4話
ルイは、勇者が旅立つ折に結成した初期パーティの一人だ。
他にはイオナと、魔界へ勇者と共に行った、後の正賢者となるクリス。
その四人で旅は始まった。
はじめてエステルキャッスル城下町から足を踏み出したあの日。
はじめてモンスターに遭遇した時のことだ。
現れたのは、ゼリー状のモンスター、スライム一匹と、人面の動く木の根、マンドレイク一匹。共に膝丈ほどの体高しかない。
いくら初心者冒険者とはいえ、強敵とは言えないお手軽なモンスターだ。
だが、マンドレイクの悲鳴には気をつけなければいけない。
それを耳にした者は、最悪の場合、死に至る。
「よし、僕はスライムを片付ける! ルイ、クリス、マンドレイクを任せた!」
スライムは勇者の一撃でたやすく粉砕された。
マンドレイクも、ルイとクリスの二人がかりならば、相手が行動する前に充分倒せる。
そういう目算での命令だった。しかし。
クリスが杖でマンドレイクを殴る。そこまでは良い。
ルイは、身を守っている。
その姿を後ろから眺めていたイオナは、目を見開いた。
ルイは、身を守っている。
次の瞬間、マンドレイクの絶叫が耳をつんざいた。
そこで、イオナの記憶はぷつりと途切れた。
次にイオナが目を覚ましたのは、城下町の教会内だった。
勇者とクリスがほっとした表情でこちらを見ている。だが、一人足りない。
「あれ、ルイは?」
イオナの問いかけに、勇者は苦い表情でイオナの背後に目をやる。
促されるように振り向くと、そこには棺桶があった。勿論、ただの空の棺桶であるはずがない。
「クリスは僧侶だからか、マンドレイクの悲鳴を聞いても大丈夫だったんだけれども、僕も死んじゃってね。みんなを復活させてあげたいんだけれども、ほら、お金が」
皆まで言わなくても分かる。
旅立つために装備品を集めたばかりで、お金に余裕がないことはイオナも知っていた。
「むしろ、よく二人分のお金が残ってたわね」
苦笑混じりに言うと、クリスが肩を竦める。
「ずいぶん不経済ですが、装備品を売りました」
「マイナスからのスタートだね」
「と、いうことは……」
三人の視線が、棺桶に集まる。
「ルイには悪いけれど、しばらくこのままだね」
そうして小銭が貯まるまで、ルイは棺桶のままだった。
そんな最悪の出足だったにも関わらず、勇者は辛抱強くルイを起用し続けた。
戦士の役割はほぼ敵を攻撃することに限られるので、細かい指示は無くてもどうにかなる。
いや、初戦の例からみても、戦闘に連携は必須だ。
よって、攻撃担当の相方たる勇者は相当の配慮を余儀なくされる。
それを破綻無くこなしていたのだから、やはり勇者は勇者だったと言える。
なぜ勇者は、そうまでしておつむの足りない戦士を重用したのか。
イオナには思い当たる節がある。
ルイが身を守るべきところで突撃したために、勇者が手傷を負った。
そんな戦闘後に、こんなやりとりがあった。
「ゆ、勇者様、ごめんなさいぃ。わたしがちゃんと、聞いてなかったからっ」
涙目のルイに、勇者は青ざめた顔に無理矢理笑顔を浮かべて手を振る。
「大丈夫大丈夫、ルイは気にしなくて良いよ」
「やせ我慢してまで、めっっっちゃ笑顔ね……デッレデレ」
そう呟くイオナの側で、クリスは苦笑と共に、勇者に回復魔法を唱えていた。
ルイがどんなにヘマをしでかしても、勇者は怒ることはおろか、注意することさえ一度もなかった。
イオナは、勇者が自分やルイのような女性を仲間に選んだのは、
単なる見た目の好みからではないか、
と、勘ぐっていた。
そして勇者は、自分のような女性よりも、素直で可憐なルイの方が好みなのだろう、とも。
そんな様子を見るにつけ、イオナとしては勇者の事を冷めた目で見てしまうのだが、ルイはというと感激したそぶりで、「勇者様、だーいすきっ!」などと口にしつつ腕に抱きついたりしているのだ。
そうなれば、勇者が余計デレデレすることは言うに及ばない。
しかし、そんな歪で不安定なパーティーが、いつまでも続くはずがなかった。




