27話
魔界にある四つの宮殿は、どれ一つとして同じような造りをしていない。
一行が口を開いて見上げるのは、全てが鉄で造られた、鈍色の醜い宮殿だった。
主城も鉄塔も物見櫓も全てが鉄板から成り、所々錆びている様などは、繁栄や栄華などとはほど遠いように見えた。
「不気味な城ね」
「侮ることなかれ。これこそが魔界の王城じゃ。地上の建物もさることながら、地下も野放図に広がっておるぞ」
賢者イオナの言葉にイザベラが解説を加える。
「地下かぁ。イザベラは、地下の隅々まで知ってるの?」
魔物使いヌランの問いに、イザベラは唇に指を添えて答える。
「まさか。セントラルパレスは、歴代の魔王が代替わりするたびに拡張されていったつぎはぎの城。全容を知っている者など誰もおらぬ。きっと魔王さえもな。だいたい、妾がここに来たのはこれで三度目じゃ」
「魔界四天王と言っても、辺境を守護するだけの閑職だったようね」
賢者イオナの棘のある言葉にも、イザベラは涼しい顔をして答える。
「うむ、優雅な暮らしじゃった。永遠の若さと美貌が手に入った上にのう」
言いつつ、侍セキの首筋に息を吹きかける。戦士ルイの目つきが険しくなるのを、イザベラはほくそ笑んでいる。
侍セキはイザベラの息から逃れるまま目の前の門扉に手をかけると、さして力を入れた風でも無く押し開いた。一行の目の前に、主城まで続く庭が広がった。
庭と言っても、人間界で言うところの季節の彩りを楽しんだり、草花を愛でたりするそれとは大きく趣が異なっている。装飾物はあるにはあるが、鉄のガーゴイル像が来る者を威嚇するかのように等間隔に並べられているくらいで、風流もへったくれもない。土壌は荒れ放題で、所々に毒沼らしき汚泥地帯が広がっていたりと、人間の感じる美はそこにはなかった。
だが、賢者イオナたちは、ここに観光目的で来たわけではない。
庭の先にある主城の扉脇に、鎌を構えた門番が二匹立っている。
接近する一行を嘲笑を浮かべて待ち構えているのは、四天王の敗北が知れ渡っていない証左か。
ともあれ門番二匹は、一足飛びに目の前に現れた侍セキの一太刀によって首を切り落とされ、己の死に気付くことのないまま絶命した。
侍セキの一太刀は、門番だけに止まらず、その背後の扉まで横一文字に斬り裂いてしまっていた。
ずぅん、という重い音と共に落ちた扉の先は、薄暗い闇が満たしていた。
こうして一行は、いとも容易くセントラルパレスに入城した。
呪文で灯りをともした賢者イオナは、瓦礫と化した鉄扉を跨いでから、イザベラを振り返る。
「さて、地下へはどこから行けるのかしら?」
「ほう、地下を目指すのかえ? 玉座は最上階じゃぞ?」
「とぼけたことを言うのね。私たちの目的は勇者の奪還。魔王に用はないわ」
「では、魔界四天王を訪ねたのには、よほどの用があったのじゃな?」
おかしそうに問うイザベラに、賢者イオナはため息を返す。
「全ては勇者奪還を円滑に進めるためよ。あなたも仲間になったし装備も充実した。でも魔王は別。魔界一強いはずの魔王となんて、会わないで済むならそれに越したことはないに決まってるでしょ」
「お主、自信満々のように見えて、実は小心者じゃのう」
イザベラの台詞に、賢者イオナはポカンとする。
「なに? 怒れば良いの?」
「今のお主なら、魔王を倒し、勇者として凱旋することも算段にできるじゃろう? お主の手腕はこれまでの旅でよく分かっておる。間違いなく人の上に立つ素質がある。お主にはそういう欲は、全く無いのかえ?」
試すような言葉に、賢者イオナは唇を曲げる。なぜここにきて、イザベラがそのようなことを言い始めるのか。賢者イオナにとっては不気味なことだった。だからこそ、賢者イオナは意志を強く断言する。
「ない。いいから、地下への道はどっちよ」
その言葉に、イザベラは目尻と口元に微笑みを浮かべて答えた。
「良かろう。こちらじゃ」
一行は、暗闇の奥へと足を踏み入れていった。




