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勇者の二軍  作者: せき
第四章 勇者と二軍
32/34

32話

 その階段は、異次元に繋がっていた。

 数歩上り始めたところで、周りの風景が一変したのだ。

 足下には確かに階段が伸びているが、周りは、一面の星空だった。

 瞬く星々に目を奪われ、戦士ルイがため息混じりに呟く。


「もしかしてこれが、さっきの夜の王の世界なのかしら」


「関係ないんじゃないの?」


 素っ気なく返す魔物使いヌランは、すっかり調子を取り戻している。ワイルドレザーが一部破損しているが、彼にとってはむしろ好都合だったかもしれない。バンド部がずれて、ちょうど乳首が隠れるようになっていた。


「しかし、足場がこの細い階段では、戦になれば絶対的に不利でござるな」


「神龍みたいに、宙で戦わせてくれれば良いんだけどね」


「心配せずとも、謁見の間にはちゃんと地面がある」


 魔界の極地にあって、どこか間の抜けた会話を続ける一行を、勇者は最後尾から黙って見つめる。

 これから向かう先には、勇者が敗れた唯一の敵、魔王が待っている。さりとて魔王との約束を違えて牢を出たことに負い目はない。自分より強大な相手と向かい合うことへの気負いもない。

 勇者はまたも、イザベラを盗み見る。鷹揚に笑うイザベラは、エリスとは似ても似つかない。勇者の唯一の心残り、生きる意味さえも、最早あってないようなものと成り果てていた。それでもまだ、イザベラを目で追ってしまう。どうしても、諦め切れないのだ。

 賢者イオナはそんな勇者に心底落胆していた。だが、それを仲間に悟られるわけにはいかない。彼女は勇者代行として、勇者の尻ぬぐいをする覚悟を決めていた。


 天の川を渡り、星々の輝きが遠ざかり始めた頃、その階段は唐突に終わりを迎えた。

 その水平線上に、深紅のソファに腰掛ける男が居た。


「あやつじゃ。あやつが、魔王じゃ」


 イザベラは平静を装ってはいたが、声は震えを抑えきれずにいた。それは、魔族となったイザベラの、魔族を統べる者への畏怖か、それともその絶対的な力に対する恐怖か。

 だが、そのどちらであろうと、賢者イオナには関係が無かった。魔王は倒すべき存在であり、強敵なのは百も承知なのだから。


「行くわよ」


 階段から一歩を踏み出す。そこは空の彼方の中空と見せかけて、足下の感触は非常に硬質だった。どこからどこまでがこの透明な床が広がっているのかは定かではないし、どの程度の衝撃を与えたら破壊されるのかも不明だが、それが判明するときは仲間の誰かが命を落とす時だと腹をくくる。

 二歩、三歩と歩を進める賢者イオナに、一行がついてくる。その様子を、魔王はソファに片肘をついて待ち構えている。勇者の事など既に眼中に無いらしく、その瞳はまっすぐに賢者イオナを見つめ、口元に不穏な笑みを浮かべている。

 彼我の距離が十歩を切る寸前で、魔王がその口を開く。


「おもしろい。実におもしろいぞ賢者イオナ」


 名指しされて、賢者イオナはふいに足を止める。機嫌良さそうに声をかけてきた魔王を、賢者イオナはまじまじと観察する。


「その動じなさ、ふてぶてしさが、全てを裏付けているというわけか、賢者イオナよ」


 なおも名指しで要領を得ない発言を繰り返す魔王に、賢者イオナは返事をする。


「魔王ともなれば、人間のことになんて興味ないだろうと思っていたけれど。私の何がそんなに面白いって言うの?」


「自覚がないわけではあるまい。いや、お前の過ぎた傲岸さは、今までやって来たことを当然のこととして認識しているのか。ならばやはり、お前はおもしろい」


 くっくっくと笑う魔王に、賢者イオナは首をかしげながら、もう三歩前に進み出る。


「私が魔王を前にしても怯まないのがそんなに面白いの? 自分の命を奪いに来た人間を目の前にして、ひどく余裕なのね」


「ほら来た、お前は既に俺に勝った気でいる。それがまずあり得ない。おもしろすぎる。もう決めたぞ。お前は生け捕りだ。そして俺の后にする」


 魔王の宣言に、賢者イオナは思い切り顔をしかめた。


「やれやれ、種族の壁を感じるわ。どうやら話が通じないみたいね。もう良いでしょ、始めましょ」


 ちゃきっと聖女の杖を構える賢者イオナの大胆不敵さ、傲岸不遜さが、一行の精神的主柱である。何も言わずとも、侍セキと戦士ルイが賢者イオナの前に出る。その左手には魔物使いヌランとイザベラが、賢者イオナの指示を待っている。


「いいだろう賢者イオナ。お前はすぐに俺の前にひれ伏すこととなる。だが他の連中は要らん。喜べ、俺が直々に屠ってやる!」



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