5話
転機は、ならず者の町アッパードで一行が馬車を手に入れた事だ。
勇者は馬車を手に入れるや否や、エステルキャッスル城下町の酒場に舞い戻り、仲間を一気に四人追加した。
一人は船乗りギィガ。
自分たちの船を持とう、という話が以前からあった。
それには船乗りの存在が不可欠だということで、四人の意見は一致していた。
二人目は戦士ロビン。
ルイとは違い、知性豊かな技巧派だ。
その二人の他に、侍セキと魔物使いヌランを加えた四人が新規メンバーだ。
一気に仲間が倍増して賑やかになったことに、ルイはただ喜んでいた。
その後ろ姿を、賢者になりたてのイオナは唇を曲げて見守っていた。
船乗りと魔物使いは局面によって明確な役割を持つ。今のメンバーでは覚束ない部分をサポートしてくれる人材と言える。
だが、戦士と侍は明確な戦闘要員。しかも前線要員である。
勇者が現在の前線に物足りなさを感じているのは、賢者の見識によらずとも、明らかに思われた。
大所帯になって数日経ったある日。サバン大草原の、ど真ん中での野営中のことだ。
仲間たちが寝静まった真夜中に、ルイは、揺れる焚き火をぼんやりと見つめながら見張り当番をこなしていた。
空には満天の星空。空気は澄み渡り、乾いた風が、肌を優しく撫でる。
夜風に当たろうと、野営用のテントの幌から抜け出したイオナは、ルイに歩み寄る。
「ルイ」
声を掛けると、うっすらと微笑みながら、ルイがイオナの方を向いた。
「新しく加わった男共の事、どう思う?」
ルイはまぶたを一度、重たそうに瞬きさせて、首をかしげる。
「どうって……みんないい人だよね」
イオナが黙って見つめるので、ルイは反対側に首を倒して、口元に指を添えて考える。
「ヌランくんはしっかりしているし、セキさんは紳士的だし。ロビンさんは、いい人だし、ギィガさんは、頼りになるよね」
ほんわりとした綿菓子のような回答をするルイに、イオナは一つため息をつく。
「あんた分かってるの? あいつらはみんな、ライバルなのよ?」
ルイは、大きく目を見開いて、緩慢に瞬きする。
「ライバル?」
「そう、ライバル。今はまだレベルが低いから、あいつらは馬車の中だけれど、レベルさえ上がってきたら、今度は私たちが馬車の中かも知れないのよ」
「いやいや、そんなこと~」
「あんた本当に、少しも心配してないの? 勇者は、私たちだけじゃ不安だから、メンバーを足したのよ?」
「でも、そうだとしても、勇者様を守るのは、わたしの役目だよ」
そう口にするルイの目は、明日もまた変わらぬ一日が始まることを疑うことのないというような、そんな曇りない目をしていた。そんなものを見せられれば、イオナはなにも、言い返せなかった。
だが、ルイは、イオナの読みが正しかったとすぐに知ることになる。
一人前の戦士として成長を遂げたロビンは、ルイ以上の頑強さで、勇者の隣に立つようになった。
その段階で、ルイの居場所は馬車の中へと移った。
そして、馬車の中で三角座りをして揺られる日々も、長くは続かなかった。
ヌランが初めてモンスターを手なずけたとき、馬車から一人、降りなくてはならなくなった。
候補に挙がったのは、装備の入手が困難と分かった侍セキ。
賢者になったイオナと比べると、後方要員としては見劣りするクリス。
そして、ロビンと役割が重複しているルイだ。
セキは、まだ伸びしろがある。それに、まだ、強力な武器防具が手に入る可能性もあった。
クリスは、長い僧侶の経験は伊達ではなく、イオナと比べてまだまだ回復魔法に秀でている。安全な冒険を続けるには、馬車の中にでも待機してくれていれば、依然心強い存在だった。
となれば、やはり、優先度で劣るのは、ルイだった。
ルイはその日から、結局一度も勇者のパーティに戻ることはなかった。
毎日毎日、冒険者の酒場に通うだけの日々。
ミルクをちびちび飲みながら、勇者が来るのを待った。
最後に勇者に会ったのは、彼らが魔界に出立する前日の、決起集会の席だった。




