く。
「で、次はどうするの?」
「予想以上に手間取ったけれども、予定通り次に向かうわ」
賢者イオナの発言に、戦士ルイが興味を示す。
「今度はどこに行くの?」
「行ってから説明するわ」
言うや、またもや賢者イオナは、前触れもなく転移の呪文を唱えた。
瞬きする暇もあればこそ、着いた先は港だった。
船着き場には、勇者の所有する船、シーブレイブが停泊している。
「さぁ、船旅の始まりよ!」
三人への説明はなされないままに、船は沖へと船首を向けた。
海上にも襲い来るモンスターは多種多様に存在する。
空からやって来る鳥や翼竜に、海に潜む化け物の類いとバリエーションには事欠かない。
結局賢者イオナによる説明は、「見れば分かるから」の一言だった。
一行はただただモンスターをやり過ごしながら、船旅は二日目を迎えていた。
その日、真っ先に異変に気付いたのは、物見台で見張りをしていた侍セキだった。
「むむ……新手!」
叫びつつ、侍セキは物見台から飛び降りた。
そのまま音もなく着地するのと、いたいけな海生ほ乳類の背中に乗ったモンスターが甲板に飛び乗るのとは、ほぼ同時だった。
そのモンスターは、人のような外見をしていた。
ただしぼろ布を纏っただけのそれには肉がない。
生ける屍だ。
人は彼らのことを、海賊ゾンビと呼ぶ。
海賊ゾンビはいにしえの武具、刀を獲物にしている。
それを目にした瞬間、侍セキは賢者イオナの意図を察した。
「まさか」
「まさかもなにも、それしかないでしょ」
船室から飛び出して来た賢者イオナが、侍セキの独白に答える。
「海賊ゾンビの刀から、使える物を見つけ出す。見つけ出すまで、この海域を放浪し続けるわよ!」
不意打ちを成功させた海賊ゾンビが先制攻撃をしかけてくる。
侍セキは、錆びた刀で斬撃を受け止める。
「この刀は、もう死んでいる……」
失望を顔ににじませながら、侍セキは斬り返す。
海賊ゾンビは一撃で背骨を切断されて、のたうち回った果てに二度目の死を受け入れた。
「さぁ、どんどん行くわよっ!」
海上には、いたいけな海生ほ乳類の背中で物言わず刀を掲げる海賊ゾンビが、船を包囲しようとしていた。
絶えることのない海賊ゾンビの襲来を昼夜迎え撃ち続けて三日三晩が過ぎた頃。
一行は、自分たちが海を漂うゾンビになるのではと危惧し始めていた。
そんな折、侍セキは遂に一振りの刀に巡り会った。
「この刀……!」
永き時を経ている上に、海水に浸水していたという悪条件にあったにもかかわらず、その刀身の輝きは打ち立てのよう。漆黒の鞘の保存状態も良く、所有していた海賊ゾンビの生前を偲んで、侍セキは、人知れず手を合わせた。
「どう? 使えそう?」
問う賢者イオナに、腰に下げた状態から居合い一閃。
ちょうど真正面に立っていた戦士ルイが、危険を察知したのか脇に蹈鞴を踏んだ。
直後。
切っ先の延長線上にある物見台が、軋みだした。
「うそ……」
さすがの賢者イオナも、傾く物見台を見れば、呆然とするしかない。
柱を真っ二つに切断された物見台は、そのまま滑り落ちるように海の藻屑と相成った。
「うむ。名も知らぬのが惜しい刀。拙者、海骸と命名致す」
たいそうご満悦の侍セキに冷や水をさしたのは、魔物使いヌランだった。
「海骸は良いとしてさ。そのぺらっぺらの防具はどうするの?」
それに対する答えは、侍セキだけでなく賢者イオナも持ち合わせては居なかった。




